【高橋一生さんインタビュー】ちゃんと燃えて、ちゃんと燃えかすになれる作品に関わっていきたいと、ようやく最近思うようになりました

野心的な意欲作や骨太な作品選びで、毎回見応えのある演技を見せてくれる高橋一生さん。本土復帰が目前に迫った沖縄を舞台にしたクライムサスペンス『連続ドラマW 1972 渚の螢火』では、主人公の琉球警察の刑事・真栄田太一に挑んだ。もともと大好きだったという沖縄の苦難の歴史を背景にした作品の現地ロケを通して、どんなことを感じたのか?

“何を考えているのかわからない”と言われる真栄田にシンパシーを感じた

高橋一生さんインタビュー1
「もともと僕は沖縄が好きで、結構自分でも旅行に行っていたので、本作で描かれているような沖縄の本土復帰に関する歴史的な部分も意識はしていたんです。ただ、貨幣が1日で米ドルから日本円に替わってしまうとか、交通ルールの変更とか、知識としてはあっても、実際に芝居で疑似体験してみると、やっぱりそれまでとは意識は大きく変わってくる。当時を知る現地の方とお話しする機会などもあり、撮影のために約ひと月を沖縄で過ごす中で、自分の中でどんどん彩度が上がって行く部分がありました」

舞台は1972年、本土復帰が目前に迫った沖縄。100万ドル強奪事件が発生し、琉球警察は特別対策室を編成する。班長として事件の捜査に当たるエリート刑事・真栄田を演じる高橋さんは、高校の同級生の刑事・与那覇(青木崇高)に「昔から何を考えているのかわからなかった」と言われる。そんな真栄田に高橋さんは「シンパシーを感じた」という。

「僕も、よくそう言われていたので(笑)。真栄田本人はそんなつもりはなく、多分言うのが照れくさいとかあまり説明したくないという性格的な部分も根底にはあると思うんですけれど。受け手がどう思うかということは考えてはいても、どうでもいいと思っているんでしょうね。だから演じながら、他人に語っても理解されないだろうという彼の達観したような姿に、僕もそういう時期があったかもしれないなと自分を重ねる部分もありました」

真栄田は八重山諸島の石垣島出身であること、また当時としては珍しかった東京の大学を卒業し警視庁を経て帰郷した刑事であることから、周囲からは「内地の人間」と揶揄される。特に沖縄本島出身で叩き上げの与那覇から真栄田への嫌悪はあからさまで、アイデンティティが揺れ動く真栄田の複雑さと与那覇との軋轢が本作の肝でもある。

「真栄田という人物像を思い浮かべたときに、これはある意味で日本の縮図のようなものが彼の中には詰まっているんじゃないかと思ったんです。言ってしまえば、日本国内の問題だけではなく、当時の世界情勢における日本の立ち位置の複雑さや思想のぶつかり合いで、日本という国そのもののアイデンティティが揺れていた。一方で、与那覇にはしっかりとしたキャラクター性があって、その上で激動の時代を生きる中で揺れていく。そういう人たちと真栄田とは決定的に違う人間なんです。その部分を青木さんとお芝居を通して会話していくことができていたので、僕自身、毎シーン毎シーン迷いなくできていた気がします」

青木(崇高)さんとは、撮影が終わった後も自宅に招いてご飯を食べたりしています

高橋一生さんインタビュー2
高橋さんの話ぶりからは、与那覇役の青木崇高との距離の近さがうかがえた。

「青木さんは、役への向き合い方も出力の仕方も僕とは全然違うんです。お芝居に対してものすごいエネルギーでぶつかっていかれるのですが、それを一番間近で見ることができて俳優として勉強になりました。僕にとって青木さんはものすごく尊敬できる人なんです」

オフの時間を一緒に過ごしたことも?

「ほぼ毎晩、撮影が終わった後は一緒に食事していました(笑)。青木さんとは地元の店にもう毎日のように行ってましたね。でも、お芝居の話はしなかったです。ほかの作品のときはどうだったとか、そんな話はしていましたが、おかげで大分交流が深まりました。撮影が終わった後も自宅に招いてご飯を食べたりしています。なかなかない素敵な出会いだったなあと思いますね」
高橋一生さんインタビュー3
子役時代から長いキャリアを誇る高橋さんは、現在44歳。20代から30代まではお芝居に対して貪欲で、オファーのあった仕事は基本的に前向きに考え、30代に入ると自分がその作品に関わることの意味を考えるようになったという。そして迎えた40代は「ちゃんと燃えかすになりたい」のだとか。

「結局、自分の肉体を持って現場に入っていくということ自体が、ある程度は心身を削っていくことになるんですよね。この作品は自分の熱がどうしても入らないなと思う場合、自分に嘘をつきながらやろうと思ったらできるんですけれど、今はもう具合が悪くなるとか体に負荷がかかってしまうんです。だったら、なるべくならちゃんと燃えて、ちゃんと燃えかすになれるような作品に関わっていきたいと、ようやく最近思うようになりました。そうじゃないと見ている人にとっても失礼になると思っています」

じゃあ、今回のドラマは完全燃焼ですねと言うと、「はい、燃えかすでした!」とにっこり。そんなふうに燃え尽きた高橋さんを癒してくれるのは、「犬といる時間」だという。

「横になって、ずーっとここ(胸のあたりを指して)にいさせますからね。離れようものなら、うんって引き戻してますから(笑)。撮影が終わるたびに丸1日はべったりくっついて、ぼーっとして散歩して、全く何も考えない1日を作っています。外に出るとか人に会うとか、休みがあるといろんなことをやりがちなんですけれど、全部一回リセットすることが大事だなと」

最後にエクラ世代の女性に対して、どんな印象を持っているのか聞いてみた。

「50代の女性は、とても充実していらっしゃるイメージがあります。自分の確固とした意思や生き方をお持ちだと思うんですよね。女性が女性でいてくれることの強さを感じることも最近多くて、そういう意味では男性と女性はお互いがお互いを補完し合っている存在なんだなと。そのことをしっかりわかっている人が、僕は素敵な大人の女性だなと思います」
高橋一生

高橋一生

たかはし いっせい●1980年12月9日生まれ、東京都出身。映画、ドラマ、舞台など幅広く活躍。舞台『天保十二年のシェイクスピア』で第45回菊田一夫演劇賞、NODA・MAP『フェイクスピア』で第29回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞。近年の主な出演作に、ドラマ『ブラック・ジャック』、『零日攻撃 ZERO DAY ATTACK』、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、『岸辺露伴は動かない 懺悔室』などがある。

『連続ドラマW 1972 渚の螢火』

「1972 渚の蛍火」キービジュアル
坂上泉の同名小説を、『愛を乞う人』などで知られる平山秀幸が全5話の監督を務めてドラマ化。舞台は1972年、本土復帰が目前に迫った沖縄。現金を輸送していた銀行の車両が何者かに襲撃され、100万ドルが強奪される事件が発生し、琉球警察は日本とアメリカの外交問題になることを恐れて秘密裏に特別対策室を編成する。エリート刑事・真栄田太一(高橋一生)と、真栄田に敵意を剥き出しにする叩き上げの刑事・与那覇清徳(青木崇高)が、反目し合いながらも事件の解決に奔走する。WOWOWにて10月19日(日)午後10時より放送・配信スタート!

撮影/織田桂子 ヘア&メイク/田中真維(MARVEE) スタイリスト/小林新(UM) 取材・文/今 祥枝
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