地元愛と誇りを感じる“貴族のワイン”は イタリアワインの素敵なエントランス【飲むんだったら、イケてるワイン/WEB特別篇】

イタリアワインの世界で今も活躍を続けているのが「貴族」。歴史と誇り、郷土愛が感じられるのが特徴だ。その深い魅力をご紹介。

イタリア好きなら親しみやすい“貴族のワイン”

「イタリアワインは大好きだけど、何を選べばいいのかわからない」という人は多いのではないだろうか。もし、イタリアの美術や歴史が好きな人なら、”イタリア貴族のワイン”から始めてみてはいかがだろうか。
かつては“領主”として代々の土地を守り続けてきた貴族のファミリーは、現在ではその地に生きる人々とともに土地の個性が生きた素晴らしいワインを生み出している。

先日、初めて飲んで、”お気に入り”になったのが「バロン・ロンゴ サントシュタイン ロゼ」。ベリーの香りとしっかりしつつも優しいミネラル感が魅力的だ。印象的なのが天使のフレスコ画が施されたラベルがイタリアらしさを語り、コロナ下で渡航が難しい今、ほんの一瞬ながらも”イタリアの美術館にいる気分”を味わわせてくれた。感動したのがラベルに点字が施されていることで、視覚障害者でもでもそのワインが何であるのかすぐにわかるよう工夫されている。「多くの人々にワインを楽しんで欲しい」という造り手の思いが伝わってくる。
バロン・ロンゴ サントシュタイン ロゼ 2019

■バロン・ロンゴ サントシュタイン ロゼ 2019

トレンティーノ・アルト・アディジェ州。メルロ100%。チェリーやイチゴ、フランボワーズの香り。フレッシュで生き生きとした酸味とスタイリッシュな果実味。すっきりとした辛口で、魚介類や肉料理、フルーツを使ったデザートなどオールマイティ。750ml ¥3,300 (問)ドリームスタジオ ☏03-3478-0192

「バロン・ロンゴ」はイタリア北部トレンティーノ・アルト・アディジェ州にあるワイナリーで、オーストリアに近いこの地はチロル地方とも呼ばれている。「バロン」の名称からわかるように男爵の家柄で、一族の物語は、当主のヨハネス・ドミニク・ロンゴが1656年にオーストリア大公フェルナンド・カールによってチロルの貴族に遇せられたことから始まった。ファミリーは長年ワイン造りに従事し、オーストリアへワインを輸出していたという記録も残っている。その後、第一次世界大戦によってワイン造りが困難となり、一族は一時この地を離れたが、およそ100年の時を経て彼らの子孫がこの地に戻り、ワイナリーを再建した。現在は、まだ30代の若き当主アントン・ロンゴ男爵がエレガントでピュアな味わいのワインを生み出している。2017年からはビオロジック栽培を取り入れるなど、真摯にワインと向き合っている。

“願い”は「みんなが幸せであること」

イタリアは、階級制度が今も根強く残る国で、「バロン・ロンゴ」だけでなく、”貴族が造るワイン”は多い。だが、それはかつてのような特権階級のためのワインではなく、”誰からも愛される味わいのワイン”が多いのが特徴だ。ワイン評論家に評価が高い有名銘柄から、イタリアの在来品種の魅力が際立つチャーミングなものまで、実にバラエティ豊か。
イタリア貴族がワインを造るのは、彼らが昔からブドウ畑を所有していたことが大きな理由として挙げられるが、それだけでなく、貴族が常に信条としている「ノブリス・オブリージュ」の精神がワイン造りに生きていることも挙げられるだろう。ある貴族の末裔によれば、「貴族とは自らの権利よりも義務を重んじなければならない」と言う。たとえば、リンゴがひとつあれば、それはまず、領民に与えられるべきという認識なのだという。
サッシカイア 2017

■サッシカイア 2017

トスカーナ地方。カベルネ・ソーヴィニヨン主体にカベルネ・フランをブレンド。野イチゴやプラムの熟した果実感とバラやハーブの香り。清らかな酸味としなやかなミネラル感が印象的。ボリューミーでリッチな印象。750ml ¥27,500 (問)エノテカ ☏0120-81-3634(フリーダイヤル)

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トスカーナ・ボルゲリにある「サッシカイア」のカンティーナ(ワイナリー)。
取材を通じ、貴族のファミリーに会う機会も多かったが、その中で印象的だったのが「サッシカイア」のオーナー・ファミリーのプリシラ・インチーザ・デッラ・ロケッタさんと「プラネタ」の元オーナーの故ディエゴ・プラネタ氏だ。プリシラさんはインチーザ侯爵家の令嬢で、とても知的でチャーミングな人柄。ワイナリーでは広報活動を一手に担っている。自らが母親であることから、「今後は、ワイナリーの敷地内に小さな託児所を設立することを予定しています」と話してくれた。子どもを持つ女性スタッフが仕事をやめることなく、安心して育児をしてほしいという思いからだ。
また、プラネタ氏は、シチリアの男爵家の出身で、かつては「貧しい」と評されていたシチリアに、自らのワイナリーを建設することで多くの雇用を生み出し、シチリアの経済的発展に寄与した人物。亡くなった今も、地元の人々から尊敬を受けている。長男ではないため爵位こそないが、その精神はまさしく”ノブリス・オブリージュ”。(爵位は長子にのみ継承される。) 事実、プラネタ社は大きく発展し、特にシャルドネは世界的評価が高い。
プラネタ シャルドネ 2018

■プラネタ シャルドネ 2018

シチリア島。シャルドネ100%。アプリコットや黄桃、バニラの香り。オレンジの花やハチミツのニュアンスも。リッチな果実味としなやかな酸味。魚介類だけでなく、鶏や豚肉などにも寄り添えるボリューム感を持つ。750ml ¥7,150 (問)日欧商事 ☏0120-200105(フリーダイヤル)

歴史を動かした名家のワインも存在

中世へのロマンを掻き立ててくれるのがヴェネト州ヴァローナ近郊にある「セレーゴ・アリギエーリ」だ。『神曲』で知られるダンテ・アリギエーリの子孫であるセレーゴ・アレギェーリ伯爵家が陰干しブドウで造る芳醇な赤ワイン「アマローネ」を始め、素晴らしいワインを生み出している。
また、現在のイタリアワインを牽引する大手が、ルネサンスの支援者だったフレスコバルディ侯爵家。英国王室とも深い関りを持ち、14世紀、イングランド王エドワード1世と後継者となったヘンリー8世は、イギリスにワインを供給してくれるよう、フレスコバルディ家と契約を結んでいたという。フレスコバルディ家は現在も多くのワイナリーを所有し、イタリアワインの世界を牽引している。
余談だが、興味深いのがフレスコバルディ家とアリギエーリ家の関係で、かつてダンテがフィレンツェを追放された時、ダンテの家で『神曲』の草稿を見つけ、ダンテに届けたのは親友であったディーノ・フレスコバルディだったという。
セレーゴ・アリギエーリ “ヴァイオ・アルマロン” アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ

■セレーゴ・アリギエーリ “ヴァイオ・アルマロン” アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ

ヴェネト州。在来品種のコルヴィーナを主体にロンディネッラ、モリナーラをブレンド。陰干しブドウを使用して造られ、大人っぽい甘苦さが魅惑的。チェリーのジャムや洋酒漬け、シナモンのニュアンス。重厚ながらもエレガントな味わい。750ml ¥14,300 (問)日欧商事 ☏0120-200105(フリーダイヤル)

イタリアワインの名声を高めた”スーパー・タスカン”

90年代の”スーパー・タスカン(スーパー・トスカーナ)”のムーブメントは、イタリアワインにとっての”ルネサンス”と言ってもいいだろう。代表するワインは、前出の「サッシカイア」、「オルネッライア」、「ルーチェ」などが有名。実は、この「オルネッライア」と「ルーチェ」のオーナーはフレスコバルディ侯爵家。「オルネッライア」も「ルーチェ」もマルケージ・フレスコバルディ・グループのワイナリーなのだ。ちなみに、「ルーチェ」は、当初カリフォルニアの「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」とのコラボレーションとして誕生したものだった(現在はフレスコバルディ家のみの生産)。
“スーパー・タスカン”は、カベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたボルドースタイルのワインとして誕生、ボルドーほど熟成を待たずに素晴らしい味わいが楽しめることから世界的にブレイクしたが、ここには「新しいスタイルのイタリアワインを造りたい」という生産者たちの思いも込められていた。伝統を守り続ける貴族が、このような革新的なワインを生み出しことも、常に新しいモードを生み出してきたイタリアらしい。
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この地の歴史を今に伝えるフレスコバルディ社の壮麗なカステッロ(お城)。
オルネッライア 2018

■オルネッライア 2018

トスカーナ地方。カベルネ・ソーヴィニヨン主体にメルロをブレンド。カシスやブラックベリー、黒胡椒の香り。芳醇な果実味とエレガントな酸味。タンニンはなめらかでありながらも厚みがあり、長期熟成向き。750ml ¥37,400(問)日本リカー ☏03-5643-9770

ルーチェ 2017

■ルーチェ 2017

トスカーナ地方。メルロ、サンジョヴェーゼ各50%ブレンド。凝縮した濃いルビーレッドで、ブラックベリーやスミレの香りとお香のニュアンス。ボトルは1993年のファーストヴィンテージから25周年を記念した特別なもの。750ml ¥22,000 (問)日本リカー ☏03-5643-9770

地方色豊かなワインで”ロマンを楽しむ”

貴族が造るワインと聞くと高価なものが多そうなイメージだが、実際はそうではない。カジュアルに楽しめるものも多く、しかも、上質な造りのものが多い。その筆頭がシチリアのアルメリータ伯爵家が造る「タスカ・ダルメリータ ロッソ・デル・コンテ」。イタリアの在来品種の魅力がチャーミングに表現されている。トレンティーノ州のボッシ・フェドリゴッティ伯爵家の「フォリヤゲ」も魅力的。芳醇で端正、誰からも愛される味わいだ。
タスカ・ダルメリータ ロッソ・デル・コンテ

■タスカ・ダルメリータ ロッソ・デル・コンテ

シチリア自治州。在来品種のネロ・ダーヴォラとペッリコーネをブレンド。プルーンなどの豊かな果実感。深くスパイシーな味わいなので、魚介なら脂ののった魚や羊肉などに。ハーブやスパイスの香りも感じられる。750ml ¥9,163 (問)アサヒビール ☏0120-011-121(お客様相談室) 

ボッシ・フェドリゴッティ フォヤネゲ

■ボッシ・フェドリゴッティ フォヤネゲ

トレンティーノ・アルト・アディジェ州。メルロ45%、カベルネ・フラン40%、テロルデゴ15%。「フォヤネゲ」は畑のある地区の名前。ブルーベリーとラズベリー、バニラの香り。ソフトで広がりのあるタンニンが魅惑的。750ml ¥4,950 (問)日欧商事 ☏0120-200105(フリーダイヤル)

今回紹介したワインは、各ワイナリーのフラッグシップのものが多いが、ワイナリーによっては高価なものだけでなく、カジュアルに楽しめる価格のものもラインナップしている。ぜひ、用途にあったワインを探してみてほしい。
イタリアの貴族ワインは、それぞれのファミリーの誇りと地元への愛情が感じられるのが大きな魅力。土地ごとの品種を大切にしているのもイタリアらしい。歴史好きなら、ルネサンス時代に想いを馳せつつ、飲んでみるのもきっと楽しい。時には、塩野七生さんの本を傍らに”インナー・タイムトラベル”もおすすめ。ワインを通じての中世への旅は、きっとロマンティックだ。
取材・文/安齋喜美子
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