【戸田奈津子さんインタビュー】ニューヨークで出会った友だちは97歳。おしゃれで知的で刺激を受けています

映画字幕翻訳の第一人者・戸田奈津子さんと、日本美術の専門家・村瀬実恵子さん。85歳と97歳の二人が東京・ニューヨーク間で実現させたZoom対談をまとめた本『枯れてこそ美しく』が好評発売中だ。戸田さんに本書について伺った。
戸田奈津子さん
映画字幕翻訳の第一人者・戸田奈津子さんは、数年前のニューヨーク滞在中、友人の紹介でとびきり素敵な女性に出会った。その名は村瀬実恵子さん。元メトロポリタン美術館特別顧問で、日本美術のすばらしさを世界に広めてきた村瀬さんは、戸田さんよりひと回り上。85歳と97歳になったおふたりが、今回東京・ニューヨーク間で実現させたZoom対談をまとめた本が『枯れてこそ美しく』だ。

「“お元気でおしゃれなかた”というのが村瀬さんの第一印象でした。私は美術に詳しくはないけれど、お話ししているうちに“女性の先駆者がいない特殊な道を歩んできた”という共通点に気づいたんです。ただ村瀬さんは学生時代に戦争を経験されているし、その後アメリカで学んで大学教授になりステータスを築かれたのだから、私よりもっと道が険しかったと思う。“こんなかたがいらしたんだ!”と驚き、尊敬の念でいっぱいになりましたね」
楽しいトークはおしゃれやキャリア、人との付き合いなど多岐にわたって続くが、そこから伝わるのは戸田さんが映画を、村瀬さんが美術をいかに愛し、仕事に打ち込んできたかということ。そして努力でそれぞれの才能を開花させたのに「自分たちはいいタイミングで好きなことができて運がよかった」と謙虚に思っていらっしゃるということ。

「村瀬さんは“結婚を考える暇もないくらい、学校の勉強に追われていました”とおっしゃっていましたが、私もほかにやりたいことがなかったのよ(笑)。私たちの時代は結婚と仕事の両立がむずかしかったから“この道でいく”と覚悟を決めたけれど、今の若いかたはいろいろな選択肢を考えて迷うかもしれない。そんなときに申し上げたいのは“自分のことは自分で決めて責任をもつべき”ということです。やみくもに好きなことに突き進むより、広い視野で時代の動きを予測することも必要でしょう。とにかくどんな道を選んでも簡単ではないのだから、他人を責めるような生き方だけはしないようにしたいわね」

働く女性の先頭に立つつもりなどなく、自分が映画から受けた感動をシェアしたいと思ってきただけ──笑顔をたたえ歯切れよくそう語る戸田さん。多忙な時期は友だち付き合いもままならなかったそうだが、自分の時間が増えると友だちも増え、刺激を受けたり楽しい時間を共有したりしているという。

「なかなかお会いできないけれど、村瀬さんもそのおひとりです。いろいろな業界の映画好きが集まって盛り上がるビデオ鑑賞、運動嫌いの私でもできるシュノーケリング……そういうことをしていると時間を忘れますね。最近村瀬さんは書を始められたそうですが、私もやってみたい。いつだって遅いということはないと思っています」
『枯れてこそ美しく』

『枯れてこそ美しく』

映画を通して海外文化を日本に紹介してきた字幕翻訳者・戸田奈津子さん。欧米の美術界では有名な日本美術の専門家・村瀬実恵子さん。旧知のふたりのコロナ禍でのリモート対談には“生きるヒント”が満載! “好き”をもつことの大切さが伝わってくる一冊。集英社 ¥1,430

戸田奈津子

戸田奈津子

とだ なつこ●’36年、東京都出身。津田塾大学英文科卒。映画字幕翻訳者・通訳。生命保険会社勤務を経てフリーで翻訳の仕事を始め、40代に入ってフランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』で本格的に字幕翻訳者デビュー。以後数々の映画字幕を担当。ハリウッドスターが来日した際は通訳を務めることも多く、彼らとの親交が厚いことでも知られる。
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