『バベットの晩餐会』 ×「ルイ・ラトゥール クロ・ヴ―ジョ 1845」&「ヴーヴ・クリコ1860」 【シネマに乾杯!vol.12】

人々の心を解き放ち、幸せにしたのは フランスが誇る銘醸ワイン

ワインを知ると映画はもっと楽しい!エクラでもおなじみのワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が、映画の中に登場するワインやシャンパーニュを楽しく解説!第12回目は、映画『バベットの晩餐会』をご紹介!
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時は19世紀。デンマークの辺境の海辺の村・ユトランドにマーティーネとフィリパという美しい姉妹がいた。ふたりの父は牧師で、姉妹は父の教えのもと、時間のすべてを善行に費やしていた。そんなふたりに、ある日突然、恋が訪れる。マーティーネには村に滞在していた若い士官ローレンスが、妹のフィリバには休暇で村を訪れていた著名なオペラ歌手のアジール・バパンが求愛するが、姉妹は相手に心惹かれながらも、父に仕える道を選ぶ。そうして、姉妹は近隣の信者たちとともに清貧の日々を送りながら、静かに年老いていく。
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時は流れ1871年9月、大雨の夜、バベットという女性が姉妹の家を訪れた。彼女は、アジール・パパンからの手紙を手にしており、そこには、バベットがこの地を訪れた経緯が記されていた。パリ・コミューンの革命で夫と息子が殺され、彼女は命からがら逃げてきたのだ。手紙の最後には、自分は35年もの間フィリパを思い続けていたこと、バベットが料理の名手であることがつづられていた。バベットは、その日から姉妹の家で家政婦として働き始めた。

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14年の月日が流れ、バベットは姉妹や村人の信頼を得て、穏やかに暮らしていた。折しも、姉妹の父である牧師の生誕百周年を祝う年になり、姉妹は食事会を開く計画を立てる。そんな中、バベットがフランスの宝くじ(1万フラン)に当選したのだ。バベットは姉妹に「フランス式の食事を作らせてほしい」と申し出る。
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願いが叶い、バベットは早速晩餐会の支度に取りかかる。数日後、厨房に運びこまれたのは、生きた海ガメやウズラなどの高級食材と銘醸ワインの数々。だが、フランス料理を知らない姉妹は「何を食べさせられるかわからない」と不安を覚える。村人たちは「これは魔女の饗宴だ」と怖れ、食事中は料理について何も語らないことを約束しあう。そんな折、マーティーネに、かつて父を尊敬していたというローレンスも晩餐会に出席するとの手紙が届く。彼は今や、立派な将軍となっていた。
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豪華な晩餐会が始まった。キャビアたっぷりの「ブリニのデミドフ風」に合わせたシャンパーニュを飲んで、将軍が言う。「まさしくヴーヴ・クリコの1860年ものですぞ」。すると、村人はこう言う。「そうですね、明日は1日中雪になりそうだ」――。将軍は、その返事に怪訝な表情をするが、それも当然のことだろう。晩餐会が開かれた年は1885年頃のこと。「ヴーヴ・クリコ 1860年」は25年間熟成されていたことになり、それはそれは甘美な味だったに違いない。なぜなら、将軍はすぐに”お代わり”をしているのだから。映画を観ながら、村人に「今、あなたはすごいシャンパーニュを飲んでいるのですよ!」と教えたくなってしまうほど。
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メイン料理では、将軍が「これはまさしくウズラのパイ詰め石棺風だ。間違いありません」と村人に語るが、返事は「ハレルヤ」のひと言。この時出されたワインがブルゴーニュの銘醸ワイン「クロ・ヴ―ジョ」の1845年ヴィンテージだ。ラベルをよく見ると「ルイ・ラトゥール」とある。ここは1797年創業の名門で、「ルイ・ラトゥール クロ・ヴ―ジョ」は世界的にも評価が高い。

だが、史実としては、この時代に畑を単独所有していたのは「ウヴラール家」だった。ルイ・ラトゥール社がウヴラール家からブドウを購入して造っていたのか、あるいは映画のためにラベルが作られたのかはまったくの謎だ。だが、ここは素直に”映画ではルイ・ラトゥール社のもの”と考えれば、40年の熟成を経た「クロ・ヴ―ジョ」は”天国の味”と言っても過言ではないだろう。
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将軍は、バベットの料理を堪能し、その素晴らしさから、かつて「カフェ・アングレ」で同じような感動的な体験をし、その時の料理長が女性であったことを語る。そして、厨房にいるバベットを「彼女は、食事を恋愛に変えることができる女性だ」と称賛したのだ。ぜひ、この言葉をキーポイントにラストシーンを観て欲しい。人や料理に対する”将軍の見る目”に驚かされるはずだ。
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素晴らしい料理とワインは、温かな時間を作り、人の心をやわらかく解き放つ。長い間隔てられていた恋人たちの心をも、優しく照らしたのだ。バベットの料理は、食卓を囲んだ人々を幸せにした。そしてそれは、バベットがずっと心の中に持ち続けていた”料理人としての誇り”のなせる業だったのだ。

『バベットの晩餐会 HDニューマスター版』

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ルイ・ラトゥール クロ・ヴ―ジョ 2011&2012

ルイ・ラトゥール クロ・ヴ―ジョ 2011&2012

フランス、ブルゴーニュ地方。ピノ・ノワール100%。コート・ド・ニュイ地区ヴ―ジョ村の「クロ・ヴ―ジョ」の畑から生まれる。チェリーなどの赤い果実ハーブ、マッシュルームなどのキノコの香り。豊かな果実味としなやかな酸。味わいは力強いながらも限りなくエレガント。
750ml \ 34,650(2011年ヴィンテージ)、\41,800(2012年ヴィンテージ)
■「ルイ・ラトゥール クロ・ヴージョ 2011&2012」のお問い合わせ先/アサヒビール0120-011-121(お客様相談室)

ヴ―ヴ・クリコ ヴィンテージ 2012

ヴ―ヴ・クリコ ヴィンテージ 2012

その年に収穫された傑出したブドウだけを使用して造られたシャンパーニュ。その年の天候の特徴が感じられるのが魅力。2012年は洋ナシやアプリコットやイチジク、ハチミツ、トリュフの香り。フレッシュな酸味とまろやかな果実味で、そのバランスはパーフェクト。
750ml \10,120
■「ヴーヴ・クリコ ヴィンテージ 2012」のお問い合わせ先/MHD モエ ヘネシー ディアジオ☏03-5217-9738

取材・文/安齋喜美子
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバーする。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々を過ごす。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。

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