【今から知っておきたい!実家じまいのこと】親が認知症になったら売却は不可能?

親だけが暮らしている実家。元気なうちに対処しておかないと、いずれ“負動産”になってしまうおそれが。そこで、弁護士・税理士(通知)の長谷川裕雅さんと「シニアの暮らし 研究所」所長の岡本弘子さんに、親が認知症になった場合の実家の対処方法を教えてもらった。

親も子供も元気なうちにとりかかるのが理想

将来子供が利用する予定がないのなら、親が今住んでいても、すでに空き家になっていても、その家はいずれ処分することになる。つまり、実家じまいは既定路線ということ。とはいえ、いつごろから考えはじめ、どんな流れで、どう動けばいいかなど疑問が満載。

長谷川さんによると、親のどちらかが亡くなったのを機に実家じまいをするケースが多いとか。主な理由は、「ひとりだと家が広すぎる」「高齢の親のひとり暮らしは親子ともに心配」「相続を意識する」といったところ。

「親が施設に入ったのを機にという考えもあると思いますが、そのタイミングで実家を処分すると、親によっては『もう家に戻れないんだ』と悲観し、一気に衰える場合もあります。なので本来は、親が元気なうちに行うのが望ましいですね。また、家じまいは、手続きから不要品の処分まで、かなりの気力と体力が必要。実動部隊となる子供が元気なうちにとりかかるのがおすすめです」(長谷川さん)

岡本さんは、「親が70代になったら準備を始めたほうがいい」とアドバイス。「その年代になると、親が子供を頼りにする傾向が強くなってきます。特に情報収集は子供世代のほうが得意。実家の処分方法や住み替え先など、子供が情報を集め、親と一緒に考えていただきたいですね」(岡本さん)

Q.親が認知症になったら売却は不可能?

A.成年後見制度や家族信託の検討を
不動産売買は、決済時に司法書士が立ち会うのが一般的。その際、司法書士が、売主たる親が認知症などで判断能力がないとみなせば、契約は不成立になってしまう。

「そうした事態を避けるべく、親がしっかりしているうちに成年後見制度や家族信託を検討しては?」と、岡本さん。

成年後見制度には、判断能力低下に備えて、あらかじめ後見人と代行させる内容を決めておく「任意後見制度」と、すでに意思能力の低下が認められる場合に利用できる「法定後見制度」がある。後者は、弁護士や司法書士、福祉関係の法人などが選ばれることが多い。

家族信託は、すでに意思能力が失われていると判断されると利用できないが、将来の認知症リスクに備えて検討するシニア世代が増えている。いずれも、契約時や毎月の報酬が発生するものの、一考の価値はありそう。

成年後見制度
判断能力が不十分な成年者の財産管理や福祉サービス契約の締結などを、代理人が行える制度。判断能力が不十分になる前に、本人が自分の意思で後見人を決定できる「任意後見制度」と、判断能力が不十分になってしまったあとに、4親等以内の親族等が裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が、親族や弁護士、司法書士などから後見人を選定する「法定後見制度」がある。

家族信託
信頼できる家族に財産を託し、管理や処分を任せる制度。委託者(親など)が受託者(子供など)に遺言や信託契約によって、財産の管理処分の権限を与え、受託者は、運用・処分・管理などによって発生する利益を受益者(親の場合が多い)に渡す。手続きは個人でもできるが、弁護士や司法書士、行政書士、税理士といった専門家に依頼するケースが多い。

弁護士・税理士(通知) 長谷川裕雅さん

弁護士・税理士(通知) 長谷川裕雅さん

はせがわ ひろまさ●「永田町法律税務事務所」代表。新聞記者を経て現職に転身。ベストセラーになった『磯野家の相続』シリーズをはじめ、『老後をリッチにする家じまい』等著書多数。講演会やメディアでも活躍。
「シニアの暮らし 研究所」所長  岡本弘子さん

「シニアの暮らし 研究所」所長 岡本弘子さん

おかもと ひろこ●有料老人ホーム等の紹介センターで1万件以上の入居相談に対応し、’09年、「シニアの暮らし研究所」創設。有料老人ホーム・高齢者住宅選びの専門家として、メディアや講演など幅広く活動。
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