【尾上右近インタビュー】 注目の若手歌舞伎俳優が語る。夢中で過ごした2021年、今の想いとは?

今、最も注目される若手歌舞伎俳優のひとり、尾上右近さん。12月は歌舞伎座「十二月大歌舞伎」第二部、『男女道成寺』『ぢいさんばあさん』に出演する。はとこ同士でもある中村勘九郎さんとの共演は、「とても華やかで見応えのある舞台だった」、「もう一度観たい」とSNSでも話題に。一年の締めくくりに相応しい華やかな舞台。さっそく緊急インタビューを敢行しました!
【尾上右近インタビュー】 注目の若手歌舞伎俳優が語る。夢中で過ごした2021年、今の想いとは?_1_1
『男女道成寺』狂言師左近=尾上右近(令和3年12月歌舞伎座)Ⓒ松竹

華やかな踊りを純粋に愉しんでいただきたい『男女道成寺』

 “道成寺”は歌舞伎において、名曲でもあり大曲です。
『京鹿子娘道成寺』は、お能の「道成寺」からとり歌舞伎舞踊として発展させたもので、それをさらにパロディ化したのが『男女道成寺』。『娘道成寺』は1時間以上ひとりで踊る女方最高峰の演目のひとつですが、『男女道成寺』は女と男、ふたりで踊るというのが特色で、今回は、中村勘九郎のお兄さんと踊らせていただきます。
そもそもは安珍というお坊さんと清姫の悲恋の物語が題材です。恨み、怨念、生き霊、魑魅魍魎など…人間の目に見えない部分を視覚化していくというのがお能の精神だとしたら、それを華やかに楽しんでもらえるように演出したのが歌舞伎。安珍を恨んだ末に怨念で蛇になり、鐘ごと焼き殺す…という物語が底辺にありますが、華やかでエンターメント性が高く、純粋に踊りを楽しんでいただける演目です。

いろいろな型がありますが、僕の曾祖父六代目尾上菊五郎がある程度まとめた作品でもあり、ご縁もあります。それぞれの家に歴史があるぶん、いろいろな思い出を持っている、というのも歌舞伎の魅力です。ただ決まったカタチでやり続けるのではなく、その時代ごとに新しい型を作ってきて、長く愛される作品になっている。ちなみに男女で踊る『男女道成寺』の他に、男1人で踊る『奴道成寺』、豊後節に合わせて踊る『豊後道成寺』というものもあるんです。今回も振付の藤間勘十郎先生が新しい『男女道成寺』を作りましょう、とおっしゃって、そこに勘九郎のお兄さんがアイディアを出してくださったり。勘九郎のお兄さんが立役(男役)、僕が女方(女役)、というのがストレートな配役なのですが。今回は、逆。従来のカタチにとらわれず、役者それぞれのことを考えてくださっての勘十郎先生の采配でしょうか。3つのお面を使い分け、3人の人格をコミカルに踊るところも今回ならではの演出です。ぜひそこを感じてもらえたら。見所ですか? ここを観てていただきたいというのが1分1秒、連続してます!!!(真顔) いろいろな可能性を秘めているエンタメ性の高い、男女の踊りになっていると思います。
中村勘九郎のお兄さんと共演するのは、18年ぶり。同じ舞台に立つことはあったのですが、一緒にお芝居をさせていただくのは尾上右近を襲名して以来、初めてとなります。

そもそも僕が7歳のときに歌舞伎の初舞台に立つきっかけをつくってくださったのが十八代目中村勘三郎(勘九郎の父)のおじさま。実は初舞台は、中村屋の公演なんです。勘三郎のおじさまは、父・清元延寿太夫と従兄弟関係で、僕が踊りが好きで、よく歌舞伎を観たり、楽屋に出入りするのを見て、おもしろいから舞台に出させてみよう、とおしゃってくださったのが始まりです。ちょうど初舞台は十七代目中村勘三郎さんの追善公演でした。本名の岡村研佑で5年弱舞台に立ったのですが、初舞台から連続三回、その後も中村屋の舞台にご一緒させていただくことが多くて。一日一日がとても濃密な印象で、思い出深い日々でした。

だから小さい頃の僕が思う歌舞伎感というのは、中村屋の背中や横顔の印象が大きかった。そして歌舞伎を観たお客さんの雰囲気。客席の空気や匂い。具体的な匂いもそうだし、役者の持つ雰囲気としての匂いも。「歌舞伎って楽しいでしょ、俺も歌舞伎好きなんだよ。歌舞伎やってておもしろいんだけれど、そんな姿をみて面白いと思わない?」というお客様と俳優との距離感が最高に魅力的で。これがやりたい!と思いました。

その後尾上右近を襲名させていただきましたが、音羽屋はまたカラーが違います。菊五郎劇団というチームの中で、自ら役者の道を選んで名前をもらってやっている立場になるので、ひとつ大人にならなければいけない。プロとして経験を積んでいくというのは単に楽しいだけじゃない。“楽しむ”って楽な訳じゃなくって、苦しかったり、つらかったり…その人にしかわからない気持ちを育んだ上で選ぶから楽しいんだな、と最近つくづく感じます。子供の頃はわからなかったのですが、本当の“楽しい”を知るための修行が、尾上右近になってから続いています。かけないのない日々です。どちらが大切ということでもなく音羽屋の日々、中村屋の日々、どちらも大切ですね。そんな想いを胸に、この一ヶ月勤めさせていただいています。

言葉にすれば野暮になるーーそんな勘九郎のお兄さんへの想い

勘九郎のお兄さんへの想いは、「言葉にすれば野暮になる」という言葉に尽きます。得も言われぬ、と言いますか。初日、僕の目をみて「うん」と首を縦に振ってくださったのが本当に嬉しかった。「おかえり」って言ってくださっている感じがあって、忘れられないです。

中村屋スピリッツを大切にしてらっしゃる勘九郎のお兄さんとご一緒する中で、懐かしいな、と思うこともあります。同じ血が流れている、と感じさせていただくこともあったり。今日はこんな感じなんだな、というのが目や息づかいでわかる部分があるというのが楽しいです。ああでもない、こうでもない、それは違う、とお叱りを受けたりしながら学んだ日々があるので、その瞬間瞬間にアンテナを張っていることに充実感を覚えます。

勘九郎のお兄さんは、どしんと構えていらして大きさも感じます。僕は先輩についていくという姿勢を忘れてはいけない部分もあるけれど、せめぎ合いながら、思いっきりやらせてもらってもいいですか、という気持ちでぶつかっていきたい。

不思議な巡り合わせで、今がタイミングだったんだな、と思います。去年でしたら無駄に力が入っていた気もします。本当に感謝ですし、毎日一緒に過ごせることが嬉しい。だから休演日が嫌なんです。毎日やりたい、休む必要はない、というくらい気持ちが前のめり。きっとお客さまにもそういう部分を感じていただけるんじゃないかと思います。

歌舞伎ファンとしても楽しみな『ぢいさんばあさん』

【尾上右近インタビュー】 注目の若手歌舞伎俳優が語る。夢中で過ごした2021年、今の想いとは?_1_2
『ぢいさんばあさん』宮重久弥=尾上右近_令和3年12月歌舞伎座Ⓒ松竹
尾上菊之助のお兄さんと中村勘九郎のお兄さんが共演する『ぢいさんばあさん』は僕も好きな演目。そしてイチ歌舞伎ファンとしても「おおっ!!このお二人の共演、観たかった!」という心持ちです。菊之助のお兄さんは、少年だった僕を仕込んでくださった役者としての兄のような存在なので、お二人が並んでいる姿は本当に嬉しい。
物語としては、おしどり夫婦が訳あって37年間離ればなれになった後再会する、というもの。互いを思い合う、心温まる名作です。原作は森鷗外で初演は昭和。新作でもないし、古典でもない。時代的にも中間という色どりが特徴でもあるので、初めて歌舞伎を観てもらえる方には、「こういう歌舞伎もあるんだ」という感覚を抱いていただけると思います。お琴や尺八など音楽がとても美しく、セットも季節感があり、日本の四季を感じられる作品です。

ただ僕自身は悲しい物語という部分も感じます。若さという宝を失っても一緒にいられる、というのは幸せなのですが、取り返しもつかない時間もある。離ればなれになって長い間過ごしているけれど、それを超越していく二人の姿。いつかやってみたいお芝居のひとつです。

夢中で過ごした2021年。来年は一層身も心も歌舞伎に捧げたい

2021年は、夢の中のような 、まさに“夢中”で過ごした一年でした。ミュージカルでは憧れの俳優・古田新太さんとダブル主演なんて夢のようでしたし。何よりもこうやって三ヶ月間歌舞伎座の舞台を勤めさせていること。歌舞伎が好き、というのを人生で一番実感した一年でした。同世代にも感謝の想いが芽生え、先輩たちへの感謝も増し、追いかけようという心も強くなり仲間に入れてもらいたい、という気持ちになりました。四苦八苦する部分もありましたが、振り返っている暇も、祝福している暇もない。とにかく、ありがとうございます。という気持ちです。

来年の目標は、大きく楽しむ。とにかく、自分を育てる。一層身も心も歌舞伎に捧げたい。いつか歌舞伎座に自分の気が充満するような役者になる。そして鏡獅子を一ヶ月の公演で踊る、それが僕の夢です。

十二月大歌舞伎は初心者の方々がいらしても大いに楽しめる演目ばかり。まだまだ世の中は予断を許さぬ状況ですが、ぜひとも歌舞伎座にお越しいただければ嬉しいです。

十二月大歌舞伎
令和3年12月1日~26日(日) 
第二部 午後2時30分開演
一『男女道成寺』
二『ぢいさんばあさん』
一等席 15,000円 二等席11,000円 三等A席5,000円 三等B席3000円
1階桟敷席16000円
チケットホン松竹 0570-000-489

▼チケットWEB松竹
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