【歌舞伎俳優 中村壱太郎インタビュー】好きが原動力で事を起こすことが大切。真に打ち込むものを持てば人生はどこまでも輝く

ここ数年あらゆるチャレンジを成し遂げている歌舞伎俳優・中村壱太郎さん。京都・南座での平成世代による公演での圧倒的な成功、ART歌舞伎やYouTubeでの新たな挑戦の数々。今、人気がうなぎのぼりで、最も目が離せない若手歌舞伎俳優の壱太郎さんに、新春インタビューを敢行。「初春らしく明るい気持ちになる」「壱太郎さんの踊りにうっとり」と話題の歌舞伎座・「壽 初春大歌舞伎」『艪清(ろせい)の夢』について伺った。

「ほっこりとした笑いで、一年の始まりを寿ぐのにぴったりな作品です」

新玉の笑いで寿ぐ、と題名にあるように、ほっこりとした笑いで一年の始まりに観ていただくのにぴったりな作品になっていると思います。

良いことも悪いことも一瞬――という中国の故事「邯鄲(かんたん)の枕」。“一炊の夢”とも呼ばれる物語をもとに、江戸時代から多くの作品が作られてきました。『艪清の夢』もそのひとつ。長年上演が途絶えていたのですが、平成5年に九世澤村宗十郎さんが自主公演で復活上演。その後平成26年に明治座で当代・松本幸四郎(当時染五郎)さんが企画、作り直されて、その際、私も出演させていただきました。
テレビやネットで繰り広げられている瞬間的な笑いとはまた違う、ほんわかとした笑いがこの舞台にはあふれています。「入れ事(いれごと)」と言って台本にない台詞や振りを入れていくなど、役者の魅力と笑いのセンスで魅せていく。古典作品だからと言ってずっと同じようにやるのではなく、時代時代のアレンジがされているんです。私が出演している餅屋の場面も原作にはなく、前回は蕎麦屋の設定でした。夏の公演だったら風鈴やかき氷屋になっているでしょうか。

この作品に二度関わらせていただいて感じるのは、現代の空気に合わせて作っていく楽しさ。諸先輩方も、どうしたらおもしろくつなげられるかそれぞれお役を工夫なさっていて、言わば一発芸披露の連続。新春かくし芸大会のようなものですね(笑)。『鈴ヶ森』『仮名手本忠臣蔵』『廓文章』などの歌舞伎の名場面を取り入れた、パロディもこの作品のおもしろさのひとつです。
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第二部『艪清の夢』お臼=中村壱太郎 写真提供/松竹
踊りは、言葉のない表現。お客さまがどう捉えるか幅があるのが素敵ですよね。餅屋と言っても杵と臼が出てくるわけでもなく、身体で表現する。歌舞伎は大きく分けて舞踊とお芝居がありますが、今月の第二部の作品は『三番叟』や『萬歳』といったお正月らしい舞踊もあり、どちらも楽しめるそんなプログラムなっているかと思います。ちなみに我が家のお雑煮は、元日は白味噌丸餅ですが、母が東京育ちなので2日目はお出汁で。昔からずっとそうでした。歌舞伎は1月2日が初日なので、お正月はあってないようなもので、元日らしいことは朝、お雑煮を食べることぐらいでした。
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第二部『艪清の夢』左より、杵造=大谷廣太郎、お臼=中村壱太郎、艪屋清吉=松本幸四郎 写真提供/松竹

インスタグラム、ツイッター…筋の通った熱い発信が実を結んだ、南座公演での大成功

きっかけは去年の3月。若手の俳優としての公演が京都・南座でありました。平成生まれの俳優だけで古典歌舞伎公演を開ける初の挑戦。ここで勝負をし損ねると、一生この劇場に出ることはできないかもしれない、という危機感さえ感じました。感染対策が厳しい中、なかなか囲み取材やロケに行くこともできない。ならばネットを利用して人々に伝えていくしかない。劇場の方々の協力もあり、舞台後毎日インスタライブをやらせていただいたり、毎朝必ず1度はツイートをしたり。初日から千穐楽へかけて舞台が変化していく空気感を伝えたい、お客様にもう一度観たいと思っていただきたい、という必死の思いでした。ありがたいことにお客様も日を追うごとに増え、千穐楽まで皆さまに大いに盛り上げていただき、改めてSNSの力の大きさを感じました。

ART歌舞伎やYouTubeでの感度の高いクリエイティブ。その瑞々しい感性の源は、ラジオ

何かの発想の砥石になっているのは、ラジオです。そこで気になったことを調べたり情報を得て、何かに発展させたりさせることが多い。今は何が強いのか、何がいいのか。最新の情報はネットやテレビでキャッチできるけれど目で見るより、声で聞くほうが僕は入ってくる。それが感性の基盤になっています。とにかく家では常にラジオがかかっていて、J-wave は番組を持たせてください!っていうくらい中学生くらいからずっと聴いています。

芸能一家に生まれたからこそ、大切にする家族の時間

一昨年亡くなった祖父・坂田藤十郎のお別れの会も去年させていただき、今は受け継いでいかなければならないという覚悟が生まれています。

忙しいことが当たり前な一家でした。だからこそ家族の時間を大事にできる、というのを感じています。今も父(四代目中村鴈治郎)や母(吾妻流三世宗家・吾妻徳穂)とも仕事をするので、家族でいるより、仕事で一緒にいる時間のほうが多い。そこに境界線があるわけではないけれど、だからこそ家族の時間を大事にする家系になっている気がします。生前の祖父と祖母(扇千景)にもそう感じました。

政界現役時代は祖母が誰よりも忙しかったので、この日だけは必ず、と決めて家族で集まることがイベントになっていました。だからこその絆があると思います。小さい頃から寂しいという思いはなく、自由にさせてくれたことへの感謝の気持ちがあります。大学を卒業するまで、他の同世代の皆さんほどどっぷり歌舞伎の舞台に出ていた訳ではないのですが、そういう経験が今ではよかったのかな、と思っています。祖母は引退後はスパッと外の世界に全く出なくなったので、その潔さは素敵だな、とずっと思っています。

何か一つ好きなものを楽しみ究める。真に打ち込むものを持てば人生はどこまでも輝く

今年の抱負は、論語の言葉から。僕らは歌舞伎が好き、というのが原点でやっていますが、一昨年からART歌舞伎などいろいろチャレンジするうえで、好きが原動力で事を起こすことの大切さを身にしみて感じました。

今年はまずは1月25日に配信される「META歌舞伎」を成功させたいです。源氏物語をバーチャルによる仮想空間上で上演、オンライン配信します。平安時代を緻密に再現した立体的CGと歌舞伎俳優の演技を融合させ、まるで平安時代にいるかのような没入感を生み出します。これは歌舞伎初の試み。ひとつの勝負です。歌舞伎のチームで新しいことに挑戦させていただくことは嬉しいこと。今年の目標でもあり、これが上手くいったら、この一年上手くいくんじゃないかな、と思って意気込んでいます。

「歌舞伎に触れてもらえば、必ずハマってもらえる自信はある」

いろいろやっていますが、最終的には劇場に足を運んで、生で歌舞伎を観ていただきたい、というのが揺るがない基盤です。歌舞伎は敷居が高い、と思われることも多く皆さんが触れる機会がないことを危惧しています。触れてもらえば必ずハマってもらえる自信はある。100人の配信を観た方の中から1人でも劇場に足を運んでいただけたら。地道にお客様を増やすことは、僕たちの世代に課されていることだと思っています。一月は特にお正月らしく華やかで楽しい演目になっていますので、ぜひご覧いただければ幸いです。

壽 初春大歌舞伎

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2022年1月2日(日)~27日(木)
第二部午後2時30分~
『春の寿』『艪清の夢』
1等席 16000円
2等席 12000円
3階A席 5500円
3階B席 3500円
1階桟敷席 17000円
チケットホン松竹 0570-000-489

META歌舞伎

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META歌舞伎 Genji Memories
【販売期間】
2022年01月14日(金)11:00〜2022年01月24日(月)22:00

【視聴期間】
ライブ配信
2022年01月25日(火)21:15〜
見逃し配信
2022年01月26日(水)10:00〜2022年01月31日(月)23:59

歌舞伎オンデマンドにてチケット販売中

●Twitter:中村 壱太郎 ( Nakamura Kazutaro )@Rinta0803

●Instagram:中村 壱太郎 @nakamurakazutaro

●YouTube:かずたろう歌舞伎クリエイション〈Nakamura Kazutaro Kabuki Creation〉

https://www.youtube.com/channel/UCyf0SsVJaYiG8KyxUSxAvZA  

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