死を目前にした親にかける言葉は?“看取り人”小澤竹俊先生が贈る5つの言葉

親との別れについて考え始めるアラフィー世代。すでに親との別れを経験した人の中には、いまだ気持ちの整理がつかないという人も。親の死をうまく受け入れるためにはどうしたらいいのか、3500人もの患者を看取ってきた小澤竹俊先生に聞いた。
教えてくれたのは…
ホスピス医 小澤竹俊先生

ホスピス医 小澤竹俊先生

東京慈恵会医科大学医学部卒業後、山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センターやホスピスなどを経て、’06年、めぐみ在宅クリニック開院。

死を目前にした親には、首を縦にふれる言葉をかけて

近いうちにお迎えがくる。そんな状況にある親に、どんな言葉をかけたらいいのか。読者からは、そんな悩みも寄せられた。

「親御さんが首を縦に振る言葉を探す。それに尽きると思います。『お父さんはいつも私たちに、約束は必ず守りなさいっていっていたよね』『お母さんが私たちに一番伝えたかったのは、きょうだい仲よくということだよね』。本人が伝えたいであろうメッセージを、言葉にすれば、たとえ会話ができない状態であっても、うなずいてくれます。病気と闘いたいお父さんなら、『お父さんは、まだまだ死にたくないんだよね』と。そうやって、自分の思いを受け止めてくれる人がいることは、そのかたの心に平穏をもたらしてくれるはずです」

後悔にさいなまれたときは亡くなった親と会話を

病院で最期を迎えさせたことを親は怨んでいるのではないか、あの治療法は正解だったのか、元気なうちにもっと会いにいけばよかった。親の死後、自責の念を抱くことも少なくない。

「自問自答だと、どうしても自分を責めてしまいがち。なので、一人二役で、親御さんと心の中で会話をすることをおすすめします。

例えば、『私の判断で入院させてしまったけど、イヤだったよね』と、問いかけてみてください。そのとき、親御さんはどんな顔をしていますか? 穏やかな笑顔で、『そんなことないよ。あなたには感謝しているよ』と答えるのではないでしょうか。心の中で思い浮かべる親御さんは、決してあなたを責めたり、非難したりすることはないだろうと思います。後悔にさいなまれている人が心穏やかになれるには、本人からの許しが必要なのです」

ふがいない自分を認めてくれる存在をもつ

親の介護や看護も十分できていないうえに、仕事や家庭のことも中途半端になっている。そんな状況に自己嫌悪を抱く人もいる。

「人生は、『よくできました』ばかりではありません。100点満点ではなく、50点のときも、もちろんあります。そんなあなたのことを認めてくれる誰かが、すぐ近くにいるのではないでしょうか。ぜひ、そのことに気づいてください」

家族、友人、職場の仲間。「がんばっているよね」「よくやっているよ」と、自分を認めてくれる存在。その存在に気づけるのは、100点満点で自信にあふれた自分ではなく、50点しかとれず、気落ちしている自分だからこそ。

「弱い自分を認めてくれる誰かがいる。それが、弱さの中の強さとでもいうべき、たおやかな力になるのだと思います。ただし、『50点でいいんだ』と開き直るのは危険。最善をつくす気持ちは、どうぞ忘れないでください」

親との別れ

親の死を悲しめない自分がいてもいいんです

「親御さんの死を悲しめないという人もいるでしょう。きっと、親にかわいがられなかったり、過去に抱いた不公平感や不条理など、そう思わざるをえない合理的理由があるのだろうと思います。親への愛着があれば悲しみは大きく、なければ悲しみも少ない。それは、ごく自然なこと。悲しめない自分を責める必要はありません」

過去の親子関係や、親から受けた仕打ちがトラウマになり、今なお自分を苦しめているのなら、“幼い自分”と対話を。「悲しんでいるよね」と、共感し、「大丈夫、ひとりじゃないよ」と、優しい言葉で包み込む。

「むずかしい作業ですが、再出発をするには、心に傷を受けた時点に立ち戻り、そのときの自分に寄り添うことが大切です」

親が目に見えない存在になっても心と心の絆は残ります

「大事な存在を失ってなお心穏やかでいるために、ぜひ皆さんにしていただきたいこと。それは、親御さんの人生をなぞることです」

親とのエピソードを振り返る、家族など親を知っている人と思い出話をする、写真を見直す。親が存命の場合、親に直接、幼少期や青春時代も含め、その半生を聞くのもいい。親の生き様や人となりを知り、心にとめることで、親は自分の中に生き続ける。

「繰り返しになりますが、目に見え、手に触れられる存在でなくなったとしても、心と心のつながり、絆は確実に残ります。そしてそれが、穏やかにお別れを迎えるためになによりも必要なことだと、私は思います」

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    これから訪れるであろう親の死への恐怖や不安、すでに世を去った親に対して抱く後悔、癒えない悲しみ。アンケートには、親の死にまつわるさまざまな悩みや疑問が寄せられた。それにアドバイスをしてくださったのは、緩和ケアに25年間従事し、これまで3500人以上の患者を看取ってきた小澤竹俊先生。今回は「親の死の迎え方」に関する悩みに回答。

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