【夏の文芸エクラ大賞】世の中の動きと、本の最前線。宗教2世問題や少子化対策に切り込む

第6回目を迎えた文芸エクラ大賞で、この1年の売れた本&話題の本を総ざらい! 本誌エクラで本について執筆している文芸評論家とライター、本の現場を知る書店員が選考に参加。話題の本を、文芸評論家・斎藤美奈子さんが解説。
文芸評論家・斎藤美奈子

文芸評論家・斎藤美奈子

さいとう みなこ●’56年、新潟県生まれ。本誌連載「オトナの文藝部」でも人気の文芸評論家。『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』『挑発する少女小説』など著書多数。最新刊は『出世と恋愛 近代文学で読む男と女』。

「去年7月の安倍元首相銃撃事件で表面化したのが、政治と宗教の深い結びつきや宗教2世問題。これらは以前からいわれていたことですが、取材を続けていたジャーナリストの本や宗教2世が自らの生い立ちを語った本を読むと、私たちが理解しきれていなかった深刻さがよくわかります」と斎藤さんは語る。

「“異次元の少子化対策”に影響を与えた本や男性が語る子育ての本が出てきたのは今年らしい。“聞き方本”がヒットしたのは、直接会話する機会が減った今、ちょっとした受け答えで人間関係を壊したくないという思いの表れかも」

そのほかにもW村上(村上春樹と村上龍)の健在ぶり、フランスの女性作家アニー・エルノーのノーベル文学賞受賞など、いろいろな話題があった本の世界。「大江健三郎さんや富岡多恵子さんが亡くなり、戦後文学の区切り感があったのも今年。アフターコロナに転換しつつある今、時代はどんな方向へ進み、本に影響していくのか。これからも注目です」

“宗教2世問題”が顕在化。ノンフィクション作品が続々

本

『小川さゆり、宗教2世』

小川さゆり 小学館 ¥1,650

『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』

鈴木エイト 小学館 ¥1,760

『改訂新版 統一教会とは何か』

有田芳生 大月書店 ¥1,650

「統一教会問題が浮上して読まれたのが有田芳生(よしふ)さんの本。約30年前に書かれた労作に書き下ろしを加えたもので、’60年代から続く政治と統一教会の関係がわかります。

鈴木エイトさんの本で注目すべきは安倍政権と統一教会との結びつきで情報が新鮮。今年売れた小川さゆりさんの本など、宗教2世の告白本はエッセーや漫画の形で出ていますが、読んでわかるのはこういう人たちが児童虐待の犠牲者だということです」と斎藤さん。

「子供の人生に関与してくるカルト的な宗教は、子供が自分で考える力を奪う。だからそこを抜けても生きるのがむずかしいんです。それがわかって思い出したのが、宗教2世を描いた過去の話題作。今村夏子さんの『星の子』の主人公とか、村上春樹さんの『1Q84』に出てくる女性暗殺者とか。これらを読むと彼女たちが学校や社会で孤立しがちなことがわかる。本当に解決がむずかしい問題だと思います」

少子化対策のヒントも? 男性の書き手が“子育て”を考える

『プリテンド・ファーザー』

『プリテンド・ファーザー』

白岩 玄 集英社 ¥1,870

『プリテンド・ファーザー』は幼い子供をひとりで育てている男性ふたりを描いた小説。彼らが気づくのは性差別など“暗黙の社会の常識”だった。

「ここでは男たちが新しい家族像を模索しますが、日本の家族観は変わりにくいのが特徴。20〜30代独身者で親と同居中の人は7割ともいわれますが、この現状が少子化に大きく影響しています。社会学者の山田昌弘さんは、日本と違って女性のキャリア形成意欲が高い欧米をお手本にしたのが少子化対策失敗の原因と指摘。ジャーナリストの河合雅司さんは人口が減り続ける現状を“静かなる有事”と警告しましたが、これは政府の見解で使われた言葉です。本気で少子化対策を考えるなら親子関係から問い直す必要がある。日本の親は子供の成長後にまで責任をもとうとする。だから怖くてみんな子供なんかもてないと考えるんですよね」

政府の少子化対策に影響も!?

本2

〈右〉『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』

山田昌弘 光文社新書 ¥858

〈左〉『世界100年カレンダー 少子高齢化する地球でこれから起きること』

河合雅司 朝日新書 ¥891

▼4人の選者
文芸評論家 斎藤美奈子
本の執筆だけでなく、新聞や雑誌などにも切れ味鋭い文芸評を寄せ、幅広く支持されている。

書評ライター 山本圭子

出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。
書評ライター 細貝さやか

本誌書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。海外文学やノンフィクションに精通。
書評担当編集 K野

女性誌で書評欄&著者インタビュー担当歴20年以上。女性誌ならではの本の企画を常に思案中。

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