画家・山本容子さん×和久傳・桑村 綾さん対談【後編】「何かに夢中になっていないと、生きてる気がしないんです」

山本容子さんと桑村綾さんは、30年来の友人同士。画家と女将、住んでいる世界はかけ離れているのに、森の中を歩くふたりはなにやら、楽しそう。後編では、桑村さんが『和久傳ノ森』に込めた思いを聞いた。
画家・山本容子さん×和久傳・桑村 綾さん
やまもと ようこ●銅版画家。’52年生まれ。都会的なセンスと独特の色彩感覚。絵画に音楽や詩を融合させて、独自の世界を創造する。ライフワークのひとつとしてアート・イン・ホスピタルも積極的に手がける

くわむら あや●『紫野和久傳』代表。’40年生まれ。丹後峰山の老舗旅館『和久傳』から出発し料亭『高台寺和久傳』をオープン。東京や名古屋にも出店、弁当や物販も手がけ、『和久傳ノ森』造成など事業を拡大してきた。

「あまり表に出たくない」という桑村綾さんが今回、エクラに登場してくださったのは、山本容子さんが紹介してくださったから。「それにこの素敵な森のこと、皆さんにお伝えしたくて」(山本)。

和久傳ノ森

和久傳ノ森

京都の料亭『和久傳』が京丹後市に作った施設。9000坪の敷地内には56種30000本の樹木が勢いよく育つ。美術館『森の中の家 安野光雅館』、レストラン『工房レストラン wakuden MORI』のほかに、防塵設備の整った食品工房、農業倉庫、米蔵や果樹園、山椒や桑の畑も。長い石段を上る見晴らしの丘からは、京丹後ののどかな風景が見渡せる。

「工房もレストランも地元へのご恩返し」(桑村)

もともと桑村さんは京丹後の出身。地元の老舗旅館『和久傳』に嫁いだのち、時代の波をかいくぐるように、京都市内の高台寺へ移転して料亭をオープン。丹後の食材を生かした料理で高評価を得て、そこからは京都伊勢丹への出店、東京や名古屋にも物販の店を出すなど快進撃。さらに食品工房が必要になり、京丹後に戻って作り上げたのが『和久傳ノ森』というわけ。

桑村 なんでしょう、あれこれ苦労はしましたけど、そういうのが好きなんですね。容子さんを見てても思いますけど、好きなことだとなんでもできますでしょ? この森も、たまたまNHKに宮脇昭先生というかたが出ておられ、そのかたは国際的な植物生態学者でいらしてね、地球温暖化を危惧され、世界中に木を植えたかたなんです。それを聞かせていただき“これだ!”と思い、すぐにお会いしにいって、ここの植樹をお願いしたんです。いろんな種類の木をぎっしり植えると強い森になるということで、本当にそのとおりでした。

山本 森から始まって、食材工房でしょ、レストランでしょ、そこで使う野菜を育てる畑もあるし。

桑村 それと美術館は、前から安野光雅先生のことはご尊敬申し上げ、よく存じ上げていましたので、いつもは先生の作品を中心に展示しています。建物は安藤忠雄先生にお願いしました。安藤先生も大変お忙しいかたですが、植樹して緑化を図ろうとしていることに共感いただき、それならば建てましょうとご快諾いただきました。建てるとき“なんでここに美術館が必要なんだ?”というかたもいらっしゃいましたけど、わざわざこんな辺鄙なところに来ていただくためには、何がいいだろう?と考えたんです。工房もレストランも美術館も、いってみれば地元への恩返しです。雇用が生まれますし、丹後が活性化してくれれば、と。今回だって容子さんの絵を見るために、全国からたくさんの人が、来てくださいますから。

『和久傳ノ森』には今も桑の畑が青々と。

京丹後はお蚕さんが食べる桑の葉がよく育ち、絹織物の流通で栄えたところ。『和久傳ノ森』には今も桑の畑が青々と。

「遊びだって、手を抜いたらアカンの」(山本)

山本 でも不思議ね。30年のお付き合いだけど全然別の道を歩いてきて、綾さんも私もそれぞれのことをやってきて、それが今、綾さんの美術館で私の展示をすることになるなんて。そんなこと、想像もしなかった。

桑村 そうですね。ご縁ですね。

それぞれの道でレジェンドと称されるおふたり。締めくくりに、生きていくうえでのポリシーを、うかがってみた。

桑村 そうですね。ちょっと偉そうに聞こえるかもしれませんけど、私のしてきたこと、全部その、遊びの感覚だと思うんです。仕事やけど楽しい、苦しいけどおもしろい。で、何かに夢中になっていないと、生きてる気がしないんです。

山本 そうそう、私もそう!

桑村 “遊びをせんとや生まれけむ”(『梁塵秘抄』)って言葉、ありますでしょ? あれです。

山本 遊びって、本気にならないと遊べないものだし。手を抜いたらアカンのです(笑)。私が本気でつくってきたものと、綾さんが本気でつくり上げたものが、今ここでひとつになったんですね。

森の中、静かに時は流れて。木々のすき間に、ほら、プラテーロの後ろ姿が見えたような。

『和久傳』といえばこのお菓子「れんこん菓子 西せい湖こ」
『和久傳』といえばこのお菓子「れんこん菓子 西湖(せいこ)」。お菓子ではめずらしいれんこんを使用、和三盆の甘味がもちもちとした食感で楽しめる。
本物の生笹2枚で包み、竹皮の紐で結ぶ工程はすべて手作業。
作りたてが一番おいしい「れんこん菓子 西湖」。
作りたてが一番おいしい「れんこん菓子 西湖」。
完全防塵システムの久美浜工房

『和久傳ノ森』の敷地内にある、完全防塵システムの久美浜工房。お菓子を包む工程はガラス越しに見学できる

DATA  京都府京丹後市久美浜町谷764

DATA

京都府京丹後市久美浜町谷764

☎0772・84・9901

mori.wakuden.kyoto

※鉄道利用の場合、京都丹後鉄道久美浜駅、峰山駅から丹海バス久美浜線「谷工業団地前」下車、徒歩5分。タクシーの場合は、京都丹後鉄道久美浜駅から約15分、JR豊岡駅から約35分。

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