尾州の毛織物産業の強みは、糸から織物になるまでの数多くの工程を、同じ地域の中で分業していること。紡績、撚糸(ねんし)、染色、製織、整理まで、工程ごとに多くの企業がかかわっている。それぞれに長い年月をかけ高い技術が培われているのが特徴で、この地域で国内生産量の約7割の毛織物が生産されているという。
そんな尾州で1912年に創業したのが葛利毛織工業。紳士服のスーツ生地を中心に、生地の設計、提案、生産、販売を行う老舗機屋(はたや)だ。昭和7年建築の趣のある工場の中には、ションヘル織機という希少な国産シャトル織機が10台。低速で織ることで独特の手織りのような風合いをもつその生地は、膨らみと収縮力がありとてもしなやかだ。現在は数多くのブランドと取引を行っているが、同社の100年の歴史の中にはいくつもの荒波があったという。流通経路が変化し、世界的な競争環境の変化から売上減少が続き、「将来性が見出せず、いつか行き詰まるだろうと、廃業を意識していた」と4代目にあたる葛谷聰専務は語る。