この5月に『獨道中五十三驛』で十三役早替りに初挑戦する弱冠22歳の市川團子さんにインタビュー。
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CGもAIも使わない。舞台の上には生身の役者の肉体のみ。若衆から町娘、芸者に無頼の坊主など、十三役早替りを超絶スピードでやってのけたのは、スーパー歌舞伎でも人気を博した二世市川猿翁(三世市川猿之助)さん。そんなレジェンドを祖父にもつ市川團子さん弱冠22歳が、この5月、『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』で十三役早替りに初挑戦する。
猿翁さんの早替りを目にしたときの衝撃が忘れられない。丁稚姿の少年がゆったりと上手に引っ込んだかと思うとまたたく間に下手から愛らしい娘となって現れる。クライマックスではさらに驚きの技が次から次へと繰り出される。
「特にむずかしいと感じているのは芸者雪野→長吉許嫁お絹のような女方→女方への早替りです。歩き方ひとつとっても年齢や立場でまるで違う。初めての役柄ばかりなので基本から勉強中です。そして早替りのどの瞬間にも、祖父と裏方さんたちが何年もかけて練り上げてきた技がつまっています。というよりも裏方さんたちに助けていただいているのがほとんどです。袖に入ったら僕ら役者はあれこれ動かず自分で何かをしようとしてはいけない。そのほうが速いんです」
團子さんの口調がしだいに熱を帯びる。
「引っ込む直前ってついつい“早く舞台袖に入らなきゃ”と焦りがちなんですが、それはお客さまにも伝わってしまうんですね。なのであえてゆっくりと、こんなの余裕で~す、舞台裏もゆっくり歩いてま~すくらいで引っ込み、出るときは逆にサーッと素早く出てくる。そうすると物理的な速度よりもさらに速く感じるものなんです。おもしろいですよね」
意外なことに猿翁さんは十三役ともずっと同じ顔(化粧)で通したという。
「祖父は立役と女方の間の微妙な化粧をしておいて、表情で替えるんです。男のときは口をキッと横に伸ばし女のときはおちょぼ口に。役によっては黄色っぽい照明を当てて土くさい雰囲気を見せたり」
夢中で語る團子さんの活躍も目覚ましい。舞台はもちろん、エルメス・メンズコレクションのランウェイに登場するなどさまざまなジャンルで引っぱりだこ。そんな忙しい中、一人旅ならどこへ?
「お役にゆかりのある神社仏閣やお墓参りに行きますね。先日は森蘭丸さまゆかりの阿弥陀寺に行ってきました。同じ京都でも南座の公演中、新翔春秋会の公演中とはまた違った景色が見られるのが楽しかったですね」
歌舞伎界の風雲児、まさにカブキ者だった猿翁さん。團子さんは自らのカブキ者成分をどこに感じているだろう。
「極端な“0か100思考”なんです。昔はこの考え方に対してなんとも思っていなかったけれど、でも最近はそれってどうなのかなと(笑)。白黒だけではなく、グラデーションで物事を考えられるようになりたい。今の僕の重要な課題です」
歌舞伎町大歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内 『獨道中五十三驛』
京都から江戸日本橋まで五十三次の道中の風俗とドラマを描く。第二幕「岡崎無量寺の場」では市川中車が化け猫となり宙を舞う。大詰では市川團子が十三役早替り。第一線の声優たちによる「こえかぶ」も活躍。
5/3~26、THEATER MILANO-Za
問い合わせ☎03・3477・9999(Bunkamura)
いちかわ だんこ●’04年生まれ。市川中車の長男。祖父は二世市川猿翁。’12年、新橋演舞場スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』のワカタケルで五代目市川團子を名のり初舞台。’24年には新橋演舞場ほか4劇場でヤマトタケルを勤めた。『新・三国志 関羽篇』の関平、『東海道中膝栗毛』の五代政之助、『天守物語』の姫川図書之助、『火の鳥』のウミヒコ、『義経千本桜』の佐藤忠信実は源九郎狐を勤めた。
photography:Yuka Fujisawa hair&make-up:Chisato Mori(VRAI) styling:Nao Nakanishi text:Akiko Isogawa ※エクラ2026年5月号掲載