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人生のセカンドステージを迎える夫婦と家族の物語『百合中毒』【斎藤美奈子のオトナの文藝部】
アラフィー女性に読んでほしい、文芸評論家・斎藤美奈子さんのおすすめ本。今回は、井上荒野『百合中毒』をご紹介。複雑な人間関係や秘密を抱えた男女7人の視点から、家族とは何か、愛とは何かを問う物語。2008年の直木賞受賞作『切羽へ』、ドラマ化され話題にもなった『生きるとか死ぬとか父親とか』もあわせて読みたい。
“旬の本”を読み解けば、時代が見えてくる!文芸評論家が教える今読むべき本【夏の文芸エクラ大賞】

斎藤美奈子さん
「コロナの流行が始まって約1年半ですが、去年の今ごろは“得体の知れない感染症が怖い、前例は?”という心理が働いて、カミュの『ペスト』がリバイバルヒット。でも最近は、終息は見えないもののワクチン接種が進んで、みんなの気持ちが少しずつ変化。売れる本も変わってきました」と斎藤さんは語る。
「この一年の特徴は子供に関する本が売れたこと。小説では傷ついたティーンや子供を描いたものが、ノンフィクションでは子供向け自己啓発書がランキング上位に。困難な現実に向き合っている大人たちが、次世代を担う子供たちを心配している気がします」
コロナ禍は医療や経済をはじめ、生活すべてに大きなダメージを与えたが、現実を見つめつつその先を探ろうとする本も目立った。
「コロナ禍で弱者にしわ寄せがいき、社会の矛盾点が浮き彫りになった。それがいろいろなかたちで本の世界に表れていますね」
【Topics 1】ヒット小説に共通するのは「傷ついたティーン」
加藤シゲアキさんの『オルタネート』、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』など、今年は10代を主人公にした小説がヒット。「芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』の女子高生にとって“推し”は人生。その切実さは傷ついた心とつながっていて、大人が読むとたじろぎますよね。ただ女子学生の不安定さをデフォルメした小説は、太宰治の『女生徒』から脈々と書かれている。彼女たちはそこからなんとなく大人になるんです。本屋大賞を受賞した町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』も、傷ついた女性が虐待されている子供を救おうとする話。こういう小説が支持されるのは、家族でも友人でも恋人でもない関係に絆を求める人が多いから?」と斎藤さんは考える。
中高の入試問題に多く使われて話題になったのが、寺地はるなさんの『水を縫う』。この物語の姉弟は女らしさや男らしさに違和感をもち、傷ついている。「ジェンダーを理解する助けになる本だと思います」。

『オルタネート』
加藤シゲアキ
新潮社 ¥1,815
『推し、燃ゆ』
宇佐見りん
河出書房新社 ¥1,540
『52ヘルツのクジラたち』
町田そのこ
中央公論新社 ¥1,760
『水を縫う』
寺地はるな
集英社 ¥1,760
【Topics 2】政治経済への不安を反映?「マルクス」に再注目!
今年の新書大賞を受賞し、経済の啓蒙書としては異例の売れ行きを見せたのが斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』。「30代の研究者の主張は“地球の資源を枯渇させる資本主義をやめて次へ行こうよ”ということ。基本はマルクスの考え方ですが、環境問題に敏感な若い人たちの心をつかんだようです」と斎藤さん。『ブルシット・ジョブ』も根底にあるのは“現在の行き詰まったシステムから脱却するには?”という問い。「コロナ禍で生きにくさが顕在化。だからこれらの本が説得力をもつのでしょうね」。

『人新世の「資本論」』
斎藤幸平
集英社新書 ¥1,122
『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』
デヴィッド・グレーバー
酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹/訳
岩波書店 ¥4,070
【Topics 3】早くも登場! 現実を突きつけた「コロナ小説」
「『神様のカルテ』で知られる夏川草介さんの『臨床の砦』には、“現役医師として書かずにはいられない”という強い思いがこもっています」と斎藤さんは語る。「コロナ患者を受け入れた病院の今年1月の様子が克明に描かれていて、医療現場が戦場だったことがよくわかる。キャラクターに個性があって、小説として読み応えがあるだけでなく、パンデミックの記録としても貴重です。東野圭吾さんは『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』でコロナ禍が地方の町に与えた影響を書いていましたが、これもひとつの記録になるでしょうね」。
巡査長を主人公にした榎本憲男さんの『インフォデミック』には、芸能や飲食店などの側から見たコロナ禍が描かれている。「行動が制限されるコロナ禍で、自由や表現はどうあるべきか。改めて考えさせられます」。

『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』
東野圭吾
光文社 ¥1,980
『インフォデミック 巡査長 真行寺弘道』
榎本憲男
中公文庫 ¥880
『臨床の砦』
夏川草介
小学館 ¥1,650
【Topics 4】大人が読んでもおもしろい!「子供向け自己啓発書」
「’20年のベスト10に入るほど売れたのが『こども六法』。法律の専門家ではない著者が、いじめられた経験をモチベーションに子供が加害者や被害者にならないための本をつくったという点が画期的でした」と斎藤さん。
子供に働く理由をていねいに説明した池上彰さん監修の『なぜ僕らは働くのか』、教養の力を楽しく説いた齋藤孝さん監修の『小学生なら知っておきたいもっと教養366』もヒット。「“のほほんと暮らせる時代は終わり。子供にも法律や仕事や教養の基礎を身につけさせなければ心配”と思った親たちが、ここからスタートだと考えたのでは。親が読んでもおもしろくて、知識を補充できそうです」。

『なぜ僕らは働くのか 君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』
池上 彰/監修 学研プラス ¥1,650
『1日1ページで身につく! 小学生なら知っておきたいもっと教養366』
齋藤 孝 小学館 ¥1,980
『こども六法』
山崎聡一郎
伊藤ハムスター/絵
弘文堂 ¥1,320
【Topics 5】「親世代のリアル」はエクラ世代の近未来!?
実力派作家がエクラ世代の関心事“老後”を織り込んだ小説を書いたのも注目ポイント。「井上荒野さんの『百合中毒』は愛人に走った父親が老いて戻ってくる話。“自分ならどうする?”と考えさせられます」(斎藤さん)。
中島京子さんの『ムーンライト・イン』や山本文緒さんの『自転しながら公転する』には、介護や経済の縮小など老後の現実が具体的に描かれている。「最近はこういう小説が多彩に。地味なジャンルだけどアラフィーになると共感できて、深く受け止められると思います」。

『百合中毒』
井上荒野
集英社 ¥1,650
『自転しながら公転する』
山本文緒
新潮社 ¥1,980
『ムーンライト・イン』
中島京子
KADOKAWA ¥1,870
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