クラーナハにグッと来た、『メトロポリタン美術館展』。
皆さまもうお出かけでしょうか、現在、国立新美術館で開催中の『メトロポリタン美術館展-西洋絵画の500年』。初来日のフェルメール作品をはじめ、これほど粒よりの西洋古典絵画が揃って来日することは稀。会期終了の5/30までに、ぜひともご覧ください!
と宣伝したところで、興味のない人には響かないかもしれません。日本人にとって、西洋の古典絵画の何が退屈かと言えば、「キャラが薄い」ということでありましょう。写実性や理想化を追求しつつ、三次元を二次元の画面に落とし込めば、出来上がるものは大同小異。その中の微差におもしろみを見出すのはちょっと面倒……。
私もどちらかというとそんなひとりですが、ルカス・クラーナハ(父)の『パリスの審判』は一味違います。今回は、この一点だけをクローズアップしてみましょう。
と宣伝したところで、興味のない人には響かないかもしれません。日本人にとって、西洋の古典絵画の何が退屈かと言えば、「キャラが薄い」ということでありましょう。写実性や理想化を追求しつつ、三次元を二次元の画面に落とし込めば、出来上がるものは大同小異。その中の微差におもしろみを見出すのはちょっと面倒……。
私もどちらかというとそんなひとりですが、ルカス・クラーナハ(父)の『パリスの審判』は一味違います。今回は、この一点だけをクローズアップしてみましょう。
パッと見では質感表現や細部の描写、霞む遠景などがいかにも泰西名画らしく映ります。そう、技術は確かなのです。でも、不思議なところがチラホラ。自分なりにやってみたいこと、お客さん目線で受けそうなことなどが節操のない感じで同居していて、独特な世界を生んでいる。私は、クラーナハの作品のそういうところにグッと来てしまうのです。
絵に入る前に、まずは「パリスの審判」のあらすじを。ネタ元はギリシャ神話です。ある英雄と海の女神の結婚式のさなかに、招かれざる客が現れました。それは、不和の女神エリス。そりゃ呼ばれないでしょうよ…と誰しも思うはずですが、宴の場にやってきた彼女は、「最も美しいものへ」と刻んだ黄金のリンゴを投げ入れます。すると、ヘラ、アテナ、アフロディーテの三女神が「私にこそふさわしい」と主張し始め、収拾がつかない。そこで主神ゼウスは、トロイアの王子パリスに裁定を丸投げすることに。ヘルメスに連れられてパリスのもとにやってきた3人は、報酬を持ち掛けて自分にリンゴを渡すようパリスを唆します。結局、リンゴを手にしたのは、絶世の美女を与えると約束したアフロディーテでした。ではその美女とは誰かというとスパルタ王妃で、このことがトロイア戦争のきっかけになるという、後日譚が壮大な意地の張り合いだったのでした。
絵に入る前に、まずは「パリスの審判」のあらすじを。ネタ元はギリシャ神話です。ある英雄と海の女神の結婚式のさなかに、招かれざる客が現れました。それは、不和の女神エリス。そりゃ呼ばれないでしょうよ…と誰しも思うはずですが、宴の場にやってきた彼女は、「最も美しいものへ」と刻んだ黄金のリンゴを投げ入れます。すると、ヘラ、アテナ、アフロディーテの三女神が「私にこそふさわしい」と主張し始め、収拾がつかない。そこで主神ゼウスは、トロイアの王子パリスに裁定を丸投げすることに。ヘルメスに連れられてパリスのもとにやってきた3人は、報酬を持ち掛けて自分にリンゴを渡すようパリスを唆します。結局、リンゴを手にしたのは、絶世の美女を与えると約束したアフロディーテでした。ではその美女とは誰かというとスパルタ王妃で、このことがトロイア戦争のきっかけになるという、後日譚が壮大な意地の張り合いだったのでした。
クラーナハの作品では甲冑姿の若者がパリスで、風変わりな格好の老人がへルメスです(兜は2羽の鳥の飾り物!)。で、肝心のリンゴはどこ? そして女神は誰が誰? 女神たちは個性が薄く明確なアトリビュートもないので判別がむずかしい(手前の2人がよく似ていて双子みたい)。画面左上のクピドが狙いをつけている、帽子姿の女神がおそらくアフロディーテなのでしょう。一方、パリスはぼんやりとした表情を浮かべ、裁定者らしくありません。すっぽんぽんの三人組の意味不明な要求に困惑しているかのよう。「女性に惑わされる男」という図式は、アダムとイヴの構図を彷彿とさせます。
これぞクラーナハ!という重要ポイントは、ヘルメス以外の衣装が"当世風"だということ。クラーナハは肖像画制作時に喜ばれた俗っぽいほどのイマドキ感を、神話にもあてはめているわけです。それによって際立つのが、女神たちの裸体の官能性。流行のアクセサリーや帽子、薄布だけを纏うのは、「神話(=異世界)ゆえのヌードです」という言い訳をせず、むしろ裸を日常に寄せています。平易かつ下品に申しますと、そのほうが断然エロい。この手法は人気を呼び、クラーナハは工房をあげて裸体画を大量生産しました。
そのため『パリスの審判』にも類品が多数ありますが、本作はその中でも出色の完成度。横・正面・後ろという女体の三方向提示は珍しく、発注者の欲望の表れでしょうか。そのわりに帽子を被った女神の薄布は平板で色も濃いため、後世の補筆かと思われます(※木の根元の湧き水の繊細さと比較)。本作の女神たちが堂々としている分、その点がちょっともったいない。個人的には、カールスルーエ州立美術館版の浮足立ってる女神たちの描写が可笑しくて一番好きです。
これぞクラーナハ!という重要ポイントは、ヘルメス以外の衣装が"当世風"だということ。クラーナハは肖像画制作時に喜ばれた俗っぽいほどのイマドキ感を、神話にもあてはめているわけです。それによって際立つのが、女神たちの裸体の官能性。流行のアクセサリーや帽子、薄布だけを纏うのは、「神話(=異世界)ゆえのヌードです」という言い訳をせず、むしろ裸を日常に寄せています。平易かつ下品に申しますと、そのほうが断然エロい。この手法は人気を呼び、クラーナハは工房をあげて裸体画を大量生産しました。
そのため『パリスの審判』にも類品が多数ありますが、本作はその中でも出色の完成度。横・正面・後ろという女体の三方向提示は珍しく、発注者の欲望の表れでしょうか。そのわりに帽子を被った女神の薄布は平板で色も濃いため、後世の補筆かと思われます(※木の根元の湧き水の繊細さと比較)。本作の女神たちが堂々としている分、その点がちょっともったいない。個人的には、カールスルーエ州立美術館版の浮足立ってる女神たちの描写が可笑しくて一番好きです。
さて、よくよく画面を見ていくと、案外、整合性が取れていないことがわかります。たとえば馬がいくらなんでも小さすぎる。中景の道の幅も広すぎやしないか。でも、奥の建物まできちんと辿り着けるように描きたいからせっせと繰り返す。極めつけは奥へと伸びる枯れ枝で、唐突に遠近感を強調しています。戦争につながることへの不穏な演出なのかもしれませんが、それ以上に、遠近表現を操る率直な嬉しさがにじみ出ているような……。これは江戸時代の秋田蘭画でも見かけます。
一番目立つはずの木の幹のことが最後になってしまいましたが、画面を分断するような木の描写もなかなかに奇抜です。ゴーギャンの『説教の後の幻影』(スコットランド国立美術館)ほどのインパクトはないにせよ、やはり分断するような意図があるのかもしれません。中世に脚色された「パリスの審判」ではパリスは狩人の設定で、夢の中でヘルメスと女神たちに出会うのだそうで、木の右側は夢の世界(ゆえにパリスは虚ろな表情)、木の左側は現実世界(馬はカメラ目線)だったりするのでしょうか。とはいえ右端の女神も馬同様にこちらに視線を送っており、統一感があるのかないのか判然としませんが、あちこちからサービス精神が迸っていると思えば、とても愛嬌のある画家として受け止められるはず。オジサン顔のクピドもかわいいではありませんか。
会場で、皆さまも好みの一点に出会えますように。
(編集B)
一番目立つはずの木の幹のことが最後になってしまいましたが、画面を分断するような木の描写もなかなかに奇抜です。ゴーギャンの『説教の後の幻影』(スコットランド国立美術館)ほどのインパクトはないにせよ、やはり分断するような意図があるのかもしれません。中世に脚色された「パリスの審判」ではパリスは狩人の設定で、夢の中でヘルメスと女神たちに出会うのだそうで、木の右側は夢の世界(ゆえにパリスは虚ろな表情)、木の左側は現実世界(馬はカメラ目線)だったりするのでしょうか。とはいえ右端の女神も馬同様にこちらに視線を送っており、統一感があるのかないのか判然としませんが、あちこちからサービス精神が迸っていると思えば、とても愛嬌のある画家として受け止められるはず。オジサン顔のクピドもかわいいではありませんか。
会場で、皆さまも好みの一点に出会えますように。
(編集B)
What's New
-
-
-
-
-
-
-
-
【俳優・板谷由夏の私をつくるジュエリー vol.6】モノトーンコーデに映える「ヴァン クリーフ&アーペル」のスイートモチーフ
俳優・板谷由夏が愛するファッションルールと、それにマッチするジュエリー。今回は、大人がスイートモチーフをつけこなすテクニックを。
Feature
-
進化したレチノールの力で、シワもシミも
SHISEIDOの大人気薬用シワ改善&美白クリームに新処方!
-
読者モデル 華組のユニクロ・GUコーデ
真似したい!50代ファッションブロガーの着こなし集
-
読者モデル 華組のZARAコーデ
50代はどう着こなす?ファッションブロガーコーデ集
-
エクラ公式通販の人気アイテムランキング
もう迷わない!50代が買うべき旬の服
-
亜希さん登場!大人の体が喜ぶものって?
リポソーム体験サロン by Lypo-C × éclat開催レポ
-
深まるエイジング悩みに先進サイエンスで挑む
「エピステーム」から新生スキンケア登場!肌質の変化を感じたら
-
ロクシタンの薬用育毛美容液で育毛ケア開始
おしゃれなボトルやすがすがしい香りで育毛ケアをスタートしよう
-
「髪のうねり」に悩むエクラ世代へ
大人の髪悩みは「ラサーナ プレミオール」でケア!
-
大人のためのヘアスタイル・髪型カタログ
髪のお悩み解決!若々しく見えるヘアスタイル
-
50代の旅行コーデ
風通しもばっちり&涼やかな一着で快適な旅を
-
50代におすすめの最新アイテム
人気ファッションアイテムを厳選してご紹介
-
“届く”ビタミンCを味方に健やかに美しく
ビタミンCを効果的に「吸収」。いま選ばれているサプリとは?
-
“マッキントッシュ ロンドン”で秋支度
英国テイストの新作ワンピースやアウターでときめくシーズンを謳歌
-
一度は泊まりたい!高級ホテル・旅館
日常を忘れて至福のときが過ごせる極上の旅へ
Ranking
-
髪型で一気にあか抜ける!40代に似合う最旬ボブヘア23選
髪型ひとつで、印象は驚くほど変わる。「老けて見えるのは避けたい」「いつも同じ髪型でマンネリ」そんな40代女性にこそ試してほしいのが、今っぽくて洒落感たっぷりなボブヘア。
-
【50代に人気のショートボブ60選】手入れが楽でうねりやくせ毛も気にならない!大人可愛いショートボブスタイル
ナチュラルで上品、でもどこか洒落ている。そんな“ちょうどいい”を叶える、50代のためのショートボブスタイルを厳選してご紹介。グレイヘアを活かしたヘアスタイルやくせ毛やうねりのお悩みもカバーするへスタイル…
-
【50代のスニーカーコーデ15選】街歩きも旅行も歩きやすい!秋のおしゃれに選びたい一足
暑さも少しずつやわらぎ、サンダルよりもスニーカーの出番が増えてくる季節。ということで今回は、おしゃれ好きな40代・50代読者モデル・華組&チームJマダム愛用のスニーカーをピックアップ!
-
夏服を秋色でアップデート!ブラウンやカーキなど、50代の“こなれ感”は色使いで決まる
9月に入って、夏服はなんだかマンネリ気味…そんな時は“秋色”をひとさじ加えてみて。ブラウン、カーキ、ボルドーなど、深みのある色を一点投入するだけで、ぐっとこなれた印象に。秋色を無理なく取り入れるスタイル…
-
【2025年最新トレンド】50代にふさわしいラグジュアリーブランドの新作バッグ
ルイ・ヴィトン、サンローラン、ロエベ、セリーヌ、ディオールなど、50代がときめくラグジュアリーブランドの新作バッグ。今年のバッグ選びに役立つ最新情報をチェック!
Keywords