フランス文学といったら、私くらいの世代だとやっぱりサガンかボーヴォワールかしら。なんていったらもう「古い」といわれちゃうのかも!
レティシア・コロンバニ『彼女たちの部屋』は、前作『三つ編み』で一躍有名になったフランスの女性作家の新作だ。『三つ編み』は3つの国の女性をつなぐ物語だった。この作品は、2つの時代のフランス女性の物語である。
ソレーヌは40歳、独身。パリの法律事務所に勤める優秀な弁護士だったが、ある日、裁判所の7階の吹き抜けから飛び降りて、重傷を負う。燃え尽き症候群、仕事の挫折に起因する鬱(うつ)だった。
体が回復しても弁護士に戻る気はせず、かわりに始めたのが「女性会館」での「代書人」というボランティア活動だ。女性会館はさまざまな事情で住む場所をなくした女性たちの保護施設で、彼女らのために書類や手紙を代筆するのが代書人の仕事だった。週に1度のこの奉仕活動がしかし、ソレーヌの人生を変えるのである。
会館に住む女性たちの境遇は、想像を絶するものだった。
ビンタはギニアから娘を連れて逃れてきた。自分も経験した性器切除を娘にだけはさせたくなかっ
た。息子は置いてきた。〈書いてください。息子につたえてください、ごめんなさい、と〉。
シンシアは反抗的で、自由がない会館に不満をもっていた。だから館長に手紙を書けという。ソレーヌがむずかしいと答えるとシンシアはいい放った。〈なら、あんたも同じ〉〈役立たず! あんたなんか、いなくていい!〉。
さあ、どうするソレーヌ!
物語の舞台になる女性会館(パレ・ドゥ・ラ・ファム)はパリに実在する会館で、1910年に建てられたという古い建物だ。最初は低賃金労働者のための集合市営住宅だったそうだが、1925年に女性会館に生まれ変わった。
この小説のもうひとりの主役が、実はこの建物を女性会館に生まれ変わらせた女性、ブランシュである。救世軍の最高位である本営長にまで上りつめた彼女はすでに50代の後半だったが、夫を巻き込んで女性の居場所づくりに猪突猛進、突き進むのだ。
〈パリ市だけで宿無し女性は何千人もいる。みな襲撃と売春の危機にさらされている〉〈これを仕方がないと受け入れるの?〉
ついに見つけた物件は、6階建てで個室の数は743。広大なエントランスと集会所と食堂つきで屋上
からの眺めも抜群。残る問題は資金集めだ。こっちはこっちで……どうするブランシュ!
内向的なソレーヌとパワフルなブランシュ。100年の時を超えたふたりの中にあるのは同じ志である。他者を救うことは自分を救うことなのだと教えられます。