【三浦しをんさんインタビュー】ユーモアたっぷりの日常がつづられた最新エッセー集刊行

エッセー集『しんがりで寝ています』を刊行した三浦しをんさん。年を重ねた今の心境や、自身の“推し活”についても語ってくれた。

読みながら笑いをこらえきれなかったり、ふむふむなるほど、と思ったり。作家・三浦しをんさんのエッセーはいつも私たちに親近感を抱かせてくれるが、女性誌での連載をまとめた最新エッセー集『しんがりで寝ています』でもその魅力は健在。日常でのハプニングも心を奪われたEXILE一族のことも、愛あるツッコミを交えながらワクワク感たっぷりにつづられている。

「連載を始めて10年目で、本にするのは2冊目ですが、年齢を重ねていくと生活は変わらなくても時間経過がだんだん速くなるのを感じています。それなのに好きなものや人が増えて推しが鈴なりになってしまい、時間が足りない! 睡眠も大好きだし(笑)。本書を読んだかたはそうは思えないとおっしゃるでしょうが、以前より熱狂を抑えて体力をいろいろなものに振り分けるように気をつけています」

三浦しをんさん

“一度好きになったら執念深い”と自認する三浦さんにとって、推しは新しい世界へと心を開いてくれる窓。外国に行って初めての文化に触れたときの鮮烈な感覚に似ているのだとか。

「ファンを含めて推しはひとつの文化。“今まで自分が考えていたのとはまったく違う世界がある”と教えてくれておもしろいんです。推しから得られるときめきや楽しみは日常を支える大事なもの――それはもちろんなのですが、一方で居心地のいい日常を守ろうとして神経が図太くなりすぎるのはいかがなものかという気持ちも。ここ数年日本でも世界でもコロナ禍などの大きな変化がありましたが、日常を侵蝕してくる理不尽なものに鈍感ではいけないと思うようになりましたね」


ずっと執筆中心の生活で、エッセーのネタに困ることがあるほど外出機会が少ないという三浦さん。ただそれを補って余りあると思えるのが近所に住むユニークなご両親。今回はお父さまが三浦さん愛用のピカチュウのトートバッグを足ふきマットと間違えるなど、数々のネタを提供している。

「父が白内障の手術をする前だったので、見えにくかったのかもしれませんが(笑)。耳が遠くなったのか集中力が低下してきたのか、最近の父は私の話を聞いていないことが多くて“まったくもう!”と思うことも。でも人は加齢によってだんだん自由奔放になる気もするので、年をとるのは悪いことばかりじゃないと思っています。これから先は笑いごとじゃないことも起きるでしょうが、物事を客観的に見ると心が落ち着くし、それを文章にするとユーモアも生まれる。小説とエッセーはまったく別ものですが、これからもエッセーはそんなふうに書いて、読んだかたに楽しい気持ちになっていただければうれしいですね」

『しんがりで寝ています』

『しんがりで寝ています』

雑誌『BAILA』での’19年から4年分の連載に後日談や書き下ろしを加えたエッセー集。ピカチュウの等身大ぬいぐるみと共寝し、観葉植物の植え替えに挑み、玄関付近に出現したハチと戦う……コロナ禍もその後も続く日常がユーモアたっぷりにつづられている。集英社 ¥1,760

三浦 しをん

三浦 しをん

みうら しをん●’76年、東京都生まれ。’00年『格闘する者に〇(まる)』でデビュー。’06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、’12年『舟を編む』で本屋大賞を、’18年『ののはな通信』で島清(しませ)恋愛文学賞を受賞。『風が強く吹いている』『政と源』『墨のゆらめき』などの小説のほか、『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』などエッセーも多数。
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