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【山本容子さん×谷川賢作さん特別対談】谷川俊太郎さんの魅力とは?〈前編〉
昨年11月に92歳でこの世を去った詩人の谷川俊太郎さん。銅版画家・山本容子さんと音楽家・谷川賢作さんが、谷川俊太郎さんが生まれ育った東京・杉並の家で、画家として・息子として、谷川俊太郎さんとの思い出を語る。
【山本容子さん×谷川賢作さん特別対談】谷川俊太郎さんのお人柄とその生涯〈後編〉
繰り返し読まないともったいない
編集部 2年前の配信動画で、谷川俊太郎さんは、創作のエネルギー源はアナーキーであること、とおっしゃっています。ご自身の性格をひねくれている、とか、斜に構えている、とも。
谷川 アナーキー!? そうですね、その傾向はあったかな。すごくわかりやすい例をひとつ。学校公演を、父と僕とでよくやっていたんです。すると、まあ柔らかく迎えてくれる学校と、そうじゃない学校があるんです。教育委員会の誰それ、みたいな四角張ったかたたちに仰々しくあいさつされるのが、彼は苦手だったんですよ。で、そういうときには子供たちの前でいきなり、〈がっこうがもえている/おんがくしつでぴあのがばくはつした〉って、『がっこう』という自分の詩を大きな声で朗読してぶちかます(笑)。僕は止めようとするんだけど、子供たちは大喜びで。
山本 茶目っ気というか、ユーモアでまぶした反骨精神よね。
谷川 自分が偉そうに扱われるのも苦手でしたね。それと関連するのかな、インタビューなんかで「メッセージは?」って質問されるの、嫌いでした。「この詩で何をいいたかったんですか?」って、よく質問されるのだけど、そういうときは必ず、「それは読者のあなたがたが読んだときに、あなたがた自身の中に芽生えるものだ」って、そのやりとりは何度も何度も聞いています。
山本 何を受け取るかは、読む人の状況によるし、年代にもよるし。だから同じ詩を読んで、誰かと誰かがまったく違うことを受け取っても、かまわないのよね。
谷川 いいんです!って、僕が断言するのも変ですけど(笑)。
山本 でも、1回読んでそれで終わり、じゃなくて、繰り返し読まないともったいないと思うの。
谷川 わかります。読むたびに、立ち上がってくるものが違うんですよね。
山本 時間軸だってぴゅーっと19世紀から21世紀まで飛んでみたり、モーツァルトがチェンバロを弾いていると思ったら突然オバアサンが出てきたり、男の子になったり、読んでいるとあちこち連れまわされて引きまわされる。で、結局戻ってくると、問題は愛だった、みたいな感じで。基本は現代詩ですからね、叫ばないけど(笑)。
雑多なものを漉すと、言葉は透明になっていく──容子さん

何かしてあげたいと思わせる人だった
編集部 谷川俊太郎さんは人生で3回結婚しています。私生活もまた、多彩でした。
山本 私が谷川俊太郎さんに最初にお目にかかったのは、私が40歳のとき。佐野洋子さんが私に銅版画を習いたいといって、当時の鎌倉のアトリエに来られたんです。そのときに車で彼女を送ってきたのが、谷川さん。
谷川 そんなことがあったんですね。佐野さんの銅版画と父の詩を合わせた詩集『女に』はそこから始まっていたんだ。で、俊太郎はどんな印象だったんですか。
山本 もうね、王子さまみたい(笑)。姿勢がいいしかわいらしいし、年齢なんて感じさせない人だし、食べるときもおいしそうに食べるし、はっきりものをいうし。詩人ってちょっと不可解なイメージがあるけど、全然そんなことなくて、すごくいい感じ。何かしてあげたい、かまってあげたいと思うタイプ。だからきっと、女性にもてたと思います。
谷川 なるほど、そういう要素が必要なんだな、男には(笑)。
山本 そういう公私ともに忙しい生活を送りながら、いったいどんなふうに詩を書いていらしたのかしら。
谷川 創作の現場に立ち合ったことはないんですが、いつも、こんなふうにいってました。地面から、来るって。言葉が天から降ってくるっていう人もいるけど、僕の場合は地面の中に言葉があって、それをぐうっとこう、吸い込むような感覚だって。
山本 谷川さんが亡くなったと聞いて私、最初に思ったのは、谷川さん、とうとう星に行っちゃったんだなって。星の王子さまの最後のシーン、あるじゃないですか。線が2本引いてあって、天と地だけの美しい風景。ああいうところに。
谷川 いやいや、そんなとこにいないよ!って、どこかでいってるんじゃないかな(笑)。
言葉は天から降ってくるのではなく、地面の中にあると──賢作さん


容子さんが大切に持っている、谷川俊太郎さんの処女詩集『二十億光年の孤独』(右)と“まるで俊太郎さんみたい”という『星の王子さま』(左)。俊太郎さんの絵本、全172作を網羅した図録『谷川俊太郎 絵本★百貨典』(中)。
現在、『谷川俊太郎 絵本★百貨展』も巡回中。
〜4/6 新潟県万代島美術館、4/19~6/8 いわき市立美術館、7/5~9/1 愛媛県美術館、10~12月 市立伊丹ミュージアムにて

’91年に発刊された、すべてひらがなで書かれた詩集『よしなしうた』。この詩集をもとに谷川賢作さんは作曲を開始。’19年、自らのバンドDiVaが新旧とりまぜた詩をもとにアルバム『よしなしうた』を発売した
詩人・谷川俊太郎の生涯

1931(昭和6) 0歳
哲学者の父・谷川徹三と母・多喜子の間にひとりっ子として生まれる
1948(昭和23) 17歳
詩作を始める
1952(昭和27) 21歳
第1詩集『二十億光年の孤独』を刊行
1954(昭和29) 23歳
詩人・岸田衿子と結婚(’56年に離婚)
1957(昭和32) 26歳
俳優・大久保知子と結婚
1960(昭和35) 29歳
長男・賢作誕生
1963(昭和38) 32歳
長女・志野誕生。
アニメ『鉄腕アトム』の作詞を手がける
1964(昭和39) 33歳
東京オリンピック開催、記録映画製作に脚本家として参加
1965(昭和40) 34歳
息子の名前をつけた『けんはへっちゃら』など子供の本を作りはじめる
1967(昭和42) 36歳
初めての訳書『あしながおじさん』を刊行。
以降、『ピーナッツ』(’67)、『スイミー』(’69)、『マザー・グースのうた』(’75)など
数多くの翻訳を手がける
1984(昭和59) 53歳
母・多喜子(87歳)が死去
1989(平成元) 58歳
父・徹三が死去(94歳)。
知子と離婚
1990(平成2) 59歳
絵本作家・佐野洋子と結婚
1991(平成3) 60歳
佐野洋子が挿絵を手がけた詩集『女に』を刊行
1996(平成8) 65歳
佐野洋子と離婚(’10年死去)。
このころから詩の創作を積極的に行わなくなる。
長男・賢作のバンドDiVaと朗読・演奏活動を開始
2003(平成15) 72歳
詩作を本格的に再開
2014(平成26) 83歳
息子と孫との共著『どこかの森のアリス』刊行
2024(令和6) 92歳
死去

銅版画家 山本容子

音楽家 谷川賢作
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