元弁護士の作家が描く日本の政界を舞台にした物語『女の国会』【斎藤美奈子のオトナの文藝部】

今話題の本を文芸評論家・斎藤美奈子さんがご紹介。日本の国会の女性議員の少なさを題材にした『女の国会』ほか政治をテーマにした本3冊。
『 女の国会 』

永田町を舞台にした、大ドンデン返しのミステリー

周知のように、日本の国会の女性議員の少なさはシャレにならないレベルである。参院は約25%、衆院は約10%。

新川帆立『女の国会』はそんな旧態依然の永田町を舞台にした異色のミステリーである。

NPOでの活動から政界に入った野党第一党・民政党の高月馨と、三世議員で父は首相経験者という与党第一党・国民党の朝沼侑子。ともに40代半ばの衆院議員ながら、常に憤慨していて「憤慨おばさん」と呼ばれる高月と、人に擦り寄るのが得意で「ウソ泣きお嬢」のあだ名をもつ朝沼は真逆のタイプだ。とはいえふたりは共闘していた。性同一性障害特例法の改正を実現させるためである。

ところが法案は与党・国民党の総務会でつぶされた。〈あなた、この法案を通すつもり、本当にあったの?〉と詰め寄る高月。〈私は私なりに、必死に〉と涙目で応じる朝沼。口論になる前にふたりは別れたが、翌々日に事件は起きた。朝沼が死んだのだ。しかも青酸カリによる自殺らしいという。

当選5回、すでに大臣経験もある将来の女性首相候補で、しかも同じ派閥の参院議員・三好顕太郎と婚約していた朝沼がなぜ?

永田町は上を下への大騒ぎとなり、高月は民政党の幹事長に〈謝罪のうえ、国対副委員長をやめてもらう〉と命じられた。〈死の直前にもめたのは君だった〉。

そんなことで死ぬ人ではない。彼女が自殺したのならよほどの理由があるはずだ。かくて奮起した高月は、婚約者の三好や新聞記者の和田山も巻き込むかたちでことの真相を調べはじめるが……。

女性の国会議員を主役にした小説はこれまでもなかったわけではないものの、議員の死がからむのは異例である。しかもそこは永田町。議員がひとり欠ければ間もなく補欠選挙が行われ、各陣営は次の候補者探しに追われるのだ。

もうひとつ注目すべきは高月らが改正を目ざしている性同一性障害特例法で、戸籍上の性を変えるのに厳しい条件がついたこの法律は現実社会でも批判が多い。

物語のカギを握るのは朝沼が残した遺書とされる謎の文書だ。

〈女に生まれてごめんなさい。お父さん、お母さん、迷わくをかけました。わたしは男に生まれたかった。(略)任期が終わるまではガンバろうと思っていたけれど、ダメでした。家の名前に泥をぬることを、おゆるし下さい〉

もしかして朝沼自身が性同一性障害(現在の呼称では性別不合)だったのか。その前に、これはほんとに朝沼の遺書なのか。

最後に待っているのは、大ドンデン返しである。設定にところどころ無理がないわけではないものの、旧弊な政界の現実に負けじと立ち向かう女性議員らの姿はあっぱれで、思わず引き込まれる。

『女の国会』

新川帆立
幻冬舎 ¥1,980

「お嬢」と呼ばれる女性議員が自殺した。物語は3人の女性(新米政策担当秘書の沢村明美、毎朝新聞政治部記者の和田山怜奈、補欠選挙に立てと高月に打診された市会議員の間橋みゆき)の視点で語られており、それぞれの視点から国会内で女性がどう見られているかがイヤッというほど暴かれる。意外なキーパーソンは死んだ朝沼の婚約者で、驚愕の結末が待っている。作者は’91年生まれ。弁護士経験をもち、現在は作家専業。

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『 元彼の遺言状 』

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文芸評論家・斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』『忖度しません』『挑発する少女小説』ほか著書多数。近著は『出世と恋愛 近代文学で読む男と女』(講談社現代新書)。

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