【夏の文芸エクラ大賞】詩人・伊藤比呂美さんが選ぶ「今だから読んでおきたい本」

不安が多いコロナ禍だからこそ知っておきたいことをテーマに、おすすめの本を詩人・伊藤比呂美さんにリモート取材! 外出自粛中の読書エピソードも聞いてみた。
伊藤比呂美さん

伊藤比呂美さん

いとう ひろみ●’55年、東京都生まれ。詩人。早稲田大学客員教授。『良いおっぱい悪いおっぱい』から始まる女性の人生に寄り添うエッセイ、古典の現代語訳など多数執筆。

女性に「生命力」を与えてくれる本

女の人生の実感を詩やエッセイに書いてきた伊藤さんが選んでくれたのは、昨年の文芸エクラ大賞受賞作『たそがれてゆく子さん』に描かれていた子育て終了、パートナーとの死別、植物への思いなどが反映されたような本たち。アメリカから帰国し、大学で教えている伊藤さんの現在もかいま見えて。

『雑草のくらし』 甲斐信枝 福音館書店 ¥2,300

『雑草のくらし』

甲斐信枝

福音館書店 ¥2,300

多種多彩な雑草がひとつの空き地で暮らした5年間を観察した絵本。雑草だけでなくそれに寄ってくる昆虫たちの姿も詳細に描かれていて目を見張る。「植物は動物よりずっと獰どう猛もうだった……」。

『石垣りん詩集』 伊藤比呂美/編 岩波文庫 ¥740

『石垣りん詩集』

伊藤比呂美/編

岩波文庫 ¥740

「こういう先輩のあとに自分が続いたのだなと考えた」。複雑な家庭に育ち、14歳から定年まで銀行に勤務。ひとりで家族を支え続けた女性詩人による、生活に根ざした力強い詩。教科書への収録も多い。

『中原中也全詩集』 中原中也  角川ソフィア文庫 ¥1,360

『中原中也全詩集』

中原中也

角川ソフィア文庫 ¥1,360

「(大学は)オンライン授業だから、わかりやすいものにしようと考えて中原中也から始めることにしました。改めて読み返し、改めて揺さぶられました」。夭折した天才詩人が描く喪失と孤独。

『樹木たちの知られざる生活』 ペーター・ヴォールレーベン  長谷川圭/訳 ハヤカワ・ ノンフィクション文庫 ¥700

『樹木たちの知られざる生活』

ペーター・ヴォールレーベン 

長谷川圭/訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 ¥700

子供を教育する、コミュニケーションを交わすなど、樹木の驚くべき能力について森林管理官がつづった、ドイツ発のネイチャーノンフィクション。「植物は人間みたいに生きていた……」。

『新訂 梁塵秘抄』 佐佐木信綱/校訂 ワイド版岩波文庫 ¥1,100

『新訂 梁塵秘抄』

佐佐木信綱/校訂

ワイド版岩波文庫 ¥1,100

「昔の人の心のひだひだが伝わってくるんです」。平安末期の歌謡集で、遊女たちが口ずさんだ流行歌「今様」を後白河法皇が編んだもの。「遊びをせんとや生まれけむ……」の歌が有名。

 

伊藤さんに聞いてみました!

Q.外出自粛中に読んだ本は?

『夜と霧』。コロナの前に熊本の橙書店で新版をすすめられ、手にとって読みはじめたらやめられなくなり、買って読んだ(旧版は昔に読んでいた)。それは大学の研究室に置いて学生にすすめているうちにコロナで大学が立ち入り禁止になって、そのまま研究室にある。なんだかまた読みたくなって、橙書店に行ってまた買った。そのころ、橙書店は時短営業で、窓をすべて開け放って、私が行ったときは店主ひとりで、戦時中の闇屋とはこんな感じかと思った。店主は、取り置きしてもらっていた『夜と霧』をカウンターの下から出してきた。私はコーヒーを注文した。それも闇なのである。「特別に取り寄せているいい豆をふんだんに使って」(店主の言)ていねいにいれた一杯のコーヒーは、本当にうまかった。ずっと飲んでいなかった、こんなにうまいものを。

 

コロナの間、人も会わずに暮らした。ふだんから人に会わなくてすめば会いたくないという生活をしているから、別に苦じゃなかったが、そのとき、人(の中でも信頼する友人)から手渡された闇本一冊。人のいれてくれた熱い闇コーヒー。人と交わした闇会話。コロナごもりの五臓六腑に、それらが、なみなみと、そしていきいきとしみわたったのだった。

伊藤さんの最新刊!

『道行きや』 伊藤比呂美  新潮社 ¥1,800

『道行きや』

伊藤比呂美

新潮社 ¥1,800

介護のためのアメリカと日本の行き来も、子育ても終了。夫を看取ったあと、去年約20年ぶりに帰国した伊藤さんが、新たな日常を書きつづった一冊。

 

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