-
谷川俊太郎×山本容子「人生に、もっと詩と絵と遊び心を。」【エクラ新年1月号特別対談〈前編〉】
エクラ2022年1月号のカレンダー付録は、谷川俊太郎さんと山本容子さんの豪華Wネーム。それを記念しての対談は、コラボレーションのきっかけに始まり、年の重ね方の秘訣まで話題豊富。山本さんが愛する谷川さんの詩とともに、お楽しみください。今回は前後編の前編です。
谷川俊太郎×山本容子「人生に、もっと詩と絵と遊び心を。」【エクラ新年1月号特別対談〈後編〉】

山本容子(やまもとようこ)

谷川俊太郎(たにかわしゅんたろう)

「絵を描くことの究極は、現実とは違う空間をつくること。谷川さんの詩にも似たところを感じます」ーー山本容子さん
仕事と病。それぞれの多難な50代を乗り越えて
山本 状況や年齢で自分も変わりますからね。私もすごく不思議な読書体験をしています。『あのひとが来て』が完成した2年後に、大病して。
谷川 えっ、それは知らなかった。
山本 大腸がんが見つかって、転移の可能性のあるところも切除しました。そんな悲惨な状況で読んだのが、リディア・デイヴィスの短編集。読むというより、眺めているうちにふとイメージがわくような感じで。あとで見たら、ふだんはしない落書きでいっぱいでした。でも、この話はあの人のことだ、退院したら教えてあげようって変に冴えたところもあって(笑)。
谷川 普通の心理じゃなかったでしょう、きっと。大変でしたね。
山本 おかげさまで今はこのとおり元気ですけど、自分は一回死んだようなものだって、肝が据わりました。
谷川 それはうらやましい。僕は大病したことがないの。全然、変化がないから、何か自分に革命みたいなことが起きてほしいくらい。
山本 谷川さんの50代っていかがでしたか。
谷川 中年期クライシスって、あるでしょう? あとから振り返ってみるとそれだったかなと思いますね。
山本 詩作にも苦しまれたり?
谷川 詩は食べるために書いているからつらくはないんだけど、ちょっとよくないなというものが目立つ時期なんです。その後、新しい書き方を思いついたときに、ひとつ先に進んだような気がしましたね。
山本 私もそう。食べるために描いているし、同じような絵でも常に新しい表現を求めているんです。昔、陶芸を教わった八木一夫先生にうかがったんですけど、スランプになったら自己模倣をしなさい、と。昨日作ったのと同じもんを作ったってつまらんやろ、それをしてるうちに次にやりたいことが見つかるからって。

「僕は常に音楽に憧れているんです。意味がなくても人を感動させるから。自分の詩もそうありたいと願っています」ーー谷川俊太郎さん
詩も絵も音楽も、無意味であることのよさを味わう
――谷川さんのおっしゃる、“変化のない生活”を健やかに続けるコツは何かあるのでしょうか?
谷川 夏目漱石の『草枕』に「非人情」っていう言葉があるでしょう。彼は小説で人間模様をこまやかに書いたり、実際の人間関係に疲れると、漢詩を詠んだり絵を描きました。僕は後者、詩と絵の非人情の世界にいるから、人間関係があまり濃くないんですよ。それが健康でいる秘訣かもしれないですね。関係性としては淡泊すぎてつまらないと思うけど。
山本 でも、結婚されたり、関係を結んだら濃くなりもするのでは?
谷川 相手が濃くても、こっちが薄いもの。最初の結婚生活はしょっちゅう夫婦喧嘩をしてましたね。僕はひとりっ子だしまだ若かったから、他人との付き合い方を知らなかった。2度目は子供が生まれてまさに日常生活だったし、3度目は相手が相手だから、僕はやられっぱなし(笑)。
山本 佐野洋子さん、素敵でした。
谷川 ところで容子さんは今、何をしているのが一番楽しいの?
山本 東京より那須で過ごすことが多くなって、小学生が使うような小さなプレス機で版画を刷ったり、ふと出会った野花や鳥の名前を調べたりしてると、「あっ、今いい時間がきてるな」って思います。
谷川 うん、自然には意味がないからいいよね。
山本 谷川さんの詩にも、『これはのみのぴこ』みたいに、意味よりも音の連なりを楽しむものもありますね。そういうのも、私好きです。
谷川 僕は昔から一貫して言葉を信用していないの。例えばどんな長編を書いたって海のすべては書きつくせないでしょ。同時に、僕はずっと音楽に憧れてきました。音楽は意味がなくても人を感動させるから。絵も究極的にはそうですよね。
山本 はい。私は結局いつも空間で遊んでいる気がします。あちこちいろんな角度から見て、複数の時間をひとつの画面に表して。「真っ白でいるよりも」みたいに、谷川さんの詩の自在さにも近いものを感じます。それに谷川さんの詩は自分のことのようにすっと入ってくるんです。
谷川 僕の詩は自己表現じゃないからね。元来、宇宙とか自分の外にあるものを詩にしてきましたし。音楽でもべートーヴェンは主張が強いけれど、最近Calm Radioで聞いているハイドンにはそれがない。音楽だけ、というのがすごく心地いいの。
山本 そんなふうに詩や絵や音楽、意味がないものの豊かさを知り、味わえる大人でありたいですね。必ず心が軽くなるから。今日はたくさんお話しできてうれしかった!
谷川 こちらこそ、ありがとう。

「真っ白でいるよりも」(『真っ白でいるよりも』 1995年 集英社)
1
自分がチェンバロになって
一晩中待っているのよ
もちろんモーツァルトを
まだ十二歳の
ほらそんなふうに
眠れないときってない?
2
愛ってのはころがってるのね
キッチンなんかにね
玉ねぎ刻んでて涙が出ると
思い出すわ
悲しみの理由は
いつもいつも愛だったって
3
生まれ変わったら鯨になりたい
海の中で歌って暮らすの
言葉は知らないの
でも歌はあるの
鯨の心は人間よりずっと大きいから
歌もいつまでも続くの
4
そうなんだよ
絵になる一瞬が大事なのさ
私そのために生きてる
だから私の写真一枚だけとっておいて
そいで思い出さずに空想して
私の一生を
5
まだ二十世紀なのね
未来ってなんてゆっくり来るんだろ
待ってらんないな
椅子に座ってるのもまどろっこしい
恋をするのも
夢を見るのもまどろっこしい
6
わざわざ迷子になりに行くの
巨大迷路に
ここがどこか今がいつか
分かりすぎるんだもん
それなのに不意に分からなくなる
地球儀なんか見てると
7
花が咲いてるでしょ
海鳴りが聞こえるでしょ
そよ風も吹いているでしょ
それだけで幸せって思ってしまうでしょ
だから私うしろめたいの
ひとりぼっちが
8
私は空から見られているのだわ
カラスに雲にトンボに天使に
空から見ると
意地悪も嫉妬も見えなくなって
私は私じゃなくなって
きっと地面に溶けている
9
マラケシュにいたときのこと聞きたい?
でもあなたはいなかったのだから
きっと退屈ね
マラケシュにも子どもがいたわ
黙りこくって立ってる子が
だからきっと愛もあったのね
10
嘘つくのって好きよ
まだ知らないほんとのことを
知ってるような気になれるから
でもほんとのほんとは
一瞬で過ぎ去る
いい匂いみたいに
11
男よりも木に抱かれたい
葉っぱに触ってほしい
枝に縛られたい
根っことからみあいたい
私は空にやきもちやくの
木は夜も空をみつめているんだもの
12
知ってた?
気持ちにはいろんな色がある
私あなたの色とまざってもいい
真っ白でいるよりも
きらいな花の色になるほうがまし
でしょ?


『ハムレット! ハムレット!!』
小学館 ¥3,080
谷川俊太郎さんの書き下ろしの詩と山本容子さんによる表紙絵・口絵によって彩られた、名作戯曲『ハムレット』にまつわるアンソロジー。太宰治、小林秀雄、大岡昇平、ラフォルグらの小説、芥川比呂志のエッセー、ランボオの詩など全12篇を収録。

カレンダー掲載の銅版画をエクラプレミアム通販で購入できます!
谷川俊太郎さんの詩の世界を山本容子さんが絵にした、カレンダー掲載作品のうち、銅版画は計8点。素敵なコラボレーションから生まれた作品をお手元に!
>>くわしくはこちら

『あのひとが来て』
カレンダーでは8月に掲載した作品。「あのひとが来て」に登場する「雨」「木」といったモチーフを描きつつ、そこには犬のルーカスの姿も。詩の中の内省的な時間と重なる、夢幻的な画面。¥158,400/エクラプレミアム通販
イメージサイズ28×39.5㎝ 銅版画、手彩色 制作/2005年

『旅6』
こちらは9月掲載の作品。美しい虹は、「旅6」の詩の中でハワイの空にかかっていたものからのイメージ。左に描かれた少女のワンピースのはためきが、ふわりと浮かぶ感じをリアルに伝える。¥158,400/エクラプレミアム通販
イメージサイズ28×39.5㎝ 銅版画、手彩色 制作/2005年
作品のサイズなどの詳細はこちらをご覧ください。
-
【エクラ1月号特別付録】谷川俊太郎さん×山本容子さん2022年銅版画カレンダー
創刊以来、毎年1月号の付録として人気を博している山本容子さんの銅版画作品カレンダー。今回は、山本容子さんと谷川俊太郎さんの豪華Wネームで、詩集『あのひとが来て」』の世界観がテーマ。エクラ1月号は2021年12月1日発売、どうぞお買い逃しなく!
-
<アラフィーにおすすめの本4選>気づきと発見の連続が満載の『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
アラフィー女性にこそ読んで欲しいおすすめの本を、編集部がピックアップ! 全盲の男性と一緒に美術館や展覧会をめぐり歩き、障害や幸せのあり方について考えさせられる『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』をはじめ、イチ押しの4冊をご紹介。
-
独特な雰囲気が魅力的。 メキシコ女性作家の短編集『 赤い魚の夫婦 』【斎藤美奈子のオトナの文藝部】
アラフィー女性に読んでほしい、文芸評論家・斎藤美奈子さんのおすすめ本。今回は、本邦初訳のメキシコの女性作家、グアダルーペ・ネッテルの短編集をピックアップ。現実と幻想が同居した独特な雰囲気の4編の物語を、秋の夜長のおともにぜひどうぞ。
What's New
-
家族の悩みを抱えている50代におすすめ!中学受験小説や涙と笑いの介護録など家族や介護をテーマにしたおすすめ本5選
梅雨のおうち時間は読書がおすすめ。今回は、50代に読んでほしいおすすめ本をご紹介。毎月お届けしている連載「今月のおすすめ本」でこれまで紹介してきた本の中から、家族・介護をテーマにした本をピックアップ。
カルチャー
2025年6月16日
-
スープに髪が落ちるように到着するーIl arrive comme un cheveu sur la soupe.【フランスの美しい言葉 vol.20】
読むだけで心が軽くなったり、気分がアガったり、ハッとさせられたり。そんな美しいフランスの言葉を毎週月曜日にお届けします。ページ下の音声ボタンをクリックして、ぜひ一緒にフランス語を声に出してみて。
カルチャー
2025年6月16日
-
【二宮和也インタビュー】仕事論から生死観まで......赤裸々に語られる、”生の言葉”。初めての新書を出版した、その舞台裏に迫る
俳優やアーティスト業のかたわら、YouTubeの配信も行うなど、近年ますますマルチに活躍している二宮和也さん。ここ数カ月だけでも、主演映画『8番出口』がカンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門に正式招待されたり、嵐として来春に大規模コンサートを行うことを発表したりと、話題がつきない。そんな二宮さんが、初となる“新書”『独断と偏見』(集英社)を6月17日(火)に発売する。初めて文字だけで表現した本書について、二宮さんが会見で語った言葉とともに紹介する。
カルチャー
2025年6月16日
-
【安田顕さんインタビュー】自分自身に対する疑心暗鬼や強い復讐心、そうした思いが”怪物”という心の状態じゃないかと思った
第57回百想芸術大賞で作品・脚本・男性最優秀演技賞の三冠に輝く韓国ドラマ『怪物』。猟奇的殺人事件をめぐる心理戦と濃密な人間模様が展開する傑作シリーズのリメイク『ドラマW 怪物』が、7月6日よりWOWOWで放送・配信される。オリジナルで韓国の名優シン・ハギュンが演じたドンシクに当たる派出所の刑事・富樫浩之役に挑むのが安田顕さんだ。現在51歳の安田さんが演技に向き合う真摯な姿勢とたゆまぬ努力、そして50代で感じている心身の変化とは?
カルチャー
2025年6月15日
-
山口りえさん「ゼロからイチをつくるのが好き。音楽で癒すのが使命だと感じます」【エクラ華組 心のラグジュアリーが育つ時間vol.4】
アラフィー読者モデル エクラ華組の連載「"心のラグジュアリー"が育つ時間」。第4回目は、NPO法人「音育プレママパーティ」を立ち上げて活動している山口りえさんが登場。アクティブな秘訣を聞いた。
カルチャー
2025年6月9日
Magazine
-
読者モデル 華組のユニクロ・GUコーデ
真似したい!50代ファッションブロガーの着こなし集
-
エクラ公式通販の人気アイテムランキング
もう迷わない!50代が買うべき旬の服
-
読者モデル 華組のZARAコーデ
50代はどう着こなす?ファッションブロガーコーデ集
-
大人のためのヘアスタイル・髪型カタログ
髪のお悩み解決!若々しく見えるヘアスタイル
-
エクラ世代におすすめ!肌のサブスクサービス
花王最先端の肌解析やプロのお手入れを体験!まずはトライアルコースで
-
一度は泊まりたい!高級ホテル・旅館
日常を忘れて至福のときが過ごせる極上の旅へ
-
着るだけで猫背・巻き肩による負担を軽減!
着るだけで無理なく姿勢をサポートしてくれるインナーに注目!
-
50代におすすめの初夏アイテム
人気ファッションアイテムを厳選してご紹介
-
50代が真似したいデニムスタイル
進化系“デニム・エレガント”でセンスアップ!
-
カジュアルにもエレガントにも決まる「50代のボブヘア」58選
初夏は涼やかで、軽やかなヘアスタイルを楽しみたい。季節の変化に合わせた髪の扱いや、ファッションに馴染むアレンジができるボブヘアが人気。カジュアルからエレガントまで自在に楽しめる、洗練されたスタイル。
-
【50代におすすめのヘアスタイル・髪型カタログ】髪型を変えて脱おばさん!ショート・ボブ・ミディアム・ロング別
白髪や髪のうねり、薄毛、パサつきなど40代、50代の気になる髪悩みを解消するおすすめヘアスタイルを提案。ショート、ボブ、ミディアム、ロング別ヘアスタイルから知っておきたい最新ヘアケア事情まで、おばさんぽ…
-
『続・続・最後から二番目の恋』スタイリストさんに聞いた! 小泉今日子さんの衣装の秘密 vol.2 休日カジュアル編【ウェブエクラ編集長シオヤの「あら、素敵☆ 手帖」#102】
放映中の人気ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』に主演の小泉今日子さんの衣装を担当したスタイリストさんに、小泉さん扮する「吉野千明」の衣装コーディネートの秘密を前回に続き伺います。Vol.2は「休日カジュ…
-
前髪の作り方に悩む50代女性必見!50代に人気の「前髪あり・なし」ヘアスタイル・髪型カタログ【ショート・ボブ・ミディアム・ロングヘア別】
前髪の作り方次第でおばさんぽくならず若見えが叶う50代からのヘアスタイルをご紹介。生え際の白髪やおでこのシワ、ボリューム不足など気になるお悩みを解消して、今っぽさやおしゃれ感も手に入る大人の前髪スタイ…
-
とにかく軽くて楽ちん!夏でも快適&気軽に着られる50代注目のデニム【チームJマダムブログ人気記事週間ランキングTOP10】
チームJマダムブログ週間ランキングトップ10にランクインした人気ブログ記事をピックアップ。今週、40代・50代が気になったのは、軽くて楽ちんと絶賛のサマーデニム。