【ジェーン・スー×三浦しをん対談-後編-】言葉は「魂を養う」ためにある

ラジオを聞けば、本のページをめくればあふれる、言葉、言葉、言葉。その第一線で日々、格闘するジェーン・スーさんと三浦しをんさんにとって、本当に大事な言葉とは?

言葉に触れ、魂を豊かに。私たちはそうして生きている

三浦 好きな言葉でひとつ思い浮かんだのが、杉本亜未さんのマンガ『独裁者グラナダ』。その中に登場する人物の台詞に〈魂を養うこと/それこそ人間にとって一番大切なことだ〉というのがあるんです。ある創作活動をしている人物が、生きる喜びと苦しみについて語る台詞なんですが、作り手だけでなく、創作物を味わうのが好きな人もきっと同じように魂を養っているんだと思うんですよね。小説やマンガ、映画が好きな自分をあえて言語化するなら「魂の養いヲタ」だし。

スー そうですね。言葉に触れて魂をふくよかにしていく、それこそが幸せで、そのために生きているといっても過言ではないと思う。

三浦 うん。そのことだけは見失わないようにしたいなと思ってます。

※ 杉本亜未作『独裁者グラナダ』新装版(ナンバーナイン)より

ジェーン・スー

スー 自分の指針になっている言葉では、もうひとつ……。この間、やっぱりラジオの相談コーナーで、相手に注いだ愛情に見返りがないことを悩む人に答えていたときに「愛情なんて、くれてやれ」っていう言葉が口から出たんですよ。いった自分でも、それは本当にそうだなと。

三浦 カッコいいじゃないですか! 愛情って、本来タダなんだし。

スー ね。それを回収しようとしたり、どっちの愛情の質が高い低いと比べようとするのはあさましいんだよと……。でも、自分で自分の言葉に元気づけられるって、自己発電がすぎるだろって気もしますけど(笑)。

三浦 フフフ。すごく愛しているから相手も私を愛してくれるといいなという期待を誰かにもてて、それをあきらめていないというのも、また、愛なんでしょうけどね。

三浦しをん

スー 愛といえば、うちの母が亡くなる前に、なぜか私にじゃなく私の友だちに託した言葉があって。それが、「結婚は、その人を愛した記憶とお金があれば続く」。

三浦 確かに! 激烈な愛情が何十年も続くわけはないですよね。お金も、共同生活には大事だし。


スー そんなの私にいってよって感じですけど、この年齢になると、どれだけ愛されたかよりも、どれだけ好きだったかのほうが大事なんだろうなと思いますね。どれだけ愛されたかで自分を測る人もいるでしょうけれども、私はそっちではないので……。もう蛇口全開で、流れるプールみたいに、愛をジャーッ!!と。

三浦 激しすぎる(笑)。


スー 愛は言葉じゃなくて、行動ですよ。口ではなんとでもいえる……って、言葉の特集でいいにくいんですが(笑)。とにかく、言葉ってすごく強いものなので、取り扱いも対峙の仕方も要注意。「大事なものだけど信じすぎることなかれ」で、あとは三浦さんのように忘却することですね。

三浦 うん。私の場合、そもそも聞いていないし(笑)。

スー アハハ! いつか『聞かない力』っていう本、出しましょう。

ジェーン・スー

ジェーン・スー

じぇーん すー●’73年、東京都生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ、作詞家として活動。最近の著書に『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)、『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)など。ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』『となりの雑談』も好評。
三浦しをん

三浦しをん

みうら しをん●’76年、東京都生まれ。’00年『格闘する者に○』でデビュー。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞受賞。『舟を編む』『風が強く吹いている』など映像化、舞台化作も。最新刊は『墨のゆらめき』(新潮社)、エッセー集『しんがりで寝ています』(集英社)。
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