『ミッドナイト・イン・パリ』×「シャトー・クラレンドル」/ボルドー”5大シャトー”の系譜は ワインを愛した鬼才たちに教えたい味【シネマに乾杯!vol.5】
ワインを知ると映画はもっと楽しい!エクラでもおなじみのワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が、映画の中に登場するワインやシャンパーニュを楽しく解説!第5回目は映画『ミッドナイト・イン・パリ』をご紹介!
もし、自在に憧れの時代にタイムスリップできたら? それも、かつて自分が熱烈に憧れていた人物に会えたとしたら――。ウッディ・アレン監督・脚本による『ミッドナイト・イン・パリ』は、そんな”憧れ”を楽しませてくれるヒューマン・コメディーだ。
主人公のギルは、小説家への夢をあきらめきれない、自称”クズ脚本家”。その実は、ハリウッドの売れっ子脚本家で、日々忙しい。ある日、彼は婚約者のイネスとともに、彼女の裕福な両親の出張に便乗してパリを訪れる。もとより、パリはギルにとっての憧れの街。若かりし頃のヘミングウェイやフィッツジェラルドがかつてこの街を歩いていたかと思うと、それだけで胸が高まるほど。できるなら、この街に住みたいと思っているが、彼女は違う。マリブに住みたいと願い、ギルの好みが理解できない。
パリに到着すると、ギルはイネスの両親に誘われ、高級フランスワインの試飲会へと赴く。アメリカ人の父は「ワインはカリフォルニアに限るが、ここでは仕方がない」とフランスワインを飲むのだが、このシーンにさりげなく登場するのがボルドー5大シャトーの「シャトー・オー・ブリオン」と「クラレンドル」のロゼだ。実は、「クラレンドル」は、「シャトー・オー・ブリオン」と同じ醸造チームが手がける”お値打ちボルドー”で、ここでさらりと登場させるところが、ワイン好きのウッディ・アレンらしいセンスを感じさせる。
だが、ここでギルの前にイネスの友人ポールが現れる。彼はギル曰く”嫌味な男”で、歴史やワインに関する蘊蓄は間違いが多く、ことごとくギルを苛立たせる。なのに、イネスはポールを気に入り、その夜、一緒にダンスに行ってしまうのだ。ギルは、ひとりで夜のパリを散歩するが、その時、12時の鐘とともに彼の前に一台のクラシックカーが突如目の前に現れる。
なんと、そこにはスコット・フィッツジェラルドとその妻ゼルダが乗っていた! 半信半疑のまま、ギルは彼らとともにパーティーへ。すると、ホストとして待っていたのはジャン・コクトーで、そこにはヘミングウェイもいた。驚きはまだまだ続く。ブラッスリーを訪れればサルバトーレ・ダリがいて、「赤ワインを!」と叫んでいるし、マン・レイ、T.S.エリオットも登場。まさしく”狂乱の20年代”のオールスターズが勢揃いなのだ。ちなみに、この時、ダリのテーブルに運ばれたのは「シャトー・オー・ブリオン」だった。
なんと、そこにはスコット・フィッツジェラルドとその妻ゼルダが乗っていた! 半信半疑のまま、ギルは彼らとともにパーティーへ。すると、ホストとして待っていたのはジャン・コクトーで、そこにはヘミングウェイもいた。驚きはまだまだ続く。ブラッスリーを訪れればサルバトーレ・ダリがいて、「赤ワインを!」と叫んでいるし、マン・レイ、T.S.エリオットも登場。まさしく”狂乱の20年代”のオールスターズが勢揃いなのだ。ちなみに、この時、ダリのテーブルに運ばれたのは「シャトー・オー・ブリオン」だった。
この映画で特徴的なのが、登場人物たちが過去の時代に憧れを持っていることだ。ギルが恋に落ちたアドリアナという美しい女性は、「ベル・エポックのパリが好き」と言い、ギルと彼女は、馬車でベル・エポック時代の「マキシム」へとタイムワープ。「ムーラン・ルージュ」と思しき店にいたのはロートレックとゴーギャン、ドガだった。ギルが彼らと話すと、ゴーギャンから出た言葉は「ルネサンスに生まれたかった」。
そう、彼らの憧れの時代はいつも“過去”。だが、ここでギルはようやく気づくのだ。「現在って不満なものなんだ。それが人生だから」と。自分が生きている時代こそが”黄金時代”なのだと悟り、彼は現代へと戻るのだ。
そう、彼らの憧れの時代はいつも“過去”。だが、ここでギルはようやく気づくのだ。「現在って不満なものなんだ。それが人生だから」と。自分が生きている時代こそが”黄金時代”なのだと悟り、彼は現代へと戻るのだ。
映画を観終わってふと思い出したのが、現代でのシーンに登場する「クラレンドル」だ。”ルージュ(赤)”のファーストヴィンテージは2002年で、発売は2005年のことだったという。もし、自分がギルのようにタイムスリップしたなら、ワインを愛した奇才たちに「クラレンドル」を持っていきたい。彼らの生きた時代には「シャトー・オー・ブリオン」はすでに有名であったから、後世で、同じチームが手がける上質なカジュアルワインが生まれたことに驚くことだろう。「未来では、こんなにおいしいワインが、こんな安価な価格で飲めるのか」と。
ヘミングウェイはボルドー好きで、「シャトー・マルゴー」を好んだことで知られるが、この頃はまだカナダのトロント・スター新聞社の特派員であったから、毎日高級ワインは飲めなかったはず。また、母がボルドー「シャトー・マルロメ」の所有者であったロートレックも、その上質な味に魅了されたのではないだろうか。フィッツジェラルドが、ダリが、ゴーギャンが、「クラレンドル」を飲んだらどんな顔をするのだろう?「クラレンドル」がある現代は、きっとワイン好きにとっての”黄金時代”なのだ。
『ミッドナイト・イン・パリ』
ブルーレイ ¥1,500+税
発売元・販売元/KADOKAWA
発売元・販売元/KADOKAWA
「クラレンドル・ロゼ 2018年」
フランス・ボルドー地方。メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランをブレンド。美しいローズ色。ラズベリーなどの華やかな香りとピュアな酸味。味わいもエレガント。前菜から肉料理、デザートまでオールマイティ。ちなみに、”ロゼ”のファーストヴンテージは2005年で、発売は2006年。ほかに赤と白もあり。750ml \2,500
「シャトー・オー・ブリオン2017」
フランス・ボルドー地方。メルロとカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にカベルネ・フランをブレンド。1855年にメドック地区最高位の第1級にグラーヴ地区から唯一格付けされた。ブラックベリーやカシス、スミレなど複雑な香り。芳醇で限りなく優雅な味。鴨や羊などガストロノミックな一皿と。自宅で楽しむならすき焼きとともに。750ml \95,000
※写真は、2009年ヴィンテージのもの。現行ヴィンテージは2017年。
※写真は、2009年ヴィンテージのもの。現行ヴィンテージは2017年。
「シャトー・オー・ブリオン」のシャトー。1855年、パリ万博開催の折、ナポレオン3世のもと、「メドックの格付け」が行われ、唯一、メドック地区以外のグラーヴ地区から「第一級」に選ばれた。以来、変わらぬ品質の高さで、世界中のボルドーファンを魅了している。
■「シャトー・オー・ブリオン」と「クラレンドル」のお問い合わせ先/エノテカ 0120-81-3634(フリーダイヤル)
取材・文/安齋喜美子
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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