【池松壮亮さんインタビュー】急速に変化する世界に翻弄されつつもひたむきに生きる青年を描く

4年前、ロケ先の上海のホテルで、ふと目にした日本の新聞小説に、池松壮亮さんは激しく胸が揺さぶられたという。「平野啓一郎さんの『本心』という作品でした。ものすごい勢いで進化しつづけるテクノロジー、格差や貧困、自然災害……と、地球が抱える、あらゆる問題に切り込んだ物語でした。これは今、映画で描くべきだと確信し、帰国後に石井裕也監督に話しました」
池松壮亮

池松が全幅の信頼を置く監督と実現に向けてやりとりが始まった。

「結論のないさまざまな問題を孕(はら)んでいるので、何を選択し、どういう作品にするのか、彷徨(さまよ)いました」

勤めていた工場が閉鎖し、生活のためにリアルアバター(分身)の仕事を始めた、池松扮する朔也。カメラが搭載されたゴーグルをつけ、依頼主から指示をされつつ駆けずりまわり、アバターになら何を要求してもいいという、人間の欲望と醜さを知っていく。

「時代についていけない孤独な朔也は、仮想空間に“人間”を創(つく)るVF(ヴァーチャル・フィギュア)という技術を知り、1年前に“自由死”を選んだまま亡くなってしまった母親を創ってほしい、と依頼します。たったふたりで生きてきた母の本心が知りたい一心でした」

やがて完成したヴァーチャルな母と暮らしはじめるが……。

「近年、自由死についても耳にする機会が増えましたが、とても気になっています。また人間を創るという行為も、これまでは神の領域でしたよね。でも、人間には欲望や損失の歴史があって、それをテクノロジーがかぎりなくかなえる時代に歯止めが効かなくなっています。今、あらゆる変化の波に対して進むべき道を議論できる、ギリギリの時点にいると感じます。自分たちの未来について、光ある選択肢が残されていると思いたいです」

終始、静かに思慮深く話す人だ。物事の本質を見つめようとする雰囲気があり、その繊細な演技に、出演のオファーは絶えない。

「映画やお芝居は、この世界や人を考えることとつながっていて、向き合わざるをえません。ただ日本は特にビジネス一辺倒の傾向があって、気になります。文化産業として果たすべきことが、まだたくさんあるはずだと信じています」

物語は人が生きるとは、幸福とは何かを問いかけながら、答えは観る人それぞれにゆだねられる。

「未来で迷子になってしまった朔也はそれでもひたむきに生きていく。撮影中に感じた哀しみや寂しさは、体の中に体感としてそのまま残っていますが、僕自身、何か答えが出たかというと、わからないままです。確実にわかるのは、今作に今、出会えてよかったと心から思えること。少しでも今作を観てくれるかたとこの気持ちをシェアできたら幸せです」

池松壮亮

池松壮亮

いけまつ そうすけ●’90年、福岡県生まれ。’03年『ラスト・サムライ』で映画デビュー。’14年、『紙の月』『ぼくたちの家族』で多数の映画賞を受賞。近年の主な作品に『ちょっと思い出しただけ』『シン・仮面ライダー』など。今年は『ぼくのお日さま』『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』が公開。’26年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』では、豊臣秀吉役に決定している。

『本心』

『本心』
Ⓒ2024 映画『本心』製作委員会

朔也は母の本心を知るべく母のVFを創る。母の親友だった女性と3人の奇妙な共同生活が始まり、母の秘密や女性の苦悩が解き明かされていく。池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、妻夫木聡、田中裕子ほか出演。監督・脚本は石井裕也。11/8より全国公開。

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