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宇井彩野さんのデビュー作『愛ちゃんのモテる人生』ほか2冊【斎藤美奈子のオトナの文藝部】
『愛ちゃんのモテる人生』

18歳のオープンリーゲイの約10年にわたる人生の記録
ボーイズラブとか耽美小説とか、男性同性愛を日本文化は趣味や娯楽の対象として「消費」してきた。それで性的マイノリティの存在に光が当たった半面、当事者の等身大の姿が描かれてきたかというと甚だ心許ない。
宇井彩野『愛ちゃんのモテる人生』は’23年の氷室冴子青春文学賞大賞受賞作だ。語り手の「僕」の名は戸田愛維(あいすけ)。愛称は愛ちゃん。オープンリーゲイ(ゲイであることを公表している人)の男子で、小学2年生のときから男の子が好きだった。物語はそんな彼の約10年にわたる恋愛遍歴=モテる人生を年代順にたどっていく。
15歳。高校1年生の愛ちゃんは担任の男性教師に誘惑され、車の中でキスされた。愛ちゃんはそれが愛の深さだと思っていたが、卒業間際に彼が結婚すると知って失恋。そして考えた。〈面白くしなきゃ〉〈僕の人生も僕自身も、もっと面白くてクールで、自分で自分を最高って思えるようなものに〉。さすが今の子、それで始めたのが動画配信だった。
18歳。大学1年生になった愛ちゃんはある日、〈愛ちゃんマジでかわいいからさ〉〈とりあえずお試しのつもりで、付き合ってみない?〉と先輩の舟渡に言い寄られた。それでしばらく付き合ってみたものの、結局彼は〈ごめん。俺やっぱり、ゲイは無理だ〉といって去っていった。
20歳。先輩の九条に〈誰かをこんなに好きになったことはない〉と迫られた。別荘に誘われて夢のような時間を過ごしたが、九条には婚約者がいた。
大人としてはちょっと意見したくなる。あのさ愛ちゃん、あんた受け身すぎない? 主体性ってものがないからだまされるのよ。
さあ、ここがむずかしいところ。なぜいつも苦い失恋で終わるのか。愛ちゃんは動画で語っている。
〈僕もそうだけど、マイノリティの子たちって、焦っちゃうとこあるじゃん。ほんとに自分のこと好きになってくれる人なんて現れるのかな、とかって。(略)でもさ、焦って飛びつくと、こっちばっかり振り回されるつらい恋になっちゃうのかなあ……なんて〉
言葉は軽いが中身は切実。受け身になるのは理由があり、だが性被害と紙一重の危うさもそこには潜む。「モテる人生」には多分にアイロニーも含まれているのだ。
それでも彼は成長し、15歳での体験は性的虐待だったのだと気づく。〈僕は被害に遭ってたんだ〉〈あれだけは、恋愛とは呼べない、ただの搾取だったって〉。
作中には同性婚の法制化やLGBT理解増進法など社会的なトピックも盛り込まれ、考えさせる内容になっている。この先、果たして彼は真の愛に出会えるのか。27歳になった愛ちゃんの到達点は意外だけれど納得できる。
『愛ちゃんのモテる人生』
宇井彩野
河出書房新社 ¥1,848
ルックスのよさと個性的なファッションで、10代半ばから「かわいい男子」として「モテる人生」を送ってきた愛。だが恋愛らしきものに発展しても、いつも最後は失恋に終わる。漫画家の母、5歳下で幼なじみの飛鳥井太良(あすかいたろう)(タロちゃん)、専門学校生で愛と同じゲイのふみこと高梨文宏、雑誌の企画で知り合った人々など、多彩な人間関係を配して進む青春小説。同時収録されたスピンオフ作品「太良の法学ノート」もおもしろい。
『僕は失くした恋しか歌えない』

『僕は失くした恋しか歌えない』
小佐野彈
新潮社 ¥1,925
歌人としても活躍するオープンリーゲイの作者が中学から大学時代までをつづった自伝的青春小説。ボーイズラブ漫画を読んで恋に憧れていたが現実は違った。〈しらたまの月をうらめり浅はかな十七歳の胸をうらめり〉とは17歳で詠んだ失恋の歌。当事者の証言としても貴重な作品。
『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』

『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』
神谷悠一
集英社新書 ¥902
差別について語る際に必ず出てくる「もっと気をつけたい」「思いやりをもてば」などの言葉。だが差別は心の問題では解決しない。ジェンダーやLGBTQを中心に、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を払拭する制度の必要性を解いた好著。自身の言動にも反省を迫られる。
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『中古典のすすめ』『忖度しません』『挑発する少女小説』『出世と恋愛』ほか著書多数。近著に『あなたの代わりに読みました』(朝日新聞出版)。
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