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文章家 内田也哉子《前編》母亡き今、思うこと【エクラな美学 第7回】
女優の樹木希林さんとロックミュージシャンの内田裕也さんという異彩を放つ両親のもとに生まれた内田也哉子さん。也哉子さんの中にしっかりと根を下ろしていたふたりの美意識の種は、芽吹き、花を咲かせ、そして今、どんな実りをもたらしているのだろう。前中後編の前編では、幼少期の母娘の思い出について伺った。
文章家 内田也哉子《後編》自分自身のために、誰かの役に立ちたい【エクラな美学 第7回】
誰かの役に立ちたい。それは私自身のために

10歳年上の本木雅弘さんと電撃結婚したときの驚きを覚えている読者も多いだろう。也哉子さんは当時19歳。ふたりのツーショット写真は多くの雑誌のグラビアページを飾った。
「早いもので銀婚式もとうに過ぎました。知り合ったのが15歳ですから、両親の次に私の人格形成の大半を担っている人なんですよね」
長い夫婦としての時間には危機もたびたびあったという。
「いまだに、他人と暮らすって大変だなと思うことのほうが多いですよ(笑)。ふだんからよく話し合うぶん、物事のとらえ方が違うと納得いくまで折り合いを探そうとしてしまうんです。気づくと夜明けまでディベートしたり、何度も力尽きそうになりましたね。でもやっぱり解散にはいたらないのは、もうただひたすら“怖いもの見たさ”です」とドキッとする言葉が出てくる。
「あきらめたら、これまでの時間と労力がもったいないのもありますが、この関係を続けていった先に何があるのか、この先自分がどう変わるのか変わらないのか、彼も相当に辛抱強いですから、こうなったらお互いを見つめ、まるで鏡のように映し出される自分の姿を知っていくほうがおもしろいかなと。母も離婚は選ばなかった。家にまるでいなかった、あんなに型破りだった父ですけど、最期を迎えるにあたりふたりでしか得られないひと時があったのを私も知っているんです。母は長い間苦しいことも多かったでしょうけど、その一瞬のきらめきは何ものにも代えがたいものだったのじゃないかな」
その場の空気が少々しんみりとなったかと思うと、「なあんていって、来週あたり“やっぱり離婚しました”ってなったらごめんなさい(笑)。そのときはまた改めて、“どういうことですか?”ってインタビューしてくださいね」と也哉子さんはほがらかに言い放つ。
3人の子供たち、長男の雅樂(うた)さん、長女の伽羅(きゃら)さん、次男の玄兎(げんと)さんに対しても夫婦げんかは隠さないという。
「彼らには申しわけないけど、みっともない部分は全部見せちゃってます。“ああはなりたくないね”とそれぞれが思ってくれたらと、子供頼みで育児してきました。そもそも彼らは、母や父、そして私たちの作品や出演作にはほとんど興味もってないみたい。世の中にはおもしろいものがあふれていますから、そのくらいの家族の距離感が健全かと。でも晩年に一緒に見ながら語り合うのもいいですね」
「これからは、ほかの誰かの役に立ちたい。“これやってよ”と投げられたら、どんなボールでも受け止めたい」
結婚も育児も、そして親を見送ることも、多くの同世代の女性たちより10年ほど早く体験してきた。この先どんな50代を思い描いているのだろう。
「そうだなあ、人よりも早く家庭を耕すことに時間を使ってきたので、ここから先はほかの誰かの役に立てることを見つけたいですね。それはもう私自身のために。例えば母との共著『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)がきっかけで子供たちの自死と心の問題に目を向けてきましたが、例えばNPOにかかわるとか、さらに取材して書くとか、あれこれと考えているところです」
希林さんとともに出演した映画『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(’07年)のような、俳優としての也哉子さんにもまた出会ってみたい。
「私自身は一度も演技をしたいと思ったことはないのですが、やらないと決めているわけでもなくて。出会いにはいつもオープンでいたいんです。会ったことのなかった監督さんから“脚本を読んでほしい”といわれたら、その出会いを愛(め)でたい。きっと私は0(ゼロ)からひとりで何かをつくりたいのではなくて、いつも誰かとキャッチボールしたいのかも」
希林さんから、「だったらあなた、ここに絵を描いてよ」と頼まれたように、「“これやってよ”と投げかけられたら、それがなんであれ受けて返したいんです。だから50歳になって新たに何か始めようというよりは、今までと同じように人と出会い、出会うことで自分を知りシフトしていく、そういう交感の旅を続けていけたらいいなと思っています」。
内田也哉子の活動の現場から
文章家としてはもちろん、ナレーションや作詞の仕事でも活躍する也哉子さん。その出演作、著書、作品の一部を紹介する。
アートに出会い、アートを伝える。ナレーションが新しいライフワークに

既存の美術や流行、教育などに左右されず、誰にもまねできない作品を創作しつづけるアーティストたちを紹介する番組『no art, no life』。この番組開始時からナレーションを務めている。
「作品が生まれる瞬間、作家さんのたたずまいとか生き様が伝わってくるのですが、それがかわいらしい人もいればすごみのある人もいて。映像美と音楽の調和も見事で、見たあとにせつなさと希望がわいてくる5分間です。ブースにこもり、ひとりで声を吹き込んでいくのは私の至福の時間です」。
5年間の対話の集大成。エッセー『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』を刊行

’18年12月から5年にわたり季刊誌『週刊文春 WOMAN』に掲載された連載をまとめたエッセー集。谷川俊太郎、小泉今日子、中野信子、養老孟司、鏡リュウジ、坂本龍一、桐島かれん、石内都、ヤマザキマリ、是枝裕和、窪島誠一郎、伊藤比呂美、横尾忠則、マツコ・デラックス、シャルロット・ゲンズブールの15人との対話がコラージュのようにつづられている。カバー絵は也哉子さんが、本文イラストは次男の玄兎さんが作画したもの。
もうひとつの言葉を紡ぐ仕事、作詞家としての顔も

NHKのアニメ『オチビサン』(安野モヨコ原作)の主題歌『ロマンティーク』を作曲した森山直太朗さんに頼まれ、作詞を担った。スキャットのようなフランス語のモノローグ部分では、也哉子さんも声で参加した(上の写真は『ロマンティーク』のMV撮影風景)。『オチビサン』は、鎌倉のどこかにある小さな町“豆粒町”を舞台とした、主人公のオチビサンと仲間たちの物語。夏は蝉とり、秋は落ち葉で焼きいもと、四季折々のどこか懐かしい日本の原風景を、オチビサンの目線を通して描いている。

森山直太朗の楽曲、『ロマンティーク』(配信中)で作詞を担当。2/28には、12インチ・アナログ・レコードも発売

文章家 内田也哉子
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女優の樹木希林さんとロックミュージシャンの内田裕也さんという異彩を放つ両親のもとに生まれた内田也哉子さん。也哉子さんの中にしっかりと根を下ろしていたふたりの美意識の種は、芽吹き、花を咲かせ、そして今、どんな実りをもたらしているのだろう。前中後編の中編では、昨年刊行したエッセーについて伺った。
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