'60年代末のクォーツ時計の出現によって、機械式時計は存亡の危機に陥った。そのときパテック フィリップが自らのものづくりを信じて下した重大な決断。そこから生まれた名作時計の新作をクローズアップする。
パテック フィリップのゴールデン・エリプス
「ゴールデン・エリプス」は、楕円形と長方形が融合したかのような、大胆なフォルムがきわだつ時計だ。
その形は、見た目が最も心地よく感じられる比率といわれる、黄金分割に基づいてデザインされている。数値で表すと、ケースの縦対横は1・618対1。この比率はモナリザをはじめとする絵画や建築などのデザインに応用されてきたばかりでなく、葉の形や人体のプロポーションなど、自然界にも存在するという。その法則ははるか昔、古代ギリシアの数学者ユークリッドによって定義されたといわれている。
このモデルが誕生した'68年、スイスの時計界は日本発のクォーツショックに大きく揺らいでいた。それまでの常識だった機械式時計は販売不振に陥り、クォーツ時計へ転換、あるいは廃業するメーカーが続出。逆風が吹き荒れる中、パテック フィリップは断固として、500年以上にわたる機械式時計制作の伝統を守りぬく方針を固めた。その決意が、既視感のない斬新なフォルムの「ゴールデン・エリプス」にこめられていたのだ。
フォルムに加えて、この時計にはもうひとつ大きな特徴がある。それはケースの厚みが5.9㎜という、驚くべき薄さ。これを可能にしたのは、'77年誕生の超薄型キャリバー240。すでにクォーツ技術を自在に使いこなせる立場にありながらも、メゾンはそれを超える機械式ムーブメントを開発する道を選んだ。
それから約半世紀。美しさや信頼性といった、クォーツの便利さとは異質の価値を備えたエレガントな機械式時計が、高級時計をリードする。時計製造を極める真摯な姿勢こそ、「パテック フィリップを手にしたい」と思わせる最大の理由に違いない。
ⒸGetty Images
ルネサンス期を代表する名画、レオナルド・ダ・ヴィンチによる「モナ・リザ」。描かれた女性の顔の縦横の比率は1.618:1で、黄金分割の存在が認められる。もしこの比率が違っていたら、彼女の微笑が人々を魅了することはなかったかもしれない。
時代を超越する美の法則、黄金分割のプロポーションをもつ時計
洗練されたオリーブグリーンが目をひく新作は、パテック フィリップの現行コレクションの中で最も薄いモデル。内蔵されたキャリバー240は、’77年以来「ゴールデン・エリプス」に欠かせない存在となり、現在まで改良を重ねてきた。厚さわずか2.53mmのムーブメントは、熟練職人の手作業による匠の技の結晶だ。
「ゴールデン・エリプス」3738/100G(WG/31.1×35.6mm、RGプレートにオリーブグリーンのサンバースト仕上げ文字盤、超薄型自動巻き/キャリバー240、パワーリザーブ最小48時間、カーフスキンストラップ)
¥6,590,000/パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター(パテック フィリップ)
photography:Masanori Akao(whiteSTOUT) styling:Yukari Komaki text:Hiroko Naruse ※略号は次のとおり。WG=ホワイトゴールド、RG=ローズゴールド。 ※エクラ2026年10月号掲載