【夏の文芸エクラ大賞】出版界に衝撃を与えた「芥川賞&芥川賞候補作」

この1年間の売れた本&話題の本をプレイバック。文芸評論家・斎藤美奈子さんと本の最前線から世の中を考える! 今回は芥川賞受賞作&芥川賞候補作をご紹介。
斎藤美奈子

斎藤美奈子

さいとう みなこ●’56年生まれ。’94年『妊娠小説』でデビュー。’02年『文章読本さん江』で小林秀雄賞を受賞。ほかの著書に『挑発する少女小説』『出世と恋愛』など。最新刊は『あなたの代わりに読みました』(朝日新聞出版)。

芥川賞&芥川賞候補作は、新人作家による“当事者からの問い”

市川沙央(おう)さんが’23年7月に芥川賞を受賞した作品が『ハンチバック』。グループホームで暮らす裕福な重度障がい者の女性が主人公だった。

「これは衝撃作でしたね。市川さん自身も重い障がいがあり、読書するにも紙の本だとそれを憎むほど背骨に負担がかかるなど、健常者がわかろうとしなかった現実が描かれていた。この本は出版界にもショックを与え、"障がい者のニーズに応えなければ"という声が広がりました」(斎藤さん)


一方’24年1月に芥川賞候補作になったのが安堂ホセさんの『迷彩色の男』。「安堂さんも小説の主人公と同じブラックミックス。主人公はゲイでもあり、多様性の時代ならではの小説です。市川さんや安堂さんの本を読むと、障がいや人種、セクシュアリティについての認識不足を思い知らされますが、文学に“力”があるからそう感じたともいえる。社会の理解が進めば、差別を超えた小説がさらに出てくる気がします」

『ハンチバック』

『ハンチバック』

市川沙央

文藝春秋 ¥1,430

『迷彩色の男』

『迷彩色の男』

安堂ホセ

河出書房新社 ¥1,760

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