【次の世代のためにできること】田辺三千代さん、食を彩るサステイナブルな“紙の器”を発案

社会がもっとよくなるために、自分ができることと真摯に向き合っている女性へのインタビュー。今回は、紙の器を発案した「WASARA」「FANO」プロデューサー田辺三千代さんに話を聞いた。

「世界は変えられなくても、できることを地道にやるだけ」

田辺三千代さん

美しいプロダクトに未来への祈りをこめて

「食卓に映える新しい製品を」。アパレルのプレスだった田辺三千代さんが、思いがけないオファーから、紙の器「WASARA」をプロデュースしたのは約20年前のこと。手になじむなめらかなフォルムと手びねりの陶器を思わせる質感。従来の紙皿にはない洗練されたデザインは、当時から画期的だった。「仕事柄、パーティに立ち会う機会が多く、そこで使われるチープな紙皿やレンタルの重い食器に、違和感をもっていました。料理を引き立て、持つ人の所作まで美しく見せること。そして、料理に合わせて器を選び、季節や自然を尊ぶ、日本ならではの感性を宿す紙の器があったらと考えたのです」

枯渇が懸念される木材パルプは使わず、余剰資源である竹とサトウキビの搾りカスを有効活用した。土に埋めれば、90日以内に生分解される。洗うための水と洗剤も必要としない。

「私が子供のころは、あるものをむだなく使い、始末よく暮らすことがあたりまえでした。その後の高度成長期に、利便性の追求と大量生産の波が押し寄せ、環境破壊がすすんでいった。でももう、立ち返るときだと。自分が生きている間だけでなく、その先まで思いをめぐらせれば、環境への配慮は必然です。そうした製品が、今後のスタンダードになるという確信もありました」

先見どおり、スタイリッシュでエコな紙皿は、世界の食のシーンを彩る定番に。そしてWASARAをきっかけに今度は、広島に届けられる千羽鶴の再生紙を活用してほしいという依頼が舞い込んだ。田辺さんは、「世界中の祈りがこめられている。へたなものはつくれない」と熟考を重ね、’30年代にヨーロッパで使われていた円形の扇を偶然見かけてひらめき、「FANO」を考案。平和への願いを昇華させたプロダクトとして、現在ではアーティストやブランドとのコラボも広く展開している。「いつのまにか、リサイクルの人になっていますが(笑)、人生はめぐりあわせ。運命だったのかもしれません。環境配慮や平和祈念はごく当然のことで、それを押し出すのではなく、ものとしての見映えを大事にする。それが、長年ファッション業界に身を置いた自分が携わる意義であり、コンセプトを多くの人に届ける最善策ではないかと」

一方で、争いが終わらない世界情勢には憂いを隠さない。

「平和の意味が重くなりすぎた今の状況が本当に悲しい。コンポスタブルな植物素材や折り鶴の再生紙が世界を変えるわけではないけれど、何もしない選択肢は私にはありません。できることを続けていくしかないと思っています」

縁あって、30年ほど前から山梨県の河口湖エリアに通い、住まいも構えた田辺さん。山や湖のそばで生活して深めた思いがある。

「散歩をして美しい富士山や木々の芽吹きを眺めているだけで、身も心も満たされます。人間は自然の一部。人も動物も植物も、最後は土にかえり、そこから新しい命が育まれる。それが自然の摂理だと、感じ入る毎日です」

デザイナーの緒方慎一郎さんとつくり上げたWASARA。

デザイナーの緒方慎一郎さんとつくり上げたWASARA。成形する金型に細かな凹凸をつけ、手作りのような風合いが生まれる。流麗なフォルムは手の曲線に添うように設計

(右)被爆から70年の2015年、広島の式典で配布されたFANO。(左)ニューヨークの「スターバックス リザーブエンパイア・ステート・ビルディング」限定のデザイン

(左)ニューヨークの「スターバックス リザーブエンパイア・ステート・ビルディング」限定のデザイン(右)被爆から70年の2015年、広島の式典で配布されたFANO。

「WASARA」「FANO」プロデューサー 田辺三千代さん

「WASARA」「FANO」プロデューサー 田辺三千代さん

たなべ みちよ●’53年、静岡県生まれ。TAKEO KIKUCHIのチーフプレスやJUNのPR室顧問を務め、山梨県・西湖の「CAFÉ M」や表参道のカフェ「montoak」の立ち上げにも携わる。現在はリサイクルやサステイナブルをテーマにしたプロダクトを企画、制作。昨年11月、WASARAの新シリーズ「casanet」をローンチ。
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