【村田吉弘さんインタビュー】「料理界のカリスマ」が語る現代の日本食のあり方とは?

京都の料亭『菊乃井』。本店・支店合わせてミシュランの星を7つもとった老舗だが、その三代目主人・村田吉弘さんの著書『ほんまに「おいしい」って何やろ?』は今の日本の食文化に警鐘を鳴らした書。村田さんのメッセージからは波瀾万丈の半生で得た信念が感じられ、伝統と継承について改めて考えさせられる。

「日本の食文化が壊れる!?」そんな危機感があるからこその苦言です

村田吉弘

「最近みんな“おいしい”といいすぎではないか。わかりやすいおいしさを求めすぎて、“食”が薄っぺらくなっているのと違うか。それを問題視しているんです。元来日本人が求めてきたのは節度と品位。“食”でいうなら、季節や趣向を踏まえた滋味を大切にしてきました。ところが滋味のようなじっくり味わって初めてわかるおいしさより、濃くてわかりやすい味が好まれるようになった。観光地ではそういうものの食べ歩きが流行(はや)っていますが、味覚も行儀も変わってきているのを感じます。“おいしい”を“やばい”という人を見ると“何か異物でも!?”と思いますよ(笑)」

本書の文章同様、ユーモアを交えてざっくばらんに語る村田さん。

“お金さえ出せばおいしいものが食べられる”という風潮はいやしいのではないか。給食がごはんのときもお茶ではなく牛乳なのはなぜ? “食”にまつわるそんな問題意識はつきないが、“やはり大事なのは根本に立ち返ること”と考える村田さんはいくつものアイデアをすでに実行に移している。その代表例が「和食」をユネスコの無形文化遺産にする原動力となった日本料理アカデミーの創設だ。

「日本料理アカデミーの会員は料理人が200人、学者が100人。彼らの力で完成した『日本料理大全』は、魚のCTスキャン画像なども掲載した論理的に料理を学べる本です。1冊8000円以上する本を英訳し、デジタル版を無料公開しているのは、カロリーが低くCO2排出量も少ない日本料理は時代に適合していて、世界的に広まると確信しているから。実際僕の店には世界の有名シェフが日本独自の麴菌やうま味について学ぶために何度も来ているし、ミャンマーやマレーシアなどから働きにきている子もいる。僕が世界を視野に入れた幅広い活動をしているのは、みんなでよきことをすれば必ずいい方向に進んでいく、と信じているからなんです」

エクラ読者にとって“食”は作り手としても味わう側としても関心が高いもの。私たちは村田さんの考えをどう日常に反映させていけばいいのだろうか。

「むずかしいことを考えなくても、おばあちゃんが作っていたようなひじきや切り干し大根の煮物を家庭で出してください。それを子供や孫が味わうことが食文化の継承につながっていくんです」

村田吉弘

村田吉弘

むらた よしひろ●’51年、京都府生まれ。『菊乃井』三代目主人。立命館大学在学中にフランス料理研究のため渡仏。帰国後、他店での修業を経て、’93年に父親の跡を継ぎ三代目主人に。現在は海外での日本料理普及活動や地域の食育活動、料理人の育成などに積極的に取り組む。’18年、黄綬褒章を受章。同年、文化功労者に選出された。
『ほんまに「おいしい」って何やろ?』

『ほんまに「おいしい」って何やろ?』

京都の老舗料亭の跡取りとして生まれた著者。一度はフランス料理のシェフを目ざしてパリに行くが、自分のなすべきことを認識して帰国。さまざまな苦労を経て「料理界のカリスマ」になった今、“食”のあり方や未来について熱く語る。集英社 ¥1,980

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