アート・エディター大輪俊江さんおすすめ!GWに訪れたい、香川「いのくまさん」巡りの旅

4月からの瀬戸内国際芸術祭2025を目的に、瀬戸内の旅を計画している方も多いはず。フェスを回ったら、少し時間をとって”テーマのあるアート旅”はいかがでしょう?今回は丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催中の「猪熊弦一郎博覧会」を足がかりに、”アート県”の異名をもつ香川県の旅をご提案します。

その前にまず、猪熊弦一郎その人について少々。名前はわからなくても、たとえばこんな作品でピンとくる方もいるのではないでしょうか。

三越包装紙「華ひらく」型紙 1950年
三越包装紙「華ひらく」型紙 1950年

どこかで見たことあるような……と思った方。そうです、百貨店の三越で長く愛され続けるあの包装紙の型紙です。同美術館には、型紙の”もと”となった”あるもの”も展示されているのですが、見れば頭の中に「!」が飛び出すはず。

絵画などの美術作品のほか、こうしたデザインでも多くの人に親しまれた猪熊は、明治期の1902年に香川県高松市で生まれました。現在の東京藝術大学を経てパリへ渡り、「マチス先生」ことアンリ・マティスに学んで後にアメリカへ。長らくニューヨークにアトリエを構えて帰国します。そんな猪熊の作品と魅力がぎゅっと詰まった素敵な宝箱。それが、丸亀駅の目の前にある『丸亀市猪熊弦一郎現代美術館』です。

同館で7月6日まで開催中の「猪熊弦一郎博覧会」では、たくさんの才能を惹きつけた、文化的キーパーソンとしての”いのくまさん”が紹介されています。彼らとの交流から生まれた所産は、香川県にも点在。何を隠そう、当のこの美術館も、猪熊の交友がもたらした素敵な所産のひとつなのです。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の外観 撮影:増田好郎
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の外観 撮影:増田好郎

猪熊本人に推薦されて同館を設計したのは、建築家の谷口吉生。後年に”美術館建築の名手”の異名をとった彼は、ハーバード大学在学中にニューヨークの猪熊邸をよく訪ね、一緒にニューヨーク近代美術館(MoMA)を訪れるなどの交流をもっていました。

そんな彼が手がけた「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」は、建築界でも大評判に。その評判がもととなり、何と谷口は後にMoMAリニューアル時の設計者に選ばれるのです。巡り合わせの妙とは、こういうことを言うんですね。展覧会を見終わったら、同館内をじっくりまわることをお勧めします。

◆展覧会概要

『猪熊弦一郎博覧会 EXPO INOKUMA』

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

開催中〜2025/7/6

休)月曜(5/5は開館)、5/7 

観覧料/当日一般¥1,500ほか

●香川県丸亀市浜町80の1

公式サイト

香川県庁舎

「猪熊弦一郎博覧会」での展示でも紹介されている香川県庁舎。こちらは建築界のカリスマである丹下健三が、若き日に手がけた代表作です。そのロビーでは、こんなダイナミックな壁画がわたしたちを出迎えてくれます。

香川県庁舎東館陶画《和敬清寂》 1958年 撮影:木奥惠三、2025年
香川県庁舎東館陶画《和敬清寂》 1958年 撮影:木奥惠三、2025年

利休が唱えた茶道の心得を表したこの壁画は、若き日の猪熊の作。実はこの庁舎を建てるにあたり、丹下健三を推薦し県知事に引き合わせた人物こそが、猪熊弦一郎だったのです。

2021年に重要文化財に認定されたこの県庁舎は、聖地巡礼的に訪れる建築ファンが今も絶えない人気スポット。JR高松駅や栗林公園から近いのもうれしいポイントです。

●香川県高松市番町4の1の10
公式サイト

*現役の県庁舎です。見学の際はご配慮ください

イサム・ノグチ庭園美術館

このほか展覧会では、猪熊が心友と呼んだ世界的彫刻家のイサム・ノグチとの交流も紹介されています。高松市牟礼町にはノグチがアトリエと住居を構えていた場所があり、現在は「イサム・ノグチ庭園美術館」となっています。せっかくなので足を伸ばし、彼が実現させた”環境彫刻”としての美術館空間を、まるごと体感してみては。

●香川県高松市牟礼町牟礼3519

公式サイト

四国村ミウゼアム

その「イサム・ノグチ庭園美術館」近くに、源平合戦の古戦場で能の演目にも名を残す「屋島」があります。その麓に広がる野外博物館「四国村ミウゼアム」も、猪熊ゆかりの地のひとつ。敷地内にある安藤忠雄設計の「四国村ギャラリー」では、今年は春夏秋の3期にわたり「猪熊弦一郎 Form,People,Living 身の回りにある、秘密と美しさ」展が行われています。

春期(〜7月19日)に展示されている猪熊弦一郎作品《No.1 星からの手紙(ラブ)》(1983年/丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵)©公益財団法人ミモカ美術振興財団
春期(〜7月19日)に展示されている猪熊弦一郎作品《No.1 星からの手紙(ラブ)》(1983年/丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵)©公益財団法人ミモカ美術振興財団
安藤忠雄設計による「四国村ギャラリー」。手前は立地を生かして造られた「水景庭園」。
安藤忠雄設計による「四国村ギャラリー」。手前は立地を生かして造られた「水景庭園」。

◆展覧会概要

「猪熊弦一郎 Form, People, Living 身の回りにある、秘密と美しさ」

四国村ギャラリー

春会期「Form=形」:4/18〜7/19

夏会期「People=人」:7/26〜 9/12

秋会期「Living=住」:9/20〜12/14

入村料:当日一般¥1,600ほか

猪熊作品をたっぷり楽しんだら、広い村内をゆっくり歩きましょう。その際ぜひ探してほしいのが、とあるところに植えられたオリーブの木です。それらは猪熊の東京の家で育てられ、彼が亡くなってから一時期は枯れてしまったと思われた木の”子どもたち”。大事に育てられたひこばえが、やがてそこに植えられたのです。一帯は「猪熊の杜」と呼ばれているので、宝探し気分で探りあててください。

●香川県高松市屋島中町91

公式サイト

瀬戸内国際芸術祭2025

最後に「瀬戸内国際芸術祭2025」について。

約100日間の会期中、今年のテーマである「海の復権」に沿ったさまざまな企画が、全17エリアで進行中です。混雑状況などもわかるサイトを随時確認し、最先端アートに触れ、瀬戸内の魅力を味わうアート旅にぜひ出かけてみてください。

ちなみに丸亀市猪熊弦一郎現代美術館でも芸術祭との連携企画として8月から「大竹伸朗展 網膜」が開催されるので、乞うご期待!

公式サイト

香川県内にはほかにも、猪熊ゆかりの場所がたくさんあります。同県を”アート県”たらしめた功労者の中でも最重要人物である猪熊弦一郎。その足跡を辿り、クリエイターたちの心の交流を感じ、追体験するようなアート旅を、ぜひ楽しんでみてください。

大輪俊江

大輪俊江

おおわとしえ●アートエディター。美術、デザイン、クラフトを中心に編集・執筆を行う。編集デザイン会社「あをぐみ」所属。最近乗馬を始めたこともあり、馬の絵が気になる今日この頃。
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