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’24年の大河ドラマは紫式部が主人公!50代が夢中になった漫画「あさきゆめみし」の魅力を再確認
’24年のNHK大河ドラマが紫式部を主人公にした『光る君へ』と決まり、かつてときめいた『源氏物語』を思い出した人もいるのでは? 若き日のアラフィーを虜(とりこ)にしたのが『源氏物語』を漫画化した“あさきゆめみし”。読者アンケートをもとに、名シーンや推しキャラなどからその魅力を多角的に再確認!
作家・角田光代さんに聞く!大人がハマる「源氏物語」の読み方
小説としての構成がしっかりしていて、今読んでも、物語のおもしろさがつまっています
作者・紫式部の意地悪なほどの観察眼がおもしろい
角田光代さんが出版社からの依頼を受けて源氏物語の全訳にとりかかったのは’15年。48歳から53歳までの5年間をそれに費やし、小説はいっさい書かなかったのだとか。
「源氏物語について知識もこだわりもなかったので、どんな訳にすればいいのか最初すごく悩みました。結論は“私が訳すのなら読みやすさ重視かな”。敬語も省き、本歌取りの古歌や宮廷行事などの詳細をすべてわからなくてもいいと考えて、一日1帖くらいのペースで一気に読める訳にと方向性を決めたんです」
54帖からなる大長編小説を順に訳しはじめた角田さん。やがて気づいたのは、話が進むうちに起きる紫式部の書き方の変化だった。
「1帖『桐壺』から21帖『乙女』までは連作短編みたいにエピソードが重なっていき、22帖『玉鬘(たまかずら)』で急に映画を見ているような書き方に。いわばエンタメになりますが、34帖と35帖の『若菜』ではエンタメと純文学が合体したような手法に変わって物語が一気に開花します。45帖『橋姫』から宇治十帖が始まりますが、源氏物語という壮大な物語をどうとらえるかにつながるように書いていると実感。訳者として考えることがたくさんありました」
主人公・光源氏がさまざまな女性とかかわりをもち、恋愛や因縁が描かれる源氏物語だが、角田さんは彼についてこんな見方をしている。
「光君は誰もがひれ伏し涙するほど美しく、世の何もかもが思いどおりになるという人。そんなまぶしすぎる存在が照らし出すのが彼とかかわる女たちで、むしろ光君はいろいろな女性像を描くための装置だと感じました。例えば六条御息所は、光君に会わなければあれほど嫉妬に苦しむことはなかった。“この人に会わなければこういう自分はいなくてすんだ”という感情は、いつの時代の人にもあると思います。また光君は幼くして母を亡くし、帝の子として生まれながら絶対に帝になれない身分だった。そういう彼の“最初から負け戦”的なところが読む人にあわれさを感じさせ、日本人の心をとらえ続けたという気もします」
単なる恋愛小説ではないんですよね。
光源氏はあくまでも女性像を描くための“装置”だと感じました
美しいが気位が高い人、容姿はイマイチだが子の養育などで光源氏の役に立った人……女性キャラの多彩さも源氏物語の魅力のひとつだが、角田さんが感じたのは彼女たちへの紫式部の冷静な視線。それがきわだっていたのが、長くて赤い鼻を見られて光源氏に幻滅される末摘花だった。
「末摘花はかつての家柄のよさにしがみついて、自分も家のこともいっさい変えようとしない。彼女が光君に面倒を見てもらい続ける姿を描いたのは、意地悪なほどの観察眼をもつ紫式部が末摘花のどこがダメかを徹底的に書きたかったからでは。“そういう女性を引き取るなんて光君は寛大でかっこいい”という意見が多いですが、私はそうは思えなくて」
一方、男性キャラに目を向けると、一読者としての角田さんに強烈な印象を残したのが光源氏と女三の宮の息子・薫(本当の父親は柏木)。
「薫のことがイヤすぎて、訳が進まなかったほど(笑)。薫は愛する人のことを考えて行動しているようで計算高く、優柔不断。彼のせいでいろんな人が不幸になったと思ったんです」
最後の最後に感じた紫式部から渡された“バトン”
単行本刊行から3年を経て文庫化することになり、最近自分の訳を読み返したという角田さん。訳していたとき、また改めて読んでおもしろかった場面やエピソードをうかがった。
「すごく好きなのは5帖の『若紫』。Aが起きたからBが起きてCにつながるという近代小説的な形式でできている。34帖と35帖の『若菜』はその集大成で、女三の宮の飼い猫が逃げたことで悲劇が始まるなど、物語のおもしろさがつまっています。ハラハラさせられるのは夕顔の娘・玉鬘がかつて母のそばにいた女房と偶然再会するところ。何度読んでも“早く気づいて!”とドキドキします」
紫式部は浮舟を通して“男に頼らず立てる女”を書きたかったのかなぁと思いました
人生経験を重ねたエクラ読者なら深く味わえること必至なのが「この壮大な物語をどうとらえるかにつながっている」という宇治十帖。そこまで訳し終えたとき、角田さんはある感慨を抱いたという。
「宇治十帖の後半に出てくる浮舟は、薫と匂宮(光源氏の孫)からおもちゃのように好きにされる女性。浮舟が彼らをどう思っているかは書かれていませんが、彼女はどちらのものにもならず男に頼らずに立とうとする姿を示唆して終わります。当時は女性が自分の生き方を選びようもなかった時代ですが、まるでラスボスのように浮舟が出てくるのは、女性の生き方をずっと考えてきた紫式部が答えを浮舟で表したかったからでは。“浮舟、薫からも匂宮からも逃げて!”と思うのは私だけではない気がしますが、もしかしたら#MeToo運動などが起きた今だからそんな読み方になるのかもしれない。ただ千年前に女性の生き方に疑問をもった紫式部から物語を通して“あなたたちはどう思う?”とバトンを渡されたようで、感動すら覚えたんです。新しい読み方もできる余白がある──それも『源氏物語』がすばらしい理由のひとつだと思っています」
完結まで5年をかけた渾身の現代語訳
『日本文学全集 源氏物語上・中・下』
角田光代/訳
河出書房新社 各¥3,850
一気に読めることを目ざした角田光代訳は「伏線と回収が見えやすい」などのよさも。「脇役にもおもしろい人、気の毒な人など興味深い人物がたくさん。ぜひ確かめてみてください」。
\角田源氏がついに文庫化!/
『源氏物語 1~8』
角田光代/訳 河出文庫
1~3巻 各¥880(全8巻刊行予定)
現代を代表する作家のひとり、角田光代さんによる現代語訳『日本文学全集 源氏物語』の文庫版。「桐壺」から「末摘花」までを収めた1巻には光源氏の恋愛と義母への許されぬ思いが描かれている。全8巻、順次発売予定。3巻は12/6発売。
その魅力もさまざまに「大人におすすめの現代語訳」
角田さんも太鼓判! 日本語も美しい
『与謝野晶子の源氏物語 上・中・下』
与謝野晶子 角川ソフィア文庫
上¥924、中¥1056、下¥968
子供のころから『源氏物語』を愛読していた与謝野晶子による訳。難解といわれた『源氏物語』が広く読まれるきっかけになった。「歌人ならではの言葉選びを感じます」と角田さん。
エクラ世代に絶大な人気
『新源氏物語 上・中・下』
田辺聖子 新潮文庫
上・中 各¥990、下¥935
読者アンケートでも、読んだことのある現代語訳で多くの人があげた“田辺源氏”。「注釈なしで読めるもの」を目ざし、漫画『あさきゆめみし』にも影響を与えたとされる。
源氏ブームの火付け役はこの人
『決定版 女人源氏物語 一~五』
瀬戸内寂聴 集英社文庫
1~2巻 各¥715(全5巻刊行予定)
華麗な王朝絵巻を女性たちの声で描き直したのが瀬戸内寂聴。平易な日本語が使われ、「ですます」調の語り口なので読みやすい。若年層にも広く読まれた現代語訳。順次発売中。
角田 光代
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