-
【望海風斗さんインタビュー】マリア・カラスを生きる。歌に、愛に情熱を注いだ世紀のプリマドンナに
呼吸するように歌い、惜しみなく自らを投じて演じる。歌劇以上にドラマティックな人生を駆けぬけた至高の歌姫マリア・カラスに、今、望海風斗さんが自身を重ねる。
歌に生き、恋に生き……芸術にすべてを捧げた世紀の歌姫「マリア・カラス」の歌と人生
歌唱力に加え、豊かな演技力、表現力が武器に
ある時は気高い聖女に。ある時は悲劇の姫君に。またある時は魔性の妖婦に――たたずまいは変幻自在、情感豊かでパワフルな歌唱は見る者、聞く者を別世界へさらっていく。音楽史に名を残す女性芸術家たちを研究してきた萩谷由喜子さんは、オペラ歌手マリア・カラスの魅力を「並ぶもののないほどの表現力」と語る。
「上手に歌えることはあたりまえ。それに加えて演技、そして歌と演技を合わせての表現力が本当に優れていると思います。踏み出す足、手の動きなど些細な動作まで、自分が演じるキャラクターに全力でなりきれた人。それも感情移入というレベルではなく、何の作為も感じさせないほど虚心に。『ノルマ』で演じた巫女、『ドン・カルロ』のエリザベッタ、そして『カルメン』……頭のてっぺんからつま先まで人物そのものであり、マリア・カラスなんです」
移民の子としてニューヨークで生まれたカラスが音楽教育を受けはじめたのは、父母の故郷であるギリシャ・アテネでのこと。幸い、よい指導者にめぐりあえたことで天賦の才能が開花した。10代で初舞台を踏み、17歳という若さで大作『トスカ』の主人公を演じて評判を呼ぶ。しかし、その後に戻ったニューヨークでは鳴かず飛ばずの時期も過ごした。
「カラスはもともと体が大きく、かなり太っていた時期もあり、若いころはとても苦労していた。そんな中で、自分がこの道で成功するにはどうしたらいいのか、そのために何が必要なのかと常に考え、努力していたのでしょう。それが、彼女がはい上がるバネになったと思います」
やがてヨーロッパに渡り、イタリアで数々の舞台を踏んで成功を収めはじめたカラス。その陰には、実業家ジョヴァンニ・バッティスタ・メネギーニの尽力があった。「親子ほど年齢の離れた彼が、彼女を一生懸命後押ししてスターにした。カラスも最初は彼を愛していたのでしょうね」と萩谷さん。ダイエットにも成功し、美しさに磨きをかけたカラスは、やがて世界各地の歌劇場で次々と大役を演じ、大輪の花を咲かせた。
栄光も、早すぎる失墜も才能ゆえにもたらされた
だが、黄金の日々は長くは続かなかった。第一線に立って10年を数えるころから声や体調に不調が出はじめ、加えて、夫との不和や海運王のアリストテレス・オナシスとのスキャンダルが書き立てられ、カラスの心身への負担は積み重なっていく。公演のキャンセルが相次ぎ、ついに41歳でオペラからの引退を決意。最後の演目は皮肉にも、24年前に歌って大成功を収めた『トスカ』だった。
「早すぎる引退ですが、健康を損ない声が出なくなってしまったのだから、カラスとしては選ばざるをえなかった。後年は夫に食いものにされていた状態で、彼女を心底愛し、支えて導くパートナーにめぐりあえなかったのも気の毒でした。才能は芸術家に名声をもたらしますが、悲劇をも招くもの。彼女ほどの才能の持ち主だと、その振れ幅が大きく、受けるダメージも桁はずれだったのかと」
しかし、引退後のカラスは決して人生をあきらめてはいなかった。世界各地でコンサートを行いながら俳優として映画に出演するなど、道を模索しつづけていた。彼女自身が演じてきた、悲しみに沈む中でも朗々と歌声を響かせるヒロインのように。
「どの作品でも、オペラに登場する女性たちはとても誇り高い。たとえ作り話だとしても、ひとつひとつが女性のリアリズムだし、カラスもきっとそれに自分を重ねてプライドを貫いたのでしょう。私たち観客が何かを鑑賞するとき、表現する歌手や芸術家の人物や私生活と作品を完全に切り離すことはできないもの。だからこそ、その人の人生や背景を知ることは、遺(のこ)したものをより深く味わう手助けになると思います」
萩谷さんの言葉どおり、真摯な情熱の体現者として、カラスは今を生きる私たちの心を揺さぶり続ける。
「誇り高いオペラの主人公(ヒロイン)たちに彼女もきっと自分を重ねたはず」
――音楽評論家 萩谷由喜子
マリア・カラス 53年の生涯
’23年(0歳) ニューヨークに生まれる。本名はマリア・アンナ・ソフィア・セシリア・カロゲロプーロス。
’37年(13歳) 母と姉とともにギリシャへ渡る。
’41年(17歳) アテネ歌劇場で『トスカ』のタイトルロールを歌って成功。
’45年(21歳) ニューヨークの父のもとで不遇の日々を送る。
’47年(23歳) イタリアへ。のちに夫となるメネギーニに出会う。
’48年(24歳) 『運命の力』『トゥーランドット』『アイーダ』などを次々と歌い、評価を受ける。
’49年(25歳) メネギーニと結婚。
’54年(30歳) 活躍が続く。ダイエットで100㎏近くあった体重が60㎏台に。
’59年(35歳) 世界各地で公演を重ねる合間に、夫とともにオナシスから招待を受けてヨットクルーズへ。のちに愛人関係となる。
’65年(41歳) パリ・オペラ座での『ノルマ』公演中に不調を訴え、同年、ロンドンのロイヤルオペラハウスで上演された『トスカ』を最後にオペラから引退。
’66年(42歳) メネギーニとの離婚が成立。のちにオナシスとも破局。
’71年(47歳) ジュリアード音楽院でマスタークラスを受けもつ。
’73年(49歳) テノール歌手のジュゼッペ・ディ・ステファノと世界各地でコンサートを開催。
’74年(50歳) 来日。東京、福岡、大阪、広島に続く北海道厚生年金会館での公演が人生最後のステージとなる。
’77年(53歳) パリの自宅で急死。

'58年のマリア・カラス。歌姫として名声の絶頂にあったころ

オナシスとモンテカルロで。ジャクリーン・ケネディと彼の結婚はカラスに打撃を与えた。

『椿姫』ヴィオレッタの衣装で

’58年、英国・ロイヤルオペラハウス100周年ガラ・コンサートに出演。客席にはエリザベス女王の姿も

最初の夫メネギーニと。

’73年、パリのシャンゼリゼ劇場前でサインに応じるカラス。引退してもその人気は衰えなかった
もっとマリア・カラスを知るために…
世を去り半世紀近くの歳月が流れても「何年かに一度はカラス・ブームが起こる」と萩谷さん。豊富に残された音源や映像、画像の数々が、鮮やかに彼女の“誇り”を伝える。
【book】

『ドラマティックな人生を駆け抜けた――奇跡の歌姫 マリア・カラス』
音楽之友社 ¥2,420
音楽関係者が語るカラスの魅力、カラス生前のインタビュー記事、出演作と当たり役の解説などを豊富なビジュアルとともに収録。
【cinema】

『私は、マリア・カラス』
U-NEXTで配信中
圧巻の歌唱映像や貴重な肉声をつづったドキュメンタリー映画は“見る自叙伝”。
【MUSIC】

『PURE《ピュア》』
ワーナーミュージック・ジャパン ¥2,200
全盛期の歌唱から代表曲を網羅したベスト盤。このほか、昨年はアメリカでアンジェリーナ・ジョリーがカラスを演じた映画『MARIA(原題)』が公開され話題に。
-
ケイト・ブランシェットやジュリアン・ムーアほかセレブリティの眼福ドレスアップ姿を総ざらい!【ベネチア国際映画祭2024】
イタリアのリド島で現地時間の8月28日から9月7日まで開催された第81回ヴェネチア国際映画祭。今回は、映画祭のためにドレスアップして集まったセレブリティにフィーチャー。豪華俳優陣のゴージャスな着こなしをチェックして。
What's New
-
【ソン・ジュンギさんスペシャルインタビュー】 楽しかった現場は“あの頃”を色鮮やかに思い出させてくれる
ほかの人よりも遅く平凡な人生をスタートした主人公が、初恋の人との再会によって自身の時を刻み始めるロマンスドラマ『マイ・ユース(My Youth)』。主人公ソンウ・ヘを演じる、ソン・ジュンギさんに、本作の見どころや作品への思いを語ってもらった。
カルチャー
2025年9月30日
-
友達の友達は友達ーLes amis de nos amis sont nos amis.【フランスの美しい言葉 vol.35】
読むだけで心が軽くなったり、気分がアガったり、ハッとさせられたり。そんな美しいフランスの言葉を毎週月曜日にお届けします。ページ下の音声ボタンをクリックして、ぜひ一緒にフランス語を声に出してみて。
カルチャー
2025年9月29日
-
【佐々木蔵之介さんインタビュー】何が起こっても笑って過ごそう。最初からそう決めていました
佐々木蔵之介さんが異国の地で挑んだひとり芝居『ヨナ -Jonah』が、この秋日本で上演される。日本での公演を前に、本作に挑んだ思いについて聞いた。
カルチャー
2025年9月27日
-
【今50代が読みたい本】日本人ファーストが叫ばれる今、必読の『給水塔から見た虹は』など4選
エクラ世代におすすめしたい書籍を厳選! 日本人ファーストが叫ばれる今、必読の『給水塔から見た虹は』、妻の葛藤を克明につづった『In Love 認知症で安楽死を望む夫と スイスで最後の五日間』など4冊を厳選。
カルチャー
2025年9月24日
-
実力派作家が描く、原爆の記憶をつなぐ物語『13月のカレンダー』など3冊【斎藤美奈子のオトナの文藝部】
今話題の本を文芸評論家・斎藤美奈子さんが紹介。今月は、広島の原爆をモチーフにした宇佐美まことの小説『13月のカレンダー』、同作家の『るんびにの子供』、’24年にノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会による『被爆者からあなたに いま伝えたいこと』の3冊をピックアップ。
カルチャー
2025年9月23日
-
-
-
-
-
-
-
-
甘いオーガンジースカートは糖度控えめなブラウンカラーで、大人らしいシックな華やかさを表現。最低気温18℃|9/30(火)【50代の毎日コーデ】
オーガンジー素材のプリーツスカートも、ビターブラウンのカラーによって大人に似合うリッチな甘みに。さらに、知的なグレーのツインニットを合わせて、フェミニンコーデを上品に引き締めて。
-
最新のテクノロジーで女性の体と心をケア
フェムテックで女性の不調に寄り添う。株式会社MTG SIXPADの施策とは
-
深まるエイジング悩みに先進サイエンスで挑む
「エピステーム」から新生スキンケア登場!肌質の変化を感じたら
-
松井陽子の「エクラ ゴルフ部へようこそ!」
松井陽子さんが50代におすすめのゴルフウェアやゴルフの楽しみ方をご紹介。
-
一度は泊まりたい!高級ホテル・旅館
日常を忘れて至福のときが過ごせる極上の旅へ
-
“届く”ビタミンCを味方に健やかに美しく
ビタミンCを効果的に「吸収」。いま選ばれているサプリとは?
-
エクラ公式通販の人気アイテムランキング
もう迷わない!50代が買うべき旬の服
-
読者モデル 華組のユニクロ・GUコーデ
真似したい!50代ファッションブロガーの着こなし集
-
50代におすすめの最新アイテム
人気ファッションアイテムを厳選してご紹介
-
大人のためのヘアスタイル・髪型カタログ
髪のお悩み解決!若々しく見えるヘアスタイル
-
読者モデル 華組のZARAコーデ
50代はどう着こなす?ファッションブロガーコーデ集
-
上質を纏う、大人のデニム「G-FRANCO」
直営店がオープン!名古屋・栄に広がる新しい世界観を体感したい。
-
ロクシタンの薬用育毛美容液で育毛ケア開始
おしゃれなボトルやすがすがしい香りで育毛ケアをスタートしよう
-
お疲れサインを感じた日のレスキューマスク
大人の肌にいきいきとした艶を与える「お助けマスク」をご紹介
-
“マッキントッシュ ロンドン”で秋支度
英国テイストの新作ワンピースやアウターでときめくシーズンを謳歌
-
【50代におすすめのショートヘア60選】脱おばさん見え!大人かっこいい雰囲気が叶うショートヘア
ヘアスタイルに気を遣っているかで印象が大きく違ってくる50代。そこで今回は大人のかっこよさと上品な雰囲気を引き出し、若見え効果も叶うショートヘアをご紹介。白髪や薄毛、うねりのお悩みもカバーするへスタイ…
-
豊かなボリューム感が嬉しい!50代があか抜ける「今どきロングヘア」22選
今どきロングヘアは、髪のツヤ感で若々しく見える!ボリューム不足も白髪悩みもカットやカラー、パーマで思いのままに解決できる。こなれた印象に見せる洗練ロングヘアスタイルをお届け。
-
【ハイブランドの新作バッグ21選】普段使いもできる!ハンドバッグやショルダーバッグなど、50代にふさわしい新作バッグ
ルイ・ヴィトン、サンローラン、ロエベ、セリーヌ、ディオールなど、50代がときめくラグジュアリーブランドの新作バッグ。今年のバッグ選びに役立つ最新情報をチェック!
-
【50代のデニムコーデ7選】カジュアルながらも上品な印象を与えてくれる初秋の装い
秋もデニム人気は継続中!そこで今回は40代・50代読者モデル・華組とチームJマダムのブログから、夏から秋にかけてのデニムコーデをご紹介。
-
【50代に人気のミディアムヘア60選】手入れが楽なヘアはこれ!おばさんにも見えない洗練ミディアムヘア
老けて見えない40代・50代におすすめのミディアムヘアをご紹介。まとめ髪やハーフアップなどのヘアアレンジを楽しめたり、スタイリングや手入れが楽なミディアムヘアで、品のよい若見えと大人の女らしさを叶えて。