【天海祐希さんインタビュー】幸か不幸かは自分次第。年を重ねて選択肢は減るけど楽になった

地図には載っていない薄暗くてどこか懐かしい路地を抜けると、そこに現れるのはどんな願いもかなえるという不思議な駄菓子屋。天海祐希さんは映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』で店主の紅子を演じた。
天海祐希さん
ジャケット¥105,600・シャツ¥55,000・ネックレス¥385,000/マディソンブルー パンツ¥74,800/ブロッブ リミテッド(アリジ)

「子供のころお小遣いを握りしめて、お店番のおじさんやおばさんに見守られながらお菓子を選ぶのが楽しくてしかたなかったなあ。あれが社会に触れた初めての場所だった気もするんです。今、駄菓子屋さんってすごく減ってしまいましたよね。だからこそ、あのころのワクワク気分がこの映画にも流れていたらいいな。ちなみに私が好きなのはね、麩菓子です」

まずその扮装を二度見すること間違いなし。きれいに結い上げた銀白の髪、ふくよかな頰に真っ赤な唇。手の甲の細部にいたるまで、3時間かけて特殊メイクを施した。

「鏡に映った自分を見てまず思ったのは、うちのおばあちゃんに似てる(笑)」


実は紅子は年齢不詳、いったい何者なのか、謎だらけだ。そして「お客様のかなえたい願いは何でござんす?」と、人の心の奥底に潜む欲望を見透かすように問いかける。では天海さんは今どんな欲を抱いているのだろう。

「この役をこんなふうに演じたい、天海祐希にこの役を、と思ってくださった人たちの期待に応えたい、そういう欲はあります。でもほかには今はほんっとにないの」とちょっと困ったように笑う。

「20~30代のころは仕事がひとつ終わったら自分へのご褒美にブランドのバッグを買ったりして、“素敵女子”的なこともしていたんです。でも気に入ったらずっと大事にそればかり使うので、増やす必要がなくて。それに流行のファッションや最新の化粧品はこういうお仕事で体験できるし、物語の中で素敵な男性のそばにいられるし。もうお仕事の中で全部満たされてる。だからもういいんじゃない?それで、って」

銭天堂を訪れる客は願いをかなえる駄菓子を手に入れて満足顔。でも紅子は笑みを浮かべてクールにささやく。「幸せになるか不幸になるかは、お客様次第」と。

「私たちくらいの年代になるとあの台詞はズシンときますね。例えば30代くらいまでは目の前にさまざまな選択肢があったけど、だんだん手持ちのカードは減っていくじゃない? 新たにチャレンジする体力もなくなっていくしね」


その場にいた全員がうんうんと強くうなずく。

「でもそれって不幸なことではないんじゃないかな。私の場合は逆に進みたい方向が一本の道としてはっきり見えてきて気持ちがすごく楽になりました。そんなふうに考えられるのも年を重ねてきたからこそ。そう思いません?」

天海祐希

天海祐希

あまみ ゆうき●’67年、東京都生まれ。宝塚歌劇団を’95年に退団。主な出演作は、舞台『パンドラの鐘』『オケピ!』『阿修羅城の瞳』『薔薇とサムライ』『修羅天魔~髑髏城の七人Season 極』『レイディマクベス』、映画『最高の人生の見つけ方』『老後の資金がありません!』、ドラマ『離婚弁護士』『女王の教室』『BOSS』『緊急取調室』ほか。

映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』

映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』
Ⓒ2024映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」製作委員会

小学校の新米教師、等々力小太郎は内向的な性格が悩みの種。そんなとき、ある駄菓子屋の噂を耳にする。最初は都市伝説にすぎないと取り合わなかった小太郎だが……。天海祐希、上白石萌音、大橋和也、伊原六花ほかの出演。監督は中田秀夫。12/13、全国公開。

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