『京鹿子娘道成寺』は、お能の「道成寺」からとり歌舞伎舞踊として発展させたもので、それをさらにパロディ化したのが『男女道成寺』。『娘道成寺』は1時間以上ひとりで踊る女方最高峰の演目のひとつですが、『男女道成寺』は女と男、ふたりで踊るというのが特色で、今回は、中村勘九郎のお兄さんと踊らせていただきます。
そもそもは安珍というお坊さんと清姫の悲恋の物語が題材です。恨み、怨念、生き霊、魑魅魍魎など…人間の目に見えない部分を視覚化していくというのがお能の精神だとしたら、それを華やかに楽しんでもらえるように演出したのが歌舞伎。安珍を恨んだ末に怨念で蛇になり、鐘ごと焼き殺す…という物語が底辺にありますが、華やかでエンターメント性が高く、純粋に踊りを楽しんでいただける演目です。
いろいろな型がありますが、僕の曾祖父六代目尾上菊五郎がある程度まとめた作品でもあり、ご縁もあります。それぞれの家に歴史があるぶん、いろいろな思い出を持っている、というのも歌舞伎の魅力です。ただ決まったカタチでやり続けるのではなく、その時代ごとに新しい型を作ってきて、長く愛される作品になっている。ちなみに男女で踊る『男女道成寺』の他に、男1人で踊る『奴道成寺』、豊後節に合わせて踊る『豊後道成寺』というものもあるんです。今回も振付の藤間勘十郎先生が新しい『男女道成寺』を作りましょう、とおっしゃって、そこに勘九郎のお兄さんがアイディアを出してくださったり。勘九郎のお兄さんが立役(男役)、僕が女方(女役)、というのがストレートな配役なのですが。今回は、逆。従来のカタチにとらわれず、役者それぞれのことを考えてくださっての勘十郎先生の采配でしょうか。3つのお面を使い分け、3人の人格をコミカルに踊るところも今回ならではの演出です。ぜひそこを感じてもらえたら。見所ですか? ここを観てていただきたいというのが1分1秒、連続してます!!!(真顔) いろいろな可能性を秘めているエンタメ性の高い、男女の踊りになっていると思います。