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【次の世代のためにできること】ファッションのもつポジティブな力を社会問題につなげる「+IPPO PROJECT」
一歩踏み出して、よかった。楽しみながら長く続けたい

子どもたちを支える活動からもらった多くの気づき
スタイリストの井伊百合子さん、フリーランスPRの枝比呂子さん、編集者の渡部かおりさんが’21年に立ち上げた+IPPO PROJECT。児童虐待、コロナ禍での貧困や教育環境の悪化など、切実な報道に触れるたび、できることはないか考えていたという3人が手をとり、定期的にドネーションバザーを開催している。
「私たちは子育て中ということもあって、子どもたちの未来を支えたい気持ちが一致していました。個人的には、ファッションと社会貢献をどうつなげるか、模索もしていて。いかに行動に移すかを大切にしました」と渡部さんは振り返る。3人の生業(なりわい)であるファッションを軸にバザーを開くことは、早々に決まった。そして、教育のボトムアップにつながるような寄付先を探して出会ったのが、社会的養護のアフターケアに取り組む「ゆずりは」だった。「ゆずりは」の所長、高橋亜美さんによると、虐待や貧困などで親元を離れて児童養護施設で育った子どもたちは、原則として18歳で退所する。だが親や家族の後ろ盾がなく、暴力などのトラウマも抱えた子たちが、自分だけの力で生きていくのはむずかしいのが現状という。「ゆずりは」は、そうした生きづらさを背負わされた人たちを、年齢問わず受け入れ、家探しや病院の付き添い、生活保護の申請などの伴走サポートをしている。井伊さんがいう。「『ゆずりは』に連絡をしたら、亜美さんがすぐ会いにきてくださって。活動の姿勢や思いを聞いて共感しかありませんでした。古着の寄付はあるものの、自分で選んだものを着る喜びを大切にしているとうかがい、現金で寄付をする重要性を知りました」
ファッション関係者を中心に洋服や雑貨を募り、これまで開いたバザーは8回。回を重ねるごとに賛同者も来場者も増え、運営費を除いた、およそ560万円を「ゆずりは」に寄付した。“子ども時代が困難だった人たちのために”踏み出した活動だが、ふたを開けてみれば収穫ばかりだったという。
「多くの人とつながれて、さまざまな状況にいる人たちに目を向けてもらうきっかけになれたり、得るものが本当に多かった。それに不思議なことに、どの洋服も一番似合う人が買ってくれるんです。一度、役目を終えた洋服が蘇る瞬間に立ち会えるのは、私たちにとってすごく幸せなこと」(枝さん)
「自分の力だけで立つことが自立だと思ってきましたが、『ゆずりは』の皆さんの活動を通じて、頼れる人や場所にたどりつく力をもつこと、その術(すべ)をいくつももち、互いに支え合えることこそ、自立につながるのではないかと気づかせてもらいました」(井伊さん)
高橋さんの要望をもとに、クライアントのきものメーカーと協力して、成人式や卒業式を迎えた相談者にきものや袴を着てもらって撮影する取り組みも行っている。着付けをするのは、「いつか施設の子たちのハレの日をお手伝いできたら」と、プロジェクトを始める前から資格をとっていた枝さんだ。「振袖を着た子たちの、キラキラした顔が忘れられない。思い出すだけで、とても温かな気持ちになります」
「亜美さん自身、ファッションが大好きで、装いがもたらす力を信じているかたなんです」と話すのは渡部さん。「ファッションと福祉は一見距離があるけれど、だからこそ多様な人を巻き込んで大きな力になりえる。活動を通してそれを知って、自分自身の救いにもなりました」。

「ゆずりは」では、支援の網からこぼれ落ちた人も含めて相談を受け付ける。緊急度の高いSOSに対応できるシェルターを備えた施設「ながれる」が今春、開所予定。自立を迫るのではなく、社会とのつながりや安心を育むために新しい福祉のかたちに挑戦する。
https://www.acyuzuriha.com/

左から、編集者の渡部かおりさん、ファッションやジュエリーのPRを手がける「RORO」の枝比呂子さん、アフターケア相談所「ゆずりは」所長の高橋亜美さん、スタイリストの井伊百合子さん。「+IPPO PROJECTの皆さんは、子ども時代が困難だった人にとってのベストを一緒に考え、楽しみながら動いてくれる、心強いパートナーです」(高橋さん)。
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