“芸術”を表現するワイナリー 「カステッロ・ディ・アマ」 その美しい味の秘密とは?【飲むんだったら、イケてるワイン/WEB特別篇】
“キャンティ・クラシコ”が進化している。数あるワイナリーの中でも”頂点”と評されるのが「カステッロ・ディ・アマ」だ。オーナーがワインに対するその思いを、美しい景観をバックにオンラインで届けてくれた。
8月末、イタリア・トスカーナより爽やかな“ブドウ畑の便り”が届いた。キャンティ・クラシコの名門「カステッロ・ディ・アマ」のオーナー兼醸造家のマルコ・パランティ氏によるオンライン・セミナーが開かれたのだ。“キャンティ・クラシコの神髄”とも称される造り手とあって、参加者はごく限られた雑誌やジャーナリストのみ。O編集長とともに、その素敵なセミナーに参加した。
「やあ、皆さん、お元気ですか?」と画面の中からパランティ氏が微笑む。聞けば、例年は来日している時期というのに、新型コロナウイルスの影響で今年は来日が叶わなかったという。「日本が大好きなだけに、とても残念です。そのかわり、今日は、畑を案内します」とパランティ氏。彼の後ろに広がる「ベラヴィスタ」と名づけられた畑の緑に、画面を通じて心を癒される。ブドウは、少しずつ成長しているそうだ。
実は、今、イタリアワインの世界では、キャンティ・クラシコが新たな注目を浴びている。キャンティ・クラシコとはイタリア・トスカーナ地方で造られるサンジョベーゼ主体の赤ワインのことで、“キャンティの魂”と言われる土地ガイオーレ・イン・キャンティでは、2400年前からワイン造りがなされてきた。19世紀には世界的にも有名になったが、量産を重んじたばかりに質への転換が遅れ、評価が落ちてしまった時期があった。そんな中、質を重んじる生産者がここ20年ほどの間に続々登場し、その洗練された味わいで、“モダン・キャンティ”と評されるようになったのだ。
「カステッロ・ディ・アマ」もその造り手のひとつで、キャンティ・クラシコが「早く飲める安ワイン」という存在だった時代に、「熟成させてもおいしいキャンティを造る」という目標を掲げて、新たな取り組みを始めたのだった。それが、畑の特徴を生かしたブドウを育てるために、「クリュ(畑・区画)」ごとに収穫・醸造を行うことだった。パランティ氏が目指したのは、ブルゴーニュ的な“テロワールの表現”だった。
「カステッロ・ディ・アマ」はキャンティで最も高い標高500メートルに位置し、昼夜の気温差も大きい。土壌は石灰石や砂利の多い粘土質で、ミネラル豊かで美しい酸を持つブドウが育つという。
「私は、この土地を表現したワインを造りたかった。テロワールがそのままグラスに入っているようなワインをね」と、パランティ氏は微笑む。
「私は、この土地を表現したワインを造りたかった。テロワールがそのままグラスに入っているようなワインをね」と、パランティ氏は微笑む。
その言葉を表すワインが「カステッロ・ディ・アマ サン・ロレンツォ キャンティ・クラシコ・グラン・セレツィオーネ2015」だ。権威あるワイン専門誌『ワイン・アドヴォケイト』において95点を獲得するなど、高い評価を得ている。フレッシュ感が残る豊かな果実味の中に力強いミネラルとピュアな酸味が溶け込み、エレガントな味わいだ。
また、特筆すべきは、ワイナリーのあちらこちらに著名なアーティストたちの作品が展示されていることだろう。アート作品が展示されているワイナリーは多いが、「カステッロ・ディ・アマ」では、最初にアーティストをこの地に招いて滞在してもらい、パランティ氏とともにワインを飲み、土地の料理を食べてから、ようやく制作に取りかかってもらうことにしているのだという。
「つまり、ここにあるアートは、テロワールの表現のひとつと言ってもいい。どこからか買ってきた作品ではないよ(笑)。ワインと同じ、この土地が生み出したものなんだ」とパランティ氏。シェン・ゼンのクリスタルアート「体の中の光」、ルイーズ・ブルジョワの「トピアリー」、杉本博司の「ゼロの告白」、ケンデル・ギアーズの「Revolution/Love」など、前衛的なアートが、伝統的造りのヴィラのなかで独特の空気感を放っている。極めつけは、畑に造られたダニエル・ビュランの「ブドウ畑:視点」だろうか。窓越しに「べラヴィスタ」と名づけられた畑が見え、まるで一枚の絵のよう。そこに腰をかけてゆったりとグラスを傾けるパランティ氏からは、この土地を心から愛していることが伝わってくる。
どこかクラシカルな印象が強かったキャンティ・クラシコだが、「カステッロ・ディ・アマ」を飲めば、きっとその印象は変わるはず。画面の美しい風景を見ながら、進化し続けるワインに感動していると、パランティ氏はこう言った。「COVID-19が落ち着いたら、すぐにでも日本に行きたいと思っている(笑)。私も、皆さんのことをトスカーナで待っているよ」。
最後に、とっておきの情報を。「カステッロ・ディ・アマ」には郷土料理のレストランと小さな宿泊施設があり、一般ビジターも訪問可能。ワイン好きなら、また海外へ安心していけるようになった頃、旅のデスティネーションとしてメモしておくのもいいかもしれない。
問い合わせ:エノテカ 0120-81-3634(フリーダイヤル)
取材・文/安齋喜美子
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