昨年末に発行50周年を迎えていた、絵本『花さき山』。
幼心に、この本の「黒」には大きな衝撃を受けました。初めに闇ありき。里の世界は白バックですが、山は真っ黒。命は闇に浮かぶ光のようなものだと視覚的に叩きこまれる気がします。しかも書き出しが藪から棒に、「おどろくんでない」。定番の「いつ・どこで・誰が」がないんだから、読むほうも聞くほうも驚かざるを得ません。でも、その入り方が子どもだましじゃない感じがして、すごく良かった。
肝心のお話のほうは、「辛抱」がカギになっています。人のために涙をためて辛抱して、やさしいことをすると、誰も知らぬ山奥できれいな花がひとつ咲く……。黒の世界は、この総論の象徴表現として実に美しく、ぽつりと一輪花咲く様子などは「利行」の芽生えとも映ります。
ただし、個人的には各論(例示される4つのエピソード)に羅列的な印象があって、そちらはどうも記憶の網をすり抜けてしまいます。人のための行いを正面から扱う点では人気作『モチモチの木』に分がありますし(豆太がかわいい)、作中で触れられる海山のエピソードについても、独立した絵本『八郎』と『三コ』でしっかり味わう方がいいでしょう。
それでもなお私にとって『花さき山』が魅力的であり続けるのは、言葉を超えた「絵」の凄みを初めて感じたのが、あの黒の世界だったからだと思います。そしてまた後には、『八郎』を通して、広がりを持つ白の豊かさを教えてもらいました。
5/16で滝平二郎さんがお亡くなりになって11年。その絵の力は、今も偉大です。
(編集B)