仕事に生活に、自分らしく向き合う杏さんが、本誌表紙に初登場。大人年代の入口で今、感じていること。そして、その先に向かうための希望の力について。
呼ばれれば、どこにでも。意志をもって流れていきたい
ベルトつきジャンプスーツ¥206,800・帽子¥59,400/三喜商事(プラン シー)
大事な存在を抱えたままでも、軽やかに動ける。そんな杏さんに、またひとつ、新しい場所への縁がつながった。4月5日から放送・配信が始まったWOWOWの主演ドラマ『連続ドラマW BLOOD&SWEAT』は、日本とフィンランドの共同製作によるクライム・サスペンス。舞台は東京とフィンランド、台詞の半分は英語という初の国際プロジェクトで、杏さんは連続猟奇殺人事件を追って異国へ渡り、自らの因縁にも向き合うこととなる刑事役に挑戦。家族とともに真冬のフィンランドで3カ月の時を過ごした。
「フィンランド語はアイヌ語と少し似ている部分があって、北方文化のつながりみたいなものを興味深く感じました。水の質がいいところで、ごはんがおいしく炊けたし、肌の調子もよく、最後には帰るのが寂しい!という気持ちに。これからも、呼ばれたらどこにでも行きたいですね。子供たちはちょっと大変かもしれないけど、でも、なかなかできない経験だとも思うので」
今まで生きてきて、初めて自分のことを好きになれそうな気がする──渡仏を決めた際の実感を著書でそうつづっていた杏さん。意外にも「自己肯定感は爆“低”なほう」だという。
「だから、違う人になれる俳優をやっているのかな、と。でも、パリに行って、箱庭を組み立てるみたいに自分の生活を一から選んでいけたのは、自信をつけるのにいい経験だったのかもしれません。自分の好きなものだけ置いて、『ああ、ここは私の空間なんだ!』って。時間の使い方にしても、以前は仕事が先に決まってそこに自分をフィットさせていくやり方だったけれど、今はいつ何をやるか、自分で決められることも多い。誰も私のことを知らない環境で、『今日はうちのことをやろうか』という日があれば、『今日は自分磨きに、ちょっと外に出てみよう』という自由があって」
とまどいを感じて気持ちが揺らぐときには、やはり歴史が心の支えに。「戦国時代よりはいいか」「『羅生門』よりマシかな」という設定が、杏さんらしく独特で、頼もしい。
「10代のころから愛読している山田風太郎の『人間臨終図鑑』(徳間文庫で新装版が発売中)は、歴史上の人物の生きざまを没年齢順に記した本ですが、私がフランスに行った年齢は、新選組の土方歳三が幕末、フランス軍とともに戦っていた年齢。それを知って『そっか、フランス語をここから始めても遅くはないか』って(笑)。満足して死んだ人なんてひとりもいないんだと思うと、悔いのないように、やりたいことをやったほうがいいなぁと思うんですよね」
もちろん年齢は関係なく、と杏さん。可能性を年齢や年代で区切らない、それも、大好きな歴史や、移住しての生活で学び、体得したことだ。
「いつでも今が一番若いんだ、そういう気持ちでやっていこうと思ってます。遠い展望は全然描いていないですね。俳優は基本的にオファーを受ける立場で、自分で『こういう役をやりたいです』というよりも、『えっ、フィンランドの撮影に呼んでもらった!?』という感じなので。だから、いい意味で、これからも流され続けていきたい。いつでも飛び込むために力を蓄え続けることが必要なんだと、そう信じて」
あん●’86年、東京都生まれ。’01年デビュー。主な出演作に、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』、NTV 『花咲舞が黙ってない』シリーズ、CX『競争の番人』、映画『キングダム 運命の炎』『私たちの声』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』『窓ぎわのトットちゃん』(声の出演)『かくしごと』『劇映画 孤独のグルメ』など。’22年にWFP親善大使に就任し、二拠点生活を開始。『連続ドラマW BLOOD&SWEAT』(全8話)は毎週日曜夜10時に新エピソードを放送、配信中。日々の様子を伝えるYouTubeチャンネル『杏/ anne TOKYO』も更新中。
撮影/長山一樹(S-14) ヘア/TOMIHIRO KONO メイク/COCO(関川事務所) スタイリスト/伊藤美佐季 取材・原文/大谷道子 ※エクラ2026年6月号掲載