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【五味太郎さん×江國香織さん<前編>】幸せになるにはどうしたらいい?幸せの定義とは
長く愛される作品を数多く生み出し、幅広い層から支持されている絵本作家・五味太郎さん。エクラ読者と同世代で、恋愛や家族などを多彩に描いてきた小説家・江國香織さん。旧知の仲のおふたりのスペシャル対談をお届け!
【五味太郎さん×江國香織さん<中編>】絵本を作ること、小説を書くことで救われてきた
言葉が好きすぎると不自由になってしまう!?
江國 五味さんは考えるのがお好きですよね。
五味 大好き。
江國 五味さんが楽しんで考えていらっしゃることがたくさんの本になっていて、絵描きさんなのに言葉の人でもあると思いました。
五味 気取っていうわけじゃないけど、哲学なんだよね。もののありようをああでもないこうでもないと考えるのが大好き。ただ、あるとき考えているだけではお金にならないと気がついて、20代の終わりごろに絵本を作るということを思いついた。「絵本で考えてみる」というクセがついたんだね。
江國 絵本って完璧ですよね。
五味 絵も使えるし、字も使えるし、両方使っても使わなくてもいい。プラスアルファもできるし、冗談みたいなことも全然OK。そういう構造がありがたくて、いっぱい描いちゃう。
江國 うふふ(笑)。
五味 考えるのが好きというより性格だと思う。いい・悪いじゃなくて。あと、でっちあげるのが好き。例えばおそば屋さんで、子供たちがいいものを食べているのに両親が質素なものを箸がすすまない感じで食べていたら、「両親はこれから心中するつもりで……」とか考えて涙が出てきちゃったり(笑)。よけいなことやどうでもいいことをなぜか考えるんだよね。それと、工業デザインの勉強をしたことの影響はあると思う。
おれは絵本を作ることで自分が一番救われている気がするんだよ――五味太郎
小説は書くのも読むのも現実逃避の手段。逃げ込める場所なんです――江國香織
江國 五味さんの絵本はデザイン的ですよね。
五味 『ぼくは ふね』もそうだったけど、どれくらいの表情で、どれくらいの大きさ・重さ・値段で……と考えるのが楽しくて、夜が明けるまでやっている。
江國 五味さんの本は単に物語ではなく、物体として語りかけてくる感じが強いと思います。私は言葉が大好きなんですけど、言葉に固執しすぎると逆に不自由になっちゃう。
五味 言葉ってどこかで整合性を求められるからね。読んだ人が「そこんところはっきりしてください」みたいにいいたくなる。おれは絵本を作ることで自分が一番救われている気がするんだよ。
江國 私は書くのも読むのも現実逃避の手段なんです。避難場所、逃げ込める場所があるということは救われているということと近いですね。ずっと書くことを続けてきたのはおもしろいし好きだからだけど、ほかにできることがなかったことが大きいんです。20代前半はもっと何かできると思っていたので。
五味 例えば?
江國 映画の字幕をつける人になりたいとか、果物屋さんになりたいとか。英語の会話学院みたいなところでしばらく教えていたことがあるんですけど、向いていないということがよくわかりました。
五味 本当に向いてなさそうだな(笑)。
江國 はい(笑)。特に子供のクラスを教えるのがむずかしかった。考えるのにすごく時間がかかる男の子がいたんですけど、そこのカリキュラムでは質問に対してすばやく答えなければならなかったんです。私は彼のいうことを待ちたかったからそうしていたら、ほかの生徒のお母さんから「沈黙の時間が長いと娘がいっている」とクレームがきてしまって。私はその男の子の気持ちがわかったし、時間がかかっても考えたほうがいいじゃないですか。今思えば、そこのカリキュラムと私が合わなかったのかもしれませんが。
五味 先生と江國さんが合わないんだって(笑)。
江國 そうでした(笑)。
五味 でもやってみないとわからないよな。
江國 私の小説を読んだかたに「子供のころの感覚を今でも覚えているんですか」と聞かれることがありますが、覚えているというよりそのまま生きちゃっているという感じです。
五味 ある意味困った女だけど(笑)、好きなことを続けてきたという根性があるよね。たぶんそれはご両親が江國さんを許して守ったんだと思う。意識的には守っていなくても。
江國 そう思います。
五味 おれは親父とはちょっと距離があったんだけど、本を2、3冊出したころ「最近こんな本を作っています」と見せたことがあって。そしたらていねいに本を見たあと急に敬語で「つかぬことをうかがいますが、こういう本は売れるんですか」と聞かれたの。「おかげさまでぼちぼち」と答えたんだけど、社会人として認められたのかなと思った。あのときの親父の感じはいまだに忘れられないね。「いい親だったんだな」と思って母にそういったら「遅いよ」だって(笑)。そういう親の気配でしか、社会って見えないもんな。
江國 私もよかったと思います。ああいう父と母で。
まるで人生を語っているよう
『ぼくは ふね』
五味太郎 福音館書店 ¥1,980
ちいさな船の「ぼく」が海を進んでいくとやがて嵐で大荒れに。ヘリコプターに吊り上げられて助けられたと思ったけれど、実は捨てられた!?「もうおしまいだ」と思ったぼくの前にやってきたのはほかの船。その船から「その気になればどこだって進めるものだよ」といわれ、ちいさな船がその気になると……。楽しい色使いで細部までじっくり見たくなる絵本。
人と風景を静かに描いた物語
『川のある街』
江國香織 朝日新聞出版 ¥1,870
小3の望子の目を通して2本の川が流れる街を描いた「川のある街」。ある目的で北陸の街を訪れた女性とそこの病院に入院中の妊婦、その地で暮らすカラスなどを視点にした「川のある街Ⅱ」。40年以上前に愛する女性とヨーロッパに移住したが彼女を亡くし、現在は認知症が進行中の芙美子を描いた「川のある街Ⅲ」の3編を収録した作品集。
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