【五味太郎さん×江國香織さん<前編>】幸せになるにはどうしたらいい?幸せの定義とは

長く愛される作品を数多く生み出し、幅広い層から支持されている絵本作家・五味太郎さん。エクラ読者と同世代で、恋愛や家族などを多彩に描いてきた小説家・江國香織さん。旧知の仲のおふたりのスペシャル対談をお届け!

不幸にならないためにはイヤなことを避けるしかない

五味 江國さんの仕事を見ていると、「物心ついたときに感じていたことが驚くほど表れている」といつも思うよ。

江國 「自分は9歳のときから変わらない」とずっと思っているんです。


五味 おれは10歳ぐらいから変わっていないね。あのころの「こういうの好き」とか「こういうの嫌い」というのが自然と作品に出ちゃう。9歳、10歳って自意識が生まれる年齢だけど、そのころから何も成長していないことに驚くと同時に、最近は自信になっているんです。「あのころできあがったもので貫けてきたんだな」って。まわりは迷惑だったかもしれないけど(笑)。江國さんも成長していないよね。

江國 はい(笑)。お酒を飲むとか、仕事をするとか、そういうことはできるようになったけれど。


五味 おれもそうだけど本質は変わっていないんだよね。新しい言葉や新しい画材を手に入れたりはしても。おもしろいなと思うのは、10年ぐらい前からおれのところにいろんなことを聞きにくる人が増えたんだよ。雑誌の取材とか。

江國 私もときどき“脳内五味さん”を発動するときがあります。「五味さんだったらこれを何とおっしゃるかな」と。たいていは「どっちでもいいんじゃない」とか「世の中そんなもんです」とおっしゃって、「それよりお茶でも飲みなさい」と、違うところに誘導してくださる(笑)。

五味 答える気がないんだよね(笑)。いつだったか「幸せになるためにはどうしたらいいんでしょう?」と質問されたことがあったんだけど、江國さんは幸せになりたいと思ってる?

江國 うーん、どうだろう。幸せの定義があまりわかっていないですね。


五味 そんなこと考えたことがなかったんだけど、とりあえず不幸になりたくはないなと思った。

江國 それはわかります。


五味 このままだと苦しくなるとかピンチになるとか、そういうことに関しては割と早めに気がついて、そうならないように、自分を救うための努力をした気はします。例えば「このままこの教室にいたらヤバイ」とか。

江國 それ以外にやりようがないですよね。イヤなことを避けるしかない。

いつだったかパリで偶然会ったことがあったよね。今回は何年ぶり?――五味太郎

五味さん江國さん

たぶん9年ぶりです。五味さんとお会いすると、いつも「今日はいい日!」と思います――江國香織

五味 以前江國さんがいっていて素敵だなと思ったのが「準備ができていない」という言葉。本当にそうなんだよね。学校でいきなり「これをやれ」といわれても困っちゃうことがある。基本的に社会って学校みたいな感じで、小学校→中学校→高校と進むにつれて、つまり年齢を重ねるにつれて、右肩上がりに成長するのが当然と思われている。我々は最初からそれを疑っていたけど(笑)。

江國 疑いは基本ですよね。疑いからは逃れられない。

五味 「人は年々成長して幸せになっていくもの」と思っている人が多いかもしれないけど、それで幸せになる保証はないんだよ。だから「幸せになるには」と考えるなら、右肩上がりみたいな発想から抜け出さないと答えを出すのはなかなかむずかしいと思う。

江國 「成長した」とか「成長できなかった」と思うのは気のせいで、自己満足なのかも。それも大事ですけどね。


五味 たぶん江國さんもおれも自意識が強いんだよ。実は自意識が強いのはあたりまえなのに、全体をよくするためにと、割と自意識を抑える風潮がある。これは日本の社会だけじゃないよね。そういう時代は実はもう終わっていて、自意識をもっと強くもつといいと思うね。

【五味太郎さん×江國香織さん<前編>】幸せになるにはどうしたらいい?幸せの定義とは_1_2

9歳、10歳からずっと本質が変わらないから今がある――五味太郎

五味太郎

五味太郎

ごみ たろう●’45年、東京都生まれ。絵本作家。『さる・るるる』『みんなうんち』『きんぎょが にげた』『まどから おくりもの』などたくさんの名作を手がけ、著作は約400タイトル。海外で翻訳されている本も多い。最新刊は『ぼくは ふね』(福音館書店)。
江國香織

江國香織

えくに かおり●’64年、東京都生まれ。小説家。’04年に『号泣する準備はできていた』で直木賞を受賞。『去年の雪』『ひとりでカラカサさしてゆく』『シェニール織とか黄肉のメロンとか』など著書多数。最新刊は『川のある街』(朝日新聞出版)。
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