【山猫俳句帖〈前編〉】カレンダー『山猫ごよみ』掲載の5句を小林恭二さんが講評!

エクラ2023年1月号の付録カレンダーや最近の句会で評判を集めた山猫こと山本容子さんの俳句から、宗匠 小林恭二さんが選抜&講評! 今回はカレンダー『山猫ごよみ』掲載の5句を紹介。

俳句の世界に心惹かれたら、1月31日まで募集中の「うらら句会」(エクラ5月号で結果発表します)へもぜひ俳句を投稿してみてください!

花衣手首の細き千手観音
『山猫ごよみ』2月より

講評

天平時代の優美な観音像を思い浮かべました。「手首の細き」は手首の細さ以外に、その手が示している仕草も暗示します。山猫さんはこれに「花衣」を配しました。花衣から出た女性の細い手首は二千年近い時を超えて古代の繊細な仏像につながっています。そこに花吹雪が散っていると見るのは深読みにすぎるでしょうか。
 

礼状は春の五色やピカソの書
『山猫ごよみ』4月より

講評

これはピカソが歯医者さんにあてた礼状を詠んでいます。礼状は小さな画帳なのですが、画帳もさることながらこれを容れた封筒がすばらしい。五色のパステルを使って住所を書いているのですが、楽しげで見ているだけで心が浮きたってきます。ピカソの画ではなく書にスポットをあてたところが技ありでした。
 

黐(もち)の花カステラ色の柵を越え
『山猫ごよみ』8月より

講評

黐の花は山地に自生する白っぽい地味な花です。その地味な黐の花がカステラ色の柵を越えて自宅の庭に咲き込んでいるのでしょう。あんな地味で取柄(とりえ)もない黐の花がカステラ色の柵と組み合わされたとたん、なんともおしゃれで温かいものに見えてきました。そもそもカステラ色というのが、画家でないと使えない色の見たてです。
 

天高く影がキスする交差点

『山猫ごよみ』10月より

講評

秋は空気が澄んでものの輪郭がはっきりします。そんな秋晴の日、交差点ですれ違った人の影がキスをしているように見えた。素直な写生句ですが、疾走する馬の絵とのコラボが素敵です。句意とは重なるところがないのですが、共通する秋の幸福感が圧倒的な相乗効果を生んでいます。

冬うらら歌聖全部と正座する
『山猫ごよみ』12月より


講評

歌聖というのは、古今の和歌の達人たちのことです。柿本人麻呂、山部赤人から始まって、和泉式部や定家、最近では斎藤茂吉や与謝野晶子もこれに入るかもしれません。その人たちと正座しているのだという。歌会でも催しているのでしょうか。この手の豪華な舞台設定は山猫さんの独壇場です。

 

俳名 山猫こと 銅版画家 山本容子さん

俳名 山猫こと 銅版画家 山本容子さん

’52年埼玉県生まれ。’78年京都市立芸術大学西洋画専攻科修了。都会的で洒脱な線描と色彩で、独自の版画の世界を確立。本の装丁からパブリック・アートまで幅広く手がける。俳名は「山猫」。近著に『山猫画句帖』など。
講評は山本さんの宗匠 小説家・俳人 小林恭二さん

講評は山本さんの宗匠 小説家・俳人 小林恭二さん

’57年、兵庫県生まれ。’81年東京大学文学部卒業。在学中は東大学生俳句会に在籍。’84年『電話男』が第3回海燕新人文学賞、’98年『カブキの日』で三島由紀夫賞受賞。小説、評論、エッセー等著書多数。専修大学文学部教授。
▼エクラ誌上「うらら句会」

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