『5時から7時の恋人カンケイ』×「ジャン ポール エ ブノワ ドロワン」 /初めての恋愛のように強烈な印象を残す ピュアで清らかなシャブリ【シネマに乾杯!vol.3】

ワインを知ると映画はもっと楽しい!エクラでもおなじみのワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が映画の中に登場するワインやシャンパーニュを解説!第3回目は映画『5時から7時の恋人カンケイ』をご紹介!
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 描かれているのは不倫の愛。いや、違う。悲しいほどに純粋な愛の物語だ。原題は『5 to 7』。人の行方がはっきりしなくなる時間のことで、フランス語では不倫関係を意味するという。
 作家志望の24歳のブライアンは、ある日、街角でタバコをくゆらす美しい女性アリエルに出会い、一目で恋に落ちる。言葉を交わし、彼女が33歳のフランス人であることを知り、会える時間を聞くと、「平日なら5時から7時まで」。アメリカ人の彼にはその言葉の意味がわからない。だが、この時すでにふたりの恋は始まっていた。
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 初めてのデートで、アリエルは彼に話すのだ。外交官と結婚していること、子どもがふたりいること、夫には自分も公認している恋人がいること……。ブライアンはショックを受けるが、彼女はとても自然にこう語る。「私の文化では非難されないわ」と。真面目なユダヤ教徒でもあるブライアンは、文化の違いや道徳観の相違に戸惑いつつも、ますますアリエルに惹かれていく。
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 映画館や公園など、ふたりは普通の恋人同士のようにデートを重ねるが、印象的なのがワインショップでのテイスティングだ。アリエルは白ワインと赤ワインを用意し、ブライアンに目隠しをさせて白ワインのグラスを差し出す。そして、「白? 赤?」と訊ねのだが、ワインを知らないブライアンは「赤ワイン」と答え、アリエルを驚かせる。次のシーンでは、今度はアリエルがビールのテイスティングをするのだが、互いにとっての身近な飲み物を知ろうとするふたりの姿は、純真さに満ちて微笑ましい。
 このシーンで登場する白ワインが、フランス・ブルゴーニュのシャブリだ。すっきりした辛口で、柑橘の爽やかな香りと厚みのあるミネラルが特徴。造り手は「ジャン ポール エ ブノワ ドロワン」で、トップクラスのシャブリの生産者として名高い。映画の中で、このワインを選んだのが誰なのかは描かれていないが、おそらくはアリエルだろう。外交官の妻である彼女にとって、自国の“質のよいシャブリ”はニューヨークでの生活においてはなくてはならないものだったに違いない。
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 映画には彼女が飲み物を飲むシーンがいくつか登場するが、彼女が選んでいるのはシャンパーニュとワイン。外交官の妻であればきっとパーティーも多く、銘醸ワインも知っているはず。シャブリには「シャブリ グラン・クリュ(特級畑)」、「シャブリ プルミエ・クリュ(一級畑)」といった等級があるが、映画に登場するのは3番目にランクされる「シャブリ」で、日常的に楽しめる等級のもの。とはいえ、カジュアルラインでもトップ生産者のものを選ぶところにアリエルのセンスの良さが窺える。
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 だが、“5時から7時”の関係は、ある日突然終わりを迎える。ブライアンが本気で彼女を愛してしまったから。彼女は、彼に一通の手紙を残し、去っていくのだ。

 ラストシーンで、数年後、ふたりは偶然再会する。ブライアンは小説家になり、妻と子どももいた。このシーンが穏やかで悲しく、そして美しい。ここはあえて書かないでおこう。アリエルの思いが、このシーンに凝縮されているからだ。
 初めての本気の恋愛は、痛みを伴う優しい記憶となって深く心に刻まれる。同じように、大好きな人と一緒に飲んだワインは、たとえ銘柄は忘れてしまっても、その香りや味わいもまた、心に長く残る。ブライアンにとっての「ジャン ポール エ ブノワ ドロワン」のシャブリも、またそうだったに違いない。
 恋愛の記憶とシャブリのピュアな余韻。まったく別のものであるのに、どこか似ているように思えるのはなぜなのだろう。もしかしたらそれは、記憶と余韻の奥には確実に幸福な時間があるからなのかもしれない。
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© 2014 5 TO 7 PRODUCTIONS, INC.

『5時から7時の恋人カンケイ』

DVD ¥4,000(税抜)
発売元/アット エンタテインメント
販売元/アメイジングD.C.
ジャン ポール エブノワ ドロワン シャブリ

ジャン ポール エ ブノワ ドロワン シャブリ

フランス・ブルゴーニュ地方シャブリ地区。シャルドネ100%。1620年に歴史を遡る老舗。現在は14代目のブノワ・ドロワン氏がテロワールを生かしたワイン造りを行う。香りは、フローラルながらチョークのようなニュアンスも。ミネラル豊かで酸味もフレッシュ感に満ちている。牡蠣やカルパッチョ、サラダと相性抜群。750ml \4,000
■「ジャン ポール エ ブノワ ドロワン シャブリ」のお問い合わせ先/稲葉(ショールーム)TEL052-741-4702
取材・文/安齋喜美子
ワイン&フードジャーナリスト。女性誌を中心に多くの媒体で執筆。ふだんごはんからスイーツ、星つきレストランまで幅広くカバー。映画が大好きで、登場するワインは必ずチェック。最近は海外の醸造家とオンラインでワインテイスティングの日々。

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