“津軽&会津”のワインは東北らしさが素敵。しみじみ、優しい気持ちで味わいたい!【飲むんだったら、イケてるワイン/WEB特別篇】
今まで、ワイン産地としてマイナーだった土地から、続々と魅力的なワインが誕生している。手がけているのは、日本ワインを牽引してきた“リーダー”のサントリーとメルシャン。“地方再生”もフォーカスされる昨今、いち早く地元生産者をサポートしてきた。その絆から生まれた“心に染みるワイン”をご紹介。
先日、日本ワインを続けて飲む機会があった。「サントリー ジャパンプレミアム 津軽ソーヴィニヨン・ブラン 2017」と「シャトー・メルシャン 新鶴シャルドネ 2018」。おいしかったのはもちろんながら、興味深かったのは、品種や産地は違うのに、どちらも“東北のひんやりとした空気感”を持っていることだった。どちらもしっとりした肌の質感を持つ、素朴で優し気な雰囲気の“津軽美人”と“会津美人(新鶴)”を思わせたのだ。
とはいえ、もちろん、味と香りはそれぞれに違う。「津軽ソーヴィニヨン・ブラン」は和ハーブとレモンやカボスのような柑橘類の香りが魅力的。酸味もキリッとして、刺身との相性は抜群だ。少し甘めの魚の煮つけなどは、この溌溂とした酸がスタイリッシュに楽しませてくれる。一方、「新鶴シャルドネ」は可憐な白い花の香りを持ち、フレッシュな酸としなやかなミネラルが印象的。こちらはカニ鍋と合わせると、とても上品なマリアージュになる。2本のワインが語るのは、まぎれもなく日本のテロワールで、「これは和食のために生まれたワインなのだ」と、どこか郷愁にも似たような思いにとらわれた。
また、気づいたのが、青森県の津軽も、福島県の新鶴も、本来はメジャーなブドウ産地ではないこと。日本ワインの主要産地は、なんといっても山梨県と長野県。津軽も新鶴も、まだまだマイナー。だが、ここから見えてきたのが日本ワインの大きな可能性だった。本来、ブドウ栽培がなされていなかった土地から、こんな素晴らしいワインが誕生していることに驚かされた。
日本ワインが国内で注目されるようになったのは、ここ10年から15年ほどのこと。それまでは、フランスやイタリア、カリフォルニアやチリなどの外国勢に押され、日本ワインは、まだ日本市場においても、ひっそりと片隅にいたのだ。それが、2003年に国産ワインコンクール(現「日本ワインコンクール」)の開催が始まったことで、国内の生産者たちの意識が変わり、品質と技術が目に見えて向上してきた。また、ここ数年は新規ワイナリーの設立ラッシュが続き、日本ワインの世界に活況を呈している。
この日本ワインの世界を牽引してきたのがサントリーとメルシャンだ。サントリーは1899年(明治32年)に創業、その後「寿屋山梨農場(現・登美の丘ワイナリー)」として「登美農園」を継承した。「赤玉ポートワイン」(現・赤玉スイートワイン)の大ヒットはよく知られているが、実は、ここには日本ワインの大きな歴史が隠されている。1890年(明治23年)設立の「岩の原葡萄園」(現サントリー「岩の原ワイナリー」)では“日本ワインぶどうの父”と称される川上善兵衛氏が日本の気候に合ったブドウ品種の研究に取り組み、「マスカット・ベーリーA」など、日本の独自品種の開発に成功しているのだ。実は、寿屋(現・サントリー)が「赤玉ポートワイン」に成功したことで、この研究を支援することができたのだ。
また、メルシャンの母体となったのが1877年(明治10年)に設立された「大日本山梨葡萄酒会社」だ。日本人による良質なワインの生産を目指し、高野正誠、土屋助次朗(のちの龍憲)という二人の青年をフランスに派遣し、本格的な醸造技術を学ばせた。以後、「メルシャン1962年」が国際ワインコンクールで日本初の金賞を受賞するなど、発展を遂げてきた。なにより「メルシャン」の功績は、日本の固有品種である“甲州”の発展に尽くしたことだろう。1983年、メルシャン勝沼工場の工場長だった浅井宇介氏は、当時“香りが立たない品種”と評されていた甲州に「シュール・リー製法」(醸造後に澱を取り除かず、果汁とコンタクトさせてうまみを抽出する方法)を導入、風味豊かな甲州ワインを誕生させた。この製法は企業秘密ともいえるものだったが、メルシャンは近隣のワイン生産者にこの製法を惜しみなく開示したのだ。以後、甲州は、山梨のみならず、日本を代表する品種として世界でも多くの栄誉ある賞に輝いている。サントリーとメルシャンは、日本ワインの黎明期からよきライバル、そして同志として、双輪となって日本ワインを牽引してきたのだ。
近年、日本ワインの世界においては、日本固有品種のマスカット・ベーリーAや甲州以外に、土地ごとに得意とする品種、例えば北海道のピノ・ノワール、北陸のアルバリーニョなどが注目されるようになってきた。だが、「津軽ソーヴィニヨン・ブラン」、「新鶴シャルドネ」に関していえば、その土地自体がよりマイナーであるところに心惹かれてしまった。
実は、ここには日本ワインのリーダーたち(サントリー&メルシャン)の「ぶどう栽培者と産地を守る」という熱い思いが隠されている。「津軽ソーヴィニヨン・ブラン」は、サントリーが青森県弘前市とJAつがる弘前と津軽産ブドウの生産拡大に向けた協定を締結、情報と技術を提供しつつ、地域の経済発展に取り組もうとしている。
「新鶴シャルドネ」は、45年前にその頃薬用ニンジンの休耕地利用を課題に抱える新鶴村から「ブドウ栽培をやってみたい」という話がメルシャンに持ち込まれ、生産者の思いを応援する形となった。新鶴村は寒暖差が大きく、ブドウ栽培には適した土地だが、秋雨の降雨量が多く、そこが収穫のネックになっていた。そこで村人が中心となって畑にビニールの雨除けを設置、メルシャンと共に少しでも高品質のブドウを育てるべく、長きに渡り、ともに歩んできたのだ。
「津軽ソーヴィニヨン・ブラン」と「新鶴シャルドネ」を飲んでいると、以前、親しいファッション・エディターが教えてくれた逸話を思い出す。数年前のパリ・コレクションでは、ある一流メゾンが、地方のおばあさんがひとりでていねいに編むニットをオートクチュール・コレクションに取り入れたというのだ。同じように地方に眠る“よいもの”を見つけ出し、生産者を守るという先見の明と企業としての気高さが、「津軽ソーヴィニヨン・ブラン」と「新鶴シャルドネ」から感じられたのだ。日本ワインのリーダーとしての矜持を持ちつつ、地道なプロジェクトをコツコツと続け、社会に貢献する。サントリーとメルシャンは、やはり日本ワインの灯台的存在なのだ。
もし、機会があれば、まずは何も考えずに「津軽ソーヴィニヨン・ブラン」と「新鶴シャルドネ」にトライしてみて欲しい。きっとどちらのワインも、最初は東北人のように寡黙ながら、次第にやわらかな笑顔を見せてくれる。この穏やかな距離感が「日本ワインって素敵」と思わせてくれるのだ。華やかな時間でなくていい。しみじみとした優しい時間に浸りたいときには、日本ワインがいい。
「サントリージャパンプレミアム 津軽産ソーヴィニヨン・ブラン 2017」
青森県津軽地方。ソーヴィニヨン・ブラン100%。グレープフルーツレモン、白い花、和ハーブの香り。生き生きとしてフレッシュな酸味。「日本ワインコンクール」において2016年より3年連続で金賞受賞。寄せ鍋やおでん、イカの煮つけなどをランクアップしてくれる。青森の郷土料理「せんべい汁」にも。750ml ¥3,300(参考価格)
問い合わせ先:サントリーワインインナショナル■0120-139-380(お客様センター)
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「シャトー・メルシャン 新鶴シャルドネ 2018」
福島県会津美里町新鶴地区。シャルドネ100%。柑橘類や菩提樹の花の香り。ハチミツやヘーゼルナッツのニュアンスも。心地よい酸味としなやかなミネラル。刺身やカニ鍋、根菜類の煮物など。会津の郷土料理「こづゆ」にもよく合う。750ml ¥3,260(参考価格)
問い合わせ先:メルシャン■0120-676-757
取材・文/安齋喜美子
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