4人姉妹のお話といえば、思い出すのはオルコット『若草物語』、谷崎潤一郎『細雪』? 藤谷治『睦家四姉妹図』も表題どおり4人姉妹のお話だ。
物語は昭和末期の1988(昭和63)年1月2日から始まる。その日は母・八重子の50歳の誕生日。1月2日には一家6人が集まって、家族写真を撮ることになっていた。
この年、長女の貞子は24歳の会社員。スポーツジムでインストラクターをしている次女の夏子は22歳。編み針の会社に勤める三女の陽子は20歳。四女の恵美里は13歳の中学生だった。そして物語はこの年から2020(令和2)年まで、30年以上におよぶ1月2日の睦家の動向をとびとびに追うのである。いいかえると、これはとある一家の平成史ってことになる。
これほどのロングスパンで、ひとつの家を定点観察する。それがこの小説の最大の企み。『若草物語』はたった1年、『細雪』もほんの数年の物語ですからね。
’88年の睦家の話題は次女の夏子が結婚相手を家に連れてきたことだった。だが’92(平成4)年になると、夏子は別の人と結婚している。前の人とはどうやら破局したらしい。’96(平成8)年、30歳の夏子はふたりの子供の母になっていたが、2008(平成20)年には離婚して睦姓に戻っていた。
というように、32年の間には、いろいろあり、最初は6人だった家族写真は娘たちの夫や子供たちを含めて最大15人にまで膨れ上がる。八重子が70歳になった’08年、昭は上機嫌でいった。
〈お父さんの友だちがさ、昔言ってきたんだよ。娘ばっかり四人いて、みんな嫁に行ったら、寂しくてしょうがないだろうって。あいつに見せてやりたいよ、今日のこの、我が家の騒乱状態を〉
が、その後はまた孫たちが巣立つなどして、徐々に人数が減っていくのである。この少子化時代、6人の孫に恵まれた睦家は相当繁栄しているほうですけどね。
特に大きな事件が起きるわけではないものの、人んちの変化はやっぱりおもしろい。仕事ができて適当な恋愛を楽しんでいた長女の貞子は事実婚に近い相手を見つけて落ち着き、目の覚めるような美少女でアイドルを目ざしているんじゃないかと思われた四女の恵美里も、専門学校で挫折したあと、徐々に平凡な道に向かう。
土地転がし、地下鉄サリン事件、米国同時多発テロ、東日本大震災など、激動の平成を彩る幾多の事件を織り込みながら進む物語。いやでも「あのころの自分は……」と思い出すはずだ。
最終章は睦八重子の82歳の誕生日、コロナ禍が世界を襲う直前である。睦夫妻にはすでに曾孫もいる。平成の30年は短いようでやはり長かったのだ。さて、この年の家族写真の人数は?