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文章家 内田也哉子《中編》心の空白を満たすためにしたこととは?【エクラな美学 第7回】
女優の樹木希林さんとロックミュージシャンの内田裕也さんという異彩を放つ両親のもとに生まれた内田也哉子さん。也哉子さんの中にしっかりと根を下ろしていたふたりの美意識の種は、芽吹き、花を咲かせ、そして今、どんな実りをもたらしているのだろう。前中後編の中編では、『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』のエッセーの経緯について伺った。
文章家 内田也哉子《前編》母亡き今、思うこと【エクラな美学 第7回】
母の美意識に圧倒されながら自分を俯瞰していた子供時代
恍惚としているようにも、哀しみをたたえているようにも見える。そんな笑みを浮かべ一歩を踏み出す姿は、豊穣なる大地の女神・ガイアのよう。まさに大地から静かに響き、聞く者の心と体にしみわたっていくような、とても印象的な声の持ち主でもある。
内田也哉子さん、48歳。そのソフトボイスで、アート番組(NHK『no art, no life』)のナレーションを、ここ4年ほど務めている。
「小さいころから美術に惹かれ、これまで世界各地のアートと出会うのは人生のこのうえない喜びでした。アートに関連するお仕事は、もう仕事というより自分自身の糧(かて)だと思っています」
也哉子さんの美意識に最も強く影響を与えたのは、ほかならぬ母、6年前に亡くなった樹木希林さんだ。
「子供のころ、おもちゃはいっさい買ってもらえませんでした。テレビすら居間にはなくて、娯楽といえば母の本棚にあるマティスやピカソの画集やブレッソンの写真集、数冊ある絵本だけ。飽きずに何度も眺めてその作品の世界を空想するのが常でしたね。私が見よう見まねで絵を描いていると、“この椅子新しく張り替えたから、ここに絵を描いてよ”といわれたり、“このスカート、ちょっと間が抜けているからここに絵を描いたら”といわれたり。友だちの誕生日プレゼントを買いたくてもダメといわれ、ステンドグラス風に加工できる画材を買ってきて、“あなたがガラスコップに何か描いたらどう?”と。何個か描いてセットにしてプレゼントしたこともあります。みんな市販のものをあげているから子供心にすごく恥ずかしかった。でも母はそうやって子供なりのクリエイティビティを養おうとしていたのかもしれません。かと思えば、絵を描いて生きていきたいと私がいうと、“そんなのでは食べていけないんだから”と、さっさと芽を摘んでしまうんですが(笑)」
也哉子さんだけ今どきのものを持っていないということで、学校では孤立していたという。多様な子供たちが学ぶインターナショナルスクールに通っていたにもかかわらず。そんな環境に置かれた自分を早くから俯瞰する癖がついた。この先もずっとこうだろう、だったら自分で工夫していくしかないと。
「洋服も買ってもらえたことはなくて、浅田美代子さんはじめ女優さんのお古をいただき、肩上げしたり裾上げしたりして着ていました。そのときの自分にピッタリのサイズの既製品を着ることは、私にとってはすごく贅沢なことでした」
母と娘のショッピングもほかの家庭とは少し様相が違ったようだ。
「中学に上がる前に、冠婚葬祭用に黒や紺のスーツが必要だと母は思ったらしく、初めて連れていかれたのは南青山のヨウジヤマモトのショップでした。どれもこれも黒っぽくて存在感のあるフォルムばかり。私が、このジャケットもいいな、バルーン型パンツも、アシンメトリーなドレスもいいなと迷っていたら、“あなたが迷っているのも一理ある。はい、じゃあこれ全部ください”と。その0(ゼロ)と100の間がない感じ、緩急のすごさに絶句しちゃって(笑)。わーいお母さんとショッピングだ、うれしいな、なんていう雰囲気はまるでなくて、終始“あなたは何を選ぶの?”とオーディションを受けているような時間でしたね」
ちなみに170ページで也哉子さんが着ている着物も希林さんの遺(のこ)したもの。「簞笥5棹分の母の着物をどうやって生かしていくか、目下の私の課題です」メイクについても希林さんの規準は明快だった。「高校時代に細い眉が流行(はや)り、私も少し剃って整えたいなと思っていましたが、わが家では禁止。人の表情にとって眉はとても大事なパーツだから、みんなと同じ形の眉毛にしたらみんな同じ顔になっちゃうということなんです。うちに来た友だちにも、“あなた絶対眉毛だけは剃っちゃだめよ!”っていっていましたから(笑)」
也哉子さん自身も3人の子供たちに同じように接しているのだろうか。「母の壮大な実験の結果、私はこんなふうに仕上がりましたが、私はあの徹底ぶり、過酷さはまねできないです。反動で、より普通の、よりニュートラルな方向に行きがち。母から、“ふーん、あなたはそうやって子育てするのね”と通りすがりに、驚き半分、冷ややかさ半分でいわれたことがあります」と苦笑する。
(中編へつづく)
「母と娘の楽しいはずのショッピングも、どこかオーディションのようでした」
文章家 内田也哉子
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文章家 内田也哉子《後編》自分自身のために、誰かの役に立ちたい【エクラな美学 第7回】
女優の樹木希林さんとロックミュージシャンの内田裕也さんという異彩を放つ両親のもとに生まれた内田也哉子さん。也哉子さんの中にしっかりと根を下ろしていたふたりの美意識の種は、芽吹き、花を咲かせ、そして今、どんな実りをもたらしているのだろう。前中後編の後編では、夫婦や家族の在り方について伺った。
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コラムニスト ジェーン・スー《前編》デビューからこれまでの10年を振り返る【エクラな美学 第6回】
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【ルイス・キャロルの「不思議の世界」へ!】銅版画家・山本容子×歌人・穂村 弘 特別対談「別世界の入口に立って――」
2026年のエクラのカレンダーは、山本容子さんが『不思議の国のアリス』にインスピレーションを得て描いた作品群がテーマ。ワンダーランドについて語りあうお相手は、独特の世界観を繊細に描く歌人・穂村弘さん。画家が描くワンダーランドを、歌人はどう読みとるのか? 歌人の言葉は、画家にどう響くのか? そしてなぜアリスはこんなにも、私たちを惹きつけるのだろう?
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2025年12月号付録は、創刊以来、毎年人気を博している山本容子さんの銅版画作品カレンダー。今年は、山本容子さんが『不思議の国のアリス』にインスピレーションを得て描いた作品群がテーマ。エクラ12月号は2025年10月31日発売、どうぞお買い逃しなく!
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