小説現代長編新人賞は長編に特化した賞。最新の受賞作は意表を突く作品だった。パリュスあや子『隣人X』。応募時のタイトルは『惑星難民X』。もしかしてSF?と思いますよね。しかし、ちょっと違うんです。
3人の女性が登場する。
土留紗央は新卒の派遣社員。大学院まで出たものの、正社員の口はすべて不採用。文学新人賞に応募した小説も当選には遠い。
柏木良子は就職氷河期世代の40代。コンビニの店員と、宝くじ売り場の販売員のダブルワークを続
けている。ひと回り下の恋人がいるが、彼は週刊誌記者で忙しく、先のことはわからない。
良子と同じコンビニで働くグエン・チー・リエンは1年前にベトナムから来た。夜は日本語学校に通い、大学に入学するための日本留学試験を目ざしているが、日本語はなかなか上達しない。
それぞれ懸命に今日を生きる女性たちの物語。なんだけど、彼女らが住む日本というか地球は、非常事態に直面していた!
臨時ニュースのテロップが流れる。〈NASAが地球外生命体との接触に成功。アメリカ合衆国は「惑星難民X」として受け入れる方針を発表〉。続いて記者会見の模様が流れる。〈会見には地球外生命体に接触したという宇宙飛行士が登壇し、「惑星生物X」と名付けた宇宙人の保護を訴えていた〉。
いきなり宇宙人って、なんなのいったい!ですよね。紗央でなくてもついていけない。
でもね、たまたまルーツが地球外だっただけの話で、「惑星難民X」はあくまでも母星Xの内乱から逃れてきた移民や難民なのだ。惑星生物Xは固有の形をもたず、スキャン能力を使用して、対象の容姿から思考まで正確にコピーすることが可能。その能力を使えば十分ヒトとして暮らしていける。
奇想天外に思えるけれど、これは多様なルーツをもつ人々(例えば外国からの難民)と共生するにはどうするかという今日的な課題と相似形なんですよね。
だから物語はSFSFした方向ではなく、決して社交的とはいえない3人の女性の日常をどこまでも淡々と描いていく。
日本でも「惑星難民受け入れ法案」が衆院で可決され、巷では反対デモが起きていた。デモ隊が掲げるプレートには〈宇宙人に日本国籍を与えるな!〉〈日本の土地を汚すな!〉などと書かれている。「宇宙人」を別の言葉に置き換えれば、それがどれほど非人道的な排外主義かわかるはず。
3人の中でXに最も近いのは柏木良子で、恋人がこの件を追っていたことから予想外の結末を迎えるのだけれど、そこまでの展開は予測不能。手堅いリアリズム小説の手法で書かれたまさかの宇宙人小説。おそるべき新人の登場だ。