-
山本文緒さんの闘病記『無人島のふたり』にアラフィーからの反響の声が続々!
’21年10月、膵臓がんのため58歳という若さでこの世を去った山本文緒さん。翌年刊行された闘病記『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』が今、熱く静かに読まれている。彼女が最期まで貫いた流儀、そしてエクラ世代に愛された理由とは。Jマダムアンケート、エクラメルマガアンケートに寄せられたコメントの一部をご紹介します。
作家・角田光代さんが語る、山本文緒さんの闘病記『無人島のふたり』のこと
誰もが自分のこととして読んでしまう『無人島のふたり』
角田光代さんが4歳上の山本文緒さんに最初に会ったのは、作家として歩みはじめた21歳のとき。以来友人であり、敬愛する先輩作家だったという。
「文緒さんはごくわずかな関係者にしか病気のことを伝えていなかった。私も知らなかったので、訃報を聞いたときは大きなショックを受けました。亡くなる直前まで日記を書いていたことも知らなくて、『無人島のふたり』の書評依頼があったときは“えっ、闘病記を書き続けていたの?”と驚いたんです」
角田さんが『無人島のふたり』を読んで最初に感じたのは「書くことにしたという覚悟がすごい」ということ。
「友人として率直にそう思いました。同時に“山本文緒らしさ”も感じましたね。軽井沢で静かに暮らし、人間ドックにも行っていた文緒さんが体調をくずして検査を受け、膵臓がんの宣告を受ける。この日記はいきなり“(膵臓がんの)ステージは4bだった”という文章から始まりますが、その時点ですべての読者が彼女の病を自分の身になぞらえると思う。整理がつかない気持ちとか泣いている夫にどうしてあげたらいいのかとか、その後語られることが全部“私ならどうする?”とはね返ってくる。文緒さんは意識していなかったかもしれませんが、最初から読者を共感させるこの手法はやはりプロ。文緒さんの小説を読むと、主人公が自分とは性格や環境が違う“遠い人”でも、その人が乗り移ってきていつももうひとつの人生を生きた気持ちになりますが、『無人島のふたり』もまさにそうでした」
文緒さんは“にじみ出るユーモア” と思ってほしかったはず
抗がん剤治療をやめて在宅医療を選び、緩和ケアを受けることにした山本さん。よかったり悪かったりした体調は徐々に下降していくが、そんな中でも山本さんは身近な人を気遣い、感謝する。読者に「読んで不愉快になる人もいるかもしれないのですが、もうしばらく書かせて下さい」と謝る。そして時には、思わずクスッと笑ってしまうようなこともつづるのだ。
「“文緒さんは読者のことをすごく考えて書くかただからサービスする気持ちで笑わせているんだな”と思いました。私も公にすることを前提にした日記を書いたことがあるのでわかりますが、これを書きはじめたとき彼女ならどんなパターンにするか考えたはず。“いい話”にするとか、事実中心にするとか。そのときたぶん文緒さんはエンタメ性を重視してきた自分の小説――山本文緒ブランドの延長線上にある日記という形を選んだ。つまり“つらい、どうしようということばかり書いていたら読者に負荷がかかっていいたいことが届かない”と考えて“にじみ出るユーモア”と感じさせる部分を入れたんだと思ったんです。もちろんそれを自然にできたのは文緒さんに筆力があったから。彼女の中では“みんなと少しでもこの話を共有できればうれしいし自分の救いになる”という気持ちが大きかったと思う。だからこそ個人的な日記とは違う公の日記になっているわけですが、そう考えたとき私は本当に胸がつまりました。“文緒さんは最期まで書き手であることを選んだ。それはわかるけれどもうみんなにサービスしなくてもいいよ。自分のことだけに一生懸命になっていいんだよ”といいたくなって」

時代のど真ん中にいる女性をずっと書いてきた作家だった
山本文緒ブランド――角田さんはその特徴をどんなものだと考えているのだろうか。
「今でこそ珍しくありませんが、私たちが文芸の世界にデビューした’90年代は“何に影響を受けて作家を志したのですか?”と聞かれて漫画をあげる人はいなかった。たぶん文緒さんは、小説と同じくらい漫画にも影響を受けたと堂々といった最初の作家です。それくらい彼女は強かったし、芯があった。ただ文緒さんが小説で焦点を当てたのは、迷いの多い普通の女性。女性の大半が結婚後主婦だったころのことも、男女の役割意識が変わりつつあるころのことも書いていますが、特に強いわけではないのに、闘わざるをえなくなる女性の姿を描いてきた作家です。考えてみれば『無人島のふたり』も、文緒さんの精神力が感じられるのはもちろんですが、“ごくごくふつうに暮らす女性がいきなり余命を告げられた”という体(てい)で書かれている――やはり山本文緒ブランドの作品だなと思います」
書きはじめて2カ月を過ぎたころからパソコンに向かい続けるのもつらくなり、やがて病状が深刻になっていく。ギリギリの状態になるまで続けられた日記だったが、最後に書かれたものを読んだとき角田さんは「胸にズドンときた」という。
「身内が亡くなる前、医師に“耳は聞こえているから話しかけてください”といわれたことがありますが、あれに近い状態のとき文緒さんは日記を書いたんだと思いました。それが本当に信じられなかったし、人の意識の最後の瞬間がここにあると思った。私を含めて読んだ人全員が、これから先自分の最期を考えるとき文緒さんの日記を思い出すはず。それくらい衝撃的で、山本文緒のすごさを物語っていると思いました」
山本さんが亡くなって時間がたったが、角田さんは「なぜ文緒さんが?」という思いが消えず、時折「何もいわずに逝(い)ってしまうなんて水くさい」といいたくなるという。
「同世代の訃報を聞くと“自分に何かがあってもおかしくない”と思うようになりました。ただ、すごく荒れた生活をしていても長生きする人もいれば、健康的な生活をしていても病気になる人もいる。また、余命を告げられてもそれ以上生きる人もいれば、余命宣告どおりになる人もいる。神の意志の領域だとは思いますが、何が違ってそうなるのか……」
人生はあまりにも不思議で不公平と語る角田さん。その気持ちは年々強くなるが、『無人島のふたり』を読んで救いも感じたという。
「金原ひとみさんの小説を読んだ日に文緒さんが書いた言葉が“死ぬことを忘れるほど面白い”。そこを読んだとき“余命を知っても人は本を読みたくなる”ということがわかって、すごく勇気づけられたんです。文緒さんが“本は最期まで救いになる”ということを教えてくれた――そう思っています」
-
『僕の女を探しているんだ』ほか、アラフィー世代に贈る今読むべき本4冊をご紹介
アラフィー女性におすすめの本をピックアップ。大人気の韓国ドラマ『愛の不時着』の主人公リ・ジョンヒョクをモデルにした青年の物語『僕の女を探しているんだ』ほか、今読みたい4冊をご紹介。
-
【50代が読むべきおすすめ本】冷え性女性のお仕事小説『ケチる貴方』など3選
アラフィー女性に読んでほしいおすすめ本を、文芸評論家・斎藤美奈子さんがピックアップ。今回は、極端な冷え性に悩む女性を主人公に、とことん身体に向き合ったお仕事小説『ケチる貴方』ほか計3冊を紹介。
What's New
-
【50代 いま読みたい本】ミステリーやファンタジーなど、書店員“目利き”の偏愛本9冊
本と読み手を結ぶ書店員のかたがたが、ぜひ、読んでほしい本をリコメンド! 大垣書店書店事業部 中澤めぐみさん、ジュンク堂書店池袋本店 西山有紀さん、代官山 蔦屋書店 間室道子さんのおすすめ本を紹介。
カルチャー
2025年8月15日
-
【50代 いま読みたい本】書店員がおすすめ!美しい恋愛小説や切り口鋭いエッセー集など6冊
本と読み手を結ぶ書店員のかたがたが、ぜひ、読んでほしい本をリコメンド! 今回は、紀伊國屋書店 グランフロント大阪店 小泉真規子さんと有隣堂 アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさんのおすすめ本を紹介。
カルチャー
2025年8月14日
-
【夏の文芸エクラ大賞】人生の勇気&ヒントをくれる注目作「明日への活力賞」5冊
’24年6月~’25年5月の一年間に刊行された文芸作品から、エクラ読者に読んでほしいと本音でおすすめできる本を選んだ「文芸エクラ大賞」。今回は人生の勇気&ヒントをくれる注目作「明日への活力賞」受賞作品を紹介。
カルチャー
2025年8月13日
-
【夏の文芸エクラ大賞】世界観にどっぷり浸れる長編作「没入!ザ・物語賞」4冊
’24年6月~’25年5月の一年間に刊行された文芸作品から、エクラ読者に読んでほしいと本音でおすすめできる本を選んだ「文芸エクラ大賞」。今回は世界観にどっぷり浸れる長編作「没入!ザ・物語賞」受賞作品を紹介。
カルチャー
2025年8月12日
-
【夏の文芸エクラ大賞】偶然の連鎖が紡ぎ出す衝撃作「心揺さぶる運命賞」4冊
’24年6月~’25年5月の一年間に刊行された文芸作品から、エクラ読者に読んでほしいと本音でおすすめできる本を選んだ「文芸エクラ大賞」。今回は偶然の連鎖が紡ぎ出す衝撃作「心揺さぶる運命賞」受賞作品を紹介。
カルチャー
2025年8月11日
-
50代の旅行コーデ
風通しもばっちり&涼やかな一着で快適な旅を
-
酷暑で加速!? 大人の髪悩みをホームケア
うねって広がる大人髪をヘアマスクで柔らかくまとまる髪へ
-
読者モデル 華組のユニクロ・GUコーデ
真似したい!50代ファッションブロガーの着こなし集
-
エクラ公式通販の人気アイテムランキング
もう迷わない!50代が買うべき旬の服
-
読者モデル 華組のZARAコーデ
50代はどう着こなす?ファッションブロガーコーデ集
-
一度は泊まりたい!高級ホテル・旅館
日常を忘れて至福のときが過ごせる極上の旅へ
-
大人のためのヘアスタイル・髪型カタログ
髪のお悩み解決!若々しく見えるヘアスタイル
-
50代におすすめの夏アイテム
人気ファッションアイテムを厳選してご紹介
-
QUOカード5,000円分プレゼント
ウェブエクラ ユーザーアンケートご協力のお願い
-
【50代に人気のヘアスタイル・髪型カタログ】手入れが楽でおばさんぽくならない!ショート・ボブ・ミディアム・ロング別ヘアスタイル
白髪や髪のうねり、薄毛、パサつきなど40代、50代の気になる髪悩みを解消するおすすめヘアスタイルを提案。ショート、ボブ、ミディアム、ロング別ヘアスタイルから知っておきたい最新ヘアケア事情まで、おばさんぽ…
-
【おしゃれな50代愛用のユニクロTシャツ10選】着回し力抜群!どんなスタイルにも合う取り入れやすさが魅力
40代・50代からの人気を集める「ユニクロ」のTシャツ。定番から期間限定のコラボアイテムまで、さまざまなTシャツが揃っている。今回は、そんなユニクロのTシャツを使った40代・50代読者モデル・エクラ華組のコー…
-
【50代に人気のボブヘアスタイル60選】老けて見えない!ふんわりボリュームで若々しくて明るい印象に
白髪や薄毛、うねりなど40代50代の髪悩みを解消して、おばさんぽくならない今どきのボブヘアをご紹介。上品で洗練されたヘアスタイルに変えて気分も一新!
-
シックな黒ワンピースから品よく絵になる白ワンピースまで【50代の1週間コーデ】
8/1(金)~8/7(木)までの「50代の毎日コーデ」をまとめてお届け。シンプルでも地味見えしない着こなしで、夏のおしゃれを快適に!
-
ホテルランチにもぴったりな一足や着こなしに鮮度をプラスする一足など50代におすすめのスニーカーはこれ!【エクラ編集部の愛用スニーカー】
スニーカーを愛用するスタッフが多いエクラ編集部。様々なスニーカーを経て今お気に入りのスニーカーは?この夏、出番の多いお気に入りの一足をスナップ!