マスカット・ベーリーAの魅力を再発見! 和食に合わせたい“なごみ系日本品種”【飲むんだったら、イケてるワイン/WEB特別篇】

「マスカット・ベーリーAって、こんな魅力的な品種だったの?」と気づかされたのが「岩の原葡萄園創業130周年記念トークライブ」。和食にぴったりのおいしさの秘密を、日本固有品種が育まれた秘話とともにご紹介!
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岩の原葡萄園マスカット・ベーリーAの畑
会議や飲み会など、”すべてオンライン”の昨今。5月末に「岩の原葡萄園創業130周年記念トークライブ」があり、”出席”してみた。これは、日本ワインのトップクラスの「岩の原葡萄園」、「サントリー登美の丘ワイナリー」、「サントリー塩尻ワイナリー」の造り手が登壇し、「マスカット・ベーリーA」の魅力を語るというもの。それぞれのワイナリーが手がけるマスカット・ベーリーAを試飲しながら視聴するという贅沢な試みだった。驚かされたのはその進化で、「マスカット・ベーリーAって、こんなおいしくなっているの?」と感動! マスカット・ベーリーAは「甲州」同様、日本の固有品種でありながら、脚光を浴びるのは常に甲州で、その存在感は決して大きいとは言えなかった。それが、とてもエレガントになっていたのだ。
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左上/登美の丘ワイナリー栽培技師長 大山弘平さん 右上/サントリー塩尻ワイナリー所長 篠田健太郎さん 左下/岩の原葡萄園造り手 上野翔さん 右下/岩の原葡萄園 進行役 今井圭介さん

マスカット・ベーリーAは、1927年(昭和2年)年に「岩の原葡萄園」で誕生した。“日本ワインぶどうの父”と称される川上善兵衛氏のたゆまぬ努力の賜物だった。「岩の原葡萄園」は、1890年(明治23年)に川上氏が「日本でも素晴らしいワインを造る」という高い志のもと、新潟県上越市に設立された。実は、この誕生の裏にはある逸話が隠されている。
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「岩の原新品種」の記録。マスカット・ベーリーAを生み出すために実験を重ねた当時の苦労が偲ばれる。

川上氏は1868(明治元年)に頸城郡北方村(現上越市北方)の大地主・川上家の6代目として生まれた。彼はとても進歩的な人物で、1882年(明治14年)頃に川上家とつながりがあった勝海舟と交流、ともに“舶来の葡萄酒”を飲み、そこでブドウ栽培とワイン造りの情報を得たという。ワイナリーの設立後、彼は遺伝学を誕生させるきっかけとなったメンデルの法則を利用して、1922年(大正11年)に品種完了を開始したが、その道のりは決して平坦なものではなかった。創業してから30年間、欧米系ブドウを栽培していたが、どれも川上氏が理想とするものではなかった。彼は、日本の風土に合う品種が必要と考え、樹勢が強い米国種と香りと味に優れた欧州種を交配させて品種改良を続けた。その回数は生涯10,311回にも及んだという。そして誕生したのがマスカット・ベーリーAだ。イチゴや綿菓子の香り、森のシダや夏の宵を思わせるような湿っぽさがあり、これがいかにも“日本らしさ”を感じさせるのだ。また、ここで忘れてはならないのが壽屋(現サントリーホールディングス)の鳥井信治郎氏の存在だ。川上氏は、さらなるワインの造りの発展を目指して鳥井氏とタッグを組み、1934年(昭和9年)、ともに株式会社岩の原葡萄園をスタートさせたのだった。
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「岩の原葡萄園」はワイナリー・ビジットも可能。地元食材を使った料理が楽しめるレストランや「川上善兵衛記念館」も併設している。

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昔ながらの棚仕立てでマスカット・ベーリーAを育てている。

以来、岩の原葡萄園は、1909(明治42年)年に山梨県甲斐市に創業した登美農園(後にサントリーが経営継承、現在の登美の丘ワイナリー)、1936年(昭和11年)、長野県塩尻に設立された塩尻ワイナリーとともに、日本の風土を反映した数々の素晴らしいワインを生み出し、日本のワイン造りを牽引していった。とはいえ、“日本ワイン”の発展は順風満帆とは行かなかった。第一次、そして第二次世界大戦の勃発が、日本ワインの発展を妨げたのだ。それだけではない。90年代に第三次ワインブームが到来し、バブル経済と相まって、ワイン愛好家は著しく増加したが、注目されたのはフランスワインをはじめとする外国のワインばかりで、日本ワインの人気は影を潜めていた。だが、「待てば海路の日和あり」。ようやく21世紀を迎えた頃、日本ワインブームの兆しが見え始めたのだった。成熟したワイン愛好家たちが、“足元にある宝物”にようやく気づいた瞬間だった。
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明治27年に建てられた第一号石蔵は、現存する日本最古のワイン蔵。国の登録有形文化財に指定されている。

マスカット・ベーリーAは、香りを書いただけで和食が食べたくなる、いわば“和食のためのワイン”といっても過言ではない。魚の煮つけなど、赤ワインとは一見合わなさそうな料理でも、きちんと包み込んでくれるのだ。優しい果実味とその奥にある陰影は、どこか竹久夢二が描く美人画のようでもある。
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この日のセミナーでは、各ワイナリーから1本ずつ試飲したが、それぞれ、個性豊かな味わいに驚かされた。「岩の原葡萄園 有機栽培ブドウ マスカット・ベーリーA 2017」は端正で繊細さが際立ち、「塩尻ワイナリー 塩尻マスカット・ベーリーA 2017」は軽やかな塩味が多くの料理に合うことを予感させた。ひと味違ったのがブラック・クイーンをブレンドした「登美の丘ワイナリー ブラック・クイーン&マスカット・ベーリーA 2018」で、こちらはキレのある酸味が特徴。中華などの甘酢を使った料理にも寄り添ってくれそうだ。ピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨンのような華やかさはないが、やわらかな果実味が心を和ませてくれる。時には、マスカット・ベーリーAで和食を楽しめば、どこか懐かしい、ほっこりとした空気に包まれそうな気がする。
「岩の原葡萄園 有機栽培ブドウ マスカット・ベーリーA 2017」

「岩の原葡萄園 有機栽培ブドウ マスカット・ベーリーA 2017」

マスカット・ベーリーA100パーセント。有機栽培のマスカット・ベーリーAの果実に付着した自生酵母のみで発酵。チェリーの香りと樽熟成由来の穏やかなタンニン。750ml(参考価格) ¥4,500

「塩尻ワイナリー 塩尻マスカット・ベーリーA 2017」

「塩尻ワイナリー 塩尻マスカット・ベーリーA 2017」

マスカット・ベーリーA100パーセント。標高700メートルの畑で育てられ、ピュアな酸味。イチゴの香りの奥にスパイスやハーブのニュアンス。ミネラル由来の塩味も特徴。750ml(参考価格) ¥2,760

「登美の丘ワイナリー ブラック・クイーン&マスカット・ベーリーA 2018」

「登美の丘ワイナリー ブラック・クイーン&マスカット・ベーリーA 2018」

ブラック・クイーン57パーセント、マスカット・ベーリーA43パーセント。ブラムやアメリカンチェリーの香り。果実味がやわらかく、余韻も心地よい。750ml (参考価格)¥4,000

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取材・文/安齋喜美子
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