フリーアナウンサー久保純子《前編》50歳でNYの幼稚園の先生に!【エクラな美学 第3回】

チャレンジするのに年齢は関係ないと思いつつ、その一歩を踏み出すには勇気がいるものだ。現在はニューヨークに暮らすフリーアナウンサーの久保純子さんは、その一歩を踏み出し続けている女性だ。前中後編の前編では、2022年から働き始めたモンテッソーリ幼稚園について伺った。
フリーアナウンサー 久保純子
ジャンプスーツ¥60,500/ボウルズ(ハイク) アクセサリー/ご本人私物

50歳になったのを機にNYの幼稚園の先生に

「お待たせしました〜」

張りのあるよく通る声で撮影スタジオに入ってきた久保純子さん。顔はきゅっと小さく、ブラウン管を通して見ていた姿と変わらず若々しい。撮影中には誰かがいったジョークに対して、声を上げて大笑い。「大笑いしてここまでかわいい人は少ない」とは、数々の著名人を撮影してきたカメラマンの言葉だ。

昨年2月、久保さんは50歳になったのを機に、ニューヨークにあるモンテッソーリ幼稚園で働きはじめた。今回、絵本を読む場面の撮影では、目の前の椅子に幼稚園で担当している男の子が座っていることをイメージしながら読んだという。「その子は3歳なのですが、とてもナイーブでいつも心の中に怒りを抱えている感じ。だから、自分の気に入らないことがあると手や足が出て、噛むし、ひっかく。でもふだんはすごくかわいくて、今回、帰国前に『パパとママに会いに行ってくるね』と伝えると、『えー、そうなの? 寂しいけど、エルサ(『アナと雪の女王』)にお願いして、氷の飛行機を作ってあげるよ。そしたら、パパとママとニューヨークで一緒に暮らせるね』なんていってくれて、本当に胸キュンな子なんです」

モンテッソーリ教育とは、イタリアの医師であり教育家だったマリア・モンテッソーリ博士が考案した教育メソッドで「子供には、自分を育てる力が備わっている」という考え方が前提となっている。「クラスにはアジア系にヒスパニック系、ヨーロッパ系といろいろな人種の子供たちがいます。そして自閉症や発達障害などの個性をもった子供たちも。私たちは自らのことを『ガイド』と呼んでいて、その子が自分らしく過ごせる時間を見守る“導き屋”さん。子供たちは日々、100以上もある『おしごと』の中から興味があるものを選び、何回も失敗を繰り返しながら『できた!』という達成感を味わうんです。私たちの役目は教材の使い方を紹介し、常に目をくばって彼らのやりたいことを後押しすることです」

「毎日発見が楽しくて、ワクワク。今日にはなかった自分を明日見てみたい」

そもそも、久保さんがモンテッソーリを知るきっかけとなったのは約10年前。「知人のお子さんがとっても穏やかで、本を読むのも遊ぶのも勉強するのも楽しそうで『なんでこんなに幸せそうなの?』とお母さんに聞いたら『モンテッソーリよ』と。いったいどういうメソッドなんだろうと調べてみたのが始まりです。モンテッソーリでは、3歳から5歳くらいに一番感覚が発達するといわれていて、2011年にカリフォルニアに行ったときに次女が3歳だったので、モンテッソーリ幼稚園に入れてみました。そうしたら、本当にいつも幸せそうで穏やか。それでますます興味をもち、仕事もちょうどセーブしていた時期だったので、今だ!と思って先生の資格をとれる学校に通いはじめたのが40歳のときです」

資格を取得していざ先生にと思ったものの、移り住んだニューヨークでは、12歳までの子供は送り迎えが必要だった。「下の子が13歳になったときにそろそろ、と思っていたら今度はコロナ禍で社会が閉じてしまった。以前の生活が戻り、子供も自分で学校に通えるようになった’22年は50歳という節目の年。50歳! いい響きだ〜と思って、再び今だ!と」

漠然と何かを始めたいと思っていても、それを実行に移せる人はそう多くない。どうやったら「今だ!」という瞬間がわかるのだろうか。

「タイミングだと思うんです。ずっと機会を待っていたわけではなくて、やってみたいという気持ちが満杯になったのだと思います。好奇心が旺盛なので、常に新しいことにチャレンジしたいのは昔から。移り住んだニューヨークの街も、毎日3万歩も歩き回り『ここにこんなものが!』と発見するのが楽しくて、それだけでワクワク。今日にはなかった自分を明日見てみたいと思っています」

人は年をとると心が動かなくなるという。常に新しいものを「ワクワク」しながら見つけることが、久保さんが若々しさを保っている秘訣なのかもしれない。

(中編へつづく)

久保純子

久保純子

くぼ じゅんこ●’72年、東京都生まれ。大学卒業後NHKに入局。’04
年からフリーアナウンサーに。’09年から日本ユネスコ協会連盟の世界寺子屋運動広報特使を務め、’14年にはアメリカでモンテッソーリの国際教師資格を取得。現在は夫と2人の娘とともに、ニューヨーク在住。’22年2月よりモンテッソーリ幼稚園で働きはじめる。
  • バレエダンサー上野水香《前編》『ボレロ』との出会いととまどい【エクラな美学 第1回】

    バレエダンサー上野水香《前編》『ボレロ』との出会いととまどい【エクラな美学 第1回】

    時を重ねるほどに輝く、エクラ世代の女性たち。人生の節目を迎える時だからこそ軽やかに生きていきたい。自分のもてる力を世の中へ還元したい。そんな思いはあるけれど、一筋縄ではいかないこともあれば、行くべき道に悩むこともある。それでも前に進むための生き方の美学とは。『エクラな美学』の第1回は日本が誇るバレエダンサー、上野水香さんにご登場いただいた。運命の作品と出会い、真正面から挑むからこそ苦しんだ日々。時に後悔や寂しさも。そしてようやく答えを見つけて……。

Follow Us

What's New

Feature
Ranking
Follow Us