フリーアナウンサー久保純子《中編》10年ごとに迎えている人生の転機とは?【エクラな美学 第3回】

チャレンジするのに年齢は関係ないと思いつつ、その一歩を踏み出すには勇気がいるものだ。現在はニューヨークに暮らすフリーアナウンサーの久保純子さんは、その一歩を踏み出し続けている女性だ。前中後編の中編では、10年ごとに迎えているという人生の転機について伺った。
フリーアナウンサー 久保純子

10年ごとに迎えている人生の転機

小学校4年から中学校1年までロンドンで過ごして帰国。その後、日本の公立中学を経て、高校1年のときにアメリカのウィスコンシン州に留学した。

「子供のころのあだ名は『ハッスルばあちゃん』(笑)で、割合活発な子ではありました。保育園時代は両親が共働きだったので、若いかたからおばあちゃんまで、いろいろな世代のベビーシッターさんにお世話になりました。小学校時代はまったく話せないのに英語の環境に身を置き、帰国した中学生のときは、反対に英語が話せることによってクラスで違和感を覚え、高校はひとりで人口千人という小さな町に留学した。そうやっていろいろな価値観に触れたことによって、今の私が形成されたような気がします」

常に前向きで明るい久保さんだが、落ち込むことはないのだろうか?

「ほとんどないんですよ。仕事でも失敗すると、もうやめよう、再起不能とへこむんですけど、おいしいものを食べて寝たら、次の日にはもう復活する。一度きりの人生、一日24時間しかないのに、ここで落ち込んでいたらもったいない、同じ時間ならハッピーに過ごしたいと思うほうです。でも、それは自分で道を切り開いていかないかぎり、誰も手をさしのべてくれないという環境にあったことも大きいですかね。小学4年でロンドンに行ったときは、まわりで何をいっているかわからないし、遊びたいのに遊べない。なんとかしないといけないと思って、当時流行(はや)っていたアニメ『ドクタースランプ』の消しゴムや折り紙をもっていって仲間に入れてもらった。そうしないと、それまで『ハッスルばあちゃん』でしゃべるのが大好きだったのに、お弁当も遊びもひとりぼっちになってしまいます。逆に日本に帰ってきたときは、地元の公立中学に入ったので、英語の時間は絶対に手をあげなかったし、海外に行っていたのがわからないよう、目立たないようにしていました。そうじゃないと生きていけないという力をイギリスで学んだと同時に、帰国したら「me、me」じゃだめなんだということも体感したんでしょうね。その状況を打破するために、“幸せへの糸口”を見つける努力をせざるをえなかったのかもしれません」

久保純子2

「一度きりの人生、落ち込んでいたらもったいない。同じ時間ならハッピーに」

大学で英語の教師になろうと思ったものの、教育実習で「22年しか生きてない私の価値観を押しつけていいものか不安になって」一度社会に出ようとNHKに入局。小さいころから好きだった『セサミストリート』のような番組を作りたいという夢を抱いてアナウンサーとなった。

「実際には『ハリネズミのくるりん』という絵本を『てれび絵本』で一冊読めただけであっという間に10年が過ぎていきました。結婚して長女が生まれたときに、今、この、子供を育てている母親の感覚を“モリモリ”生かした子供番組を作りたいなと思い、NHKをやめてフリーになったのが32歳のときです」

振り返ってみると、10年ごとに人生の転機を迎えているように見える久保さん。それは意図したものなのだろうか。

「10年後に何をしようと計画をたてることはないのですが、ぼんやりとビジョンはありました。モンテッソーリの先生の資格をとったときも、10年後くらいには先生になっていたいな、と」

そうやって目標をもって物事に取り組むのは、母親の影響が大きいという。

「母は常に目標をもっていて、やっているうちに次々と新たな夢が出てくる。退職後に英語教室を開いていたのですが、そこでも『子供たちを留学させたいけれど、イギリスは遠いからタイのサムイ島はどうだろう』と、どんどん新しい発想を私に語りかけ、有言実行していったんです。その母に引っぱられているのは多分にあると思います。イギリスの小学校では第2外国語がフランス語だったので、帰国してから『フランス語やりたいな』といったら『じゃあ行ってみよう』。当時はインターネットも発達していませんでしたから、『地球の歩き方』の最終ページにブルターニュ地方の語学学校が出ているのを見つけ、それを頼りに一緒に行ったんです。だけどホームステイ先を見つけたら、私はそこに1カ月半くらい置いていかれて、母はパリへ。すごいチャレンジャーで、これと思ったら猪突猛進なんです」

(後編へつづく)

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久保純子

久保純子

くぼ じゅんこ●’72年、東京都生まれ。大学卒業後NHKに入局。’04
年からフリーアナウンサーに。’09年から日本ユネスコ協会連盟の世界寺子屋運動広報特使を務め、’14年にはアメリカでモンテッソーリの国際教師資格を取得。現在は夫と2人の娘とともに、ニューヨーク在住。’22年2月よりモンテッソーリ幼稚園で働きはじめる。
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