50代、親が元気なうちに考えたい!「実家じまい」「墓じまい」

親が年を重ねるにつれ、意識せざるをえないのが「親の終活」。なかでも気がかりなのが、実家とお墓をどうするか。特に、将来誰も住む予定がない実家や墓守がいなくなるお墓は、私たちを悩ませる負の遺産になる危険性が大!そんな事態を避けるべく、親が元気な今のうちに実家じまい&墓じまいについて考えてみませんか。
教えて下さった方
弁護士・税理士(通知)長谷川裕雅さん

弁護士・税理士(通知)長谷川裕雅さん

はせがわ ひろまさ●「永田町法律税務事務所」代表。新聞記者を経て現職に転身。ベストセラーになった『磯野家の相続』シリーズをはじめ、『老後をリッチにする家じまい』等著書多数。講演会やメディアでも活躍。
「シニアの暮らし 研究所」所長 岡本弘子さん

「シニアの暮らし 研究所」所長 岡本弘子さん

おかもと ひろこ●有料老人ホーム等の紹介センターで1万件以上の入居相談に対応し、’09年、「シニアの暮らし研究所」創設。有料老人ホーム・高齢者住宅選びの専門家として、メディアや講演など幅広く活動。
家財整理業 上野貴子さん

家財整理業 上野貴子さん

うわの たかこ●一般企業勤務を経て、’15年、遺品整理専門会社「ワンズライフ」を設立。メディアなどを通じて遺品整理・生前整理の普及にも努める。終活カウンセラー協会認定終活講師の資格ももつ。
墓じまい代行・終活サービス業 小西正道さん

墓じまい代行・終活サービス業 小西正道さん

こにし まさみち●石材店での墓地営業を経て独立。散骨、墓じまい、終活サービスを提供する「縁」代表取締役。著書に『墓じまい! 親族ともめない、お寺に搾取されない、穏やかで新しい供養のカタチ』がある。

知っておきたい「実家じまい」

子供が巣立ち、今は親だけで暮らしている実家。「親がまだ住んでいるから」「親が生きているうちは」と、そのままにしておくと、いずれ“負動産”になってしまうかも!? 実家に潜むリスクを知って早めに対処を!

「実家じまい」は終活のひとつ。早めの対処が、親子に安心をもたらす

実家じまい

広く、不便な実家は子世代を悩ませる「空き家予備軍」

総務省「住宅・土地統計調査」によると、’18年の全国の空き家数は、約849万戸で総戸数の約14%に。そのうち「相続」によって発生したものが全体の約55%を占める(国土交通省「令和元年空き家所有者実態調査」)。つまり、親から相続したものの自分は住まず、売却も賃貸もできない家が大量にあるということ。もしあなたが将来実家に住む予定がないのなら、あなたの実家も空き家予備軍ということに!

相続に詳しい弁護士にして税理士(通知)で、実家じまいにも携わっている長谷川裕雅さんも、「空き家になる可能性があるのなら、親が存命中に実家じまいするのがおすすめです」と提言する。

空き家を放置していると火事や不法侵入者による犯罪などのリスクがアップ。老朽化がすすめば倒壊の恐れも生じる。危険性が高い「特定空き家」に指定されてしまうと、自治体から解体や修繕を命じられる場合があるだけでなく、固定資産税が通常の6倍に。空き家を所有していることは、百害あって一利なしというわけだ。

「そもそも親は、居室が複数ある広い家を持て余しているかもしれません。何十年も前に建てられたとしたらバリアフリー化がされていないでしょうし、駅から遠い場所にあるとしたら利便性も今ひとつでしょう。親の将来を思えば、早めに実家を売却し、駅に近く、コンパクトで住みやすいマンションや高齢者向き施設に住み替えるのが得策です。実家の売却益によって老後資金にゆとりが生まれる可能性もあります」(長谷川さん)

シニアの暮らしに精通する岡本弘子さんも、「子供を育てた家を売り、高齢者施設などに移り住む人は増えていますし、その傾向は今後さらに高まるでしょう。親世代にとっても『家じまい』は終活のひとつなのです」と。

親が住んでいるうちはと先送りせず、元気な今のうちに親子で考え、情報を収集するなど準備しておきたい。

全国の空き家数および空き家率の推移

50代、親が元気なうちに考えたい!「実家じまい」「墓じまい」_1_6
※総務省「平成30年 住宅・土地統計調査」をもとに作成

どれかひとつでも当てはまったら考え時【こんな人は今のうちから考えて】

□すでに空き家になっている
売れない&貸せない空き家の場合、固定資産税や管理費などお金が出ていく一方。所有期間が長引くほど出費がかさむので早急に対処を。

□将来、実家に誰も住む予定がない
子供たちはすでに自宅を所有していて、誰も実家に戻る予定がない=空き家への道まっしぐら。特に過疎化が進む地域だと注意が必要。

□親がひとりで住んでいる
居室が複数あるようなファミリー向けの間取りや広さの家は、親がひとりで住むには不向き。コンパクトな住居への住み替えがベター。

□大がかりなリフォームが必要
今後も住み続けるには大がかりなリフォームが必須の場合、費用はかなりのものに。それだけのお金をかける意義があるか冷静に判断を。

□そろそろ親の介護が必要
実家がバリアフリー化されていなかったり、2階建て以上の戸建てなら要注意。介護が視野に入ってきた親にとって“危険の宝庫”かも。

「実家じまい」しないとどうなる?

「実家じまいは、親が亡くなってからよりも元気なうちに行うのが得策」という弁護士・税理士の長谷川裕雅さん。その理由とは?

戸建ては相続税が高くなる可能性が!

親が亡くなるまで実家を所有しつづけるデメリットのひとつは、相続税の問題。基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」なので、妻(夫)とふたりの子供が相続する場合、3000万円+600万円×3人で4800万円までは非課税になる。とはいえ、遺産に実家が含まれていると、この額を超えることは珍しくない。「建物は経年劣化によって評価額が下がりますが、土地はそうはいきません。取得した年ではなく相続時の路線価を基準にするので、立地や形状、広さなどにもよりますが、評価額が高くなりがちなんですよ」

相続時に土地の評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」(下記参照)があるものの、適用条件が厳しく、利用できるケースは限られる。「特に戸建ては、マンションと比べて所有している土地が広いため、評価額が高くなる傾向にあります。実家が戸建ての場合、親が元気なうちに対処するのがおすすめです」
戸建ては相続税が高くなる可能性が!

小規模宅地等の特例

【居住用宅地
取得した土地
被相続人の居住用の土地

配偶者
⇒無条件


取得者と適用要件

被相続人と同居していた親族
⇒申告期限まで、所有&居住の継続

被相続人と同居していなかった親族
⇒相続開始前3年以内に持ち家に居住していないこと
⇒相続の申告期限まで、所有していること

限度面積
330㎡

減額割合
80%

※出典/長谷川裕雅『老後をリッチにする家じまい』(イースト・プレス)

戸建とマンションの土地の持分割合

マンションの各専有部分の所有者がもつ敷地権割合は、マンションが立つ敷地のごく一部。専有面積が等しい100戸から成るマンションなら、同じ広さの土地に立つ戸建ての1/100に。
戸建とマンションの土地の持分割合
※出典/長谷川裕雅『磯野家の相続入門 節税は「花沢不動産」にきけ!』(中公新書クラレ)

遺産分割でもめることも

被相続人が複数いるのに遺産が実家のみの場合、相続争いの火種になりかねない。
被相続人が複数いるのに遺産が実家のみの場合、相続争いの火種になりかねない。

「法定相続分に従って分けるなら実家を売却して現金化するのが一番ですが、スムーズに売れるとはかぎりません。不便な地域だと苦戦するでしょうし、長らく空き家で荒れているならなおさらです。また、納税期限を考えて売り急ぐと、買いたたかれて損をすることもあります。被相続人全員で共有という手もありますが、物件を売る・貸す・修繕するなどの際、全員の合意が必要になるため、これもまたもめ事の種になりやすいんですよ」

遺産協議が長引き、納税期限内に成立しない場合、小規模宅地等の特例などが適用できなくなり、相続税が跳ね上がることも。

ゴミ屋敷になる危険性がある

ゴミ屋敷になる危険性がある
実家は、家族の人数に応じた広さや部屋数を有していることが多い。かつての子供部屋が今では物置にという話はよく耳にする。

「余剰スペースがあるだけに、不要品を保有しつづけてしまうのだと思います。しかも戸建ての場合、階段の上り下りがつらくなり、親が何年も上階に出入りしていないとか、庭にも不用品を放置なんてこともあるでしょう。となると、親が物につまずくなどけがのリスクはもちろん、ゴミ屋敷化の危険性もあります」

そうなったら一大事! 近所から苦情がくるだけでなく、火事や倒壊、不法侵入などの危険性もアップ。空き家の場合は、行政指導や行政処分が下る可能性もある。実家がゴミ屋敷化する前に手を打つのが賢明だ。

修繕費などランニングコストが家計を圧迫!?

修繕費などランニングコストが家計を圧迫!?
「実家の大半は、購入から何十年もたっていることと思います。内装や外装、設備の修繕をしなければならない家もあれば、親の高齢化に伴いバリアフリー化が必要な家もあるでしょう。こうした費用は数十万円から数百万円、大規模リフォームともなれば1000万円以上にもおよびます。そこで考えてほしいのは、親があと何年住むかわからない家に多額の費用をかける意義があるかどうか。親の老後資金は確実に目減りしてしまいます」

すでに空き家で手を入れるつもりはないとしても、固定資産税は毎年発生するうえに、水道や電気の基本料金も払い続けなければならない。近隣に迷惑をかけないよう、ときどき実家に様子を見にいくとしたら交通費も必要に!

上手な「実家じまい」のためのQ&A

親も子供も元気なうちにとりかかるのが理想

将来子供が利用する予定がないのなら、親が今住んでいても、すでに空き家になっていても、その家はいずれ処分することになる。つまり、実家じまいは既定路線ということ。とはいえ、いつごろから考えはじめ、どんな流れで、どう動けばいいかなど疑問が満載。

長谷川さんによると、親のどちらかが亡くなったのを機に実家じまいをするケースが多いとか。主な理由は、「ひとりだと家が広すぎる」「高齢の親のひとり暮らしは親子ともに心配」「相続を意識する」といったところ。

「親が施設に入ったのを機にという考えもあると思いますが、そのタイミングで実家を処分すると、親によっては『もう家に戻れないんだ』と悲観し、一気に衰える場合もあります。なので本来は、親が元気なうちに行うのが望ましいですね。また、家じまいは、手続きから不要品の処分まで、かなりの気力と体力が必要。実動部隊となる子供が元気なうちにとりかかるのがおすすめです」(長谷川さん)

岡本さんは、「親が70代になったら準備を始めたほうがいい」とアドバイス。「その年代になると、親が子供を頼りにする傾向が強くなってきます。特に情報収集は子供世代のほうが得意。実家の処分方法や住み替え先など、子供が情報を集め、親と一緒に考えていただきたいですね」(岡本さん)

Q.実家じまいのタイミングは?

A.家の“限界期”を知り、親の意向と合わせて検討を
岡本さんが運営する「シニアの暮らし研究所」では、下記のようなチェックリストを活用。5つのポイントを「まったく問題がない」「問題がある」「ふつう」「やや問題がある」「大いに問題がある」のように5段階で評価し、親の生活を客観的に評価することで、親が現在の家で暮らせる限界期が探れるという。

家の“限界期”を知るための5つのチェックポイント

「自宅形態や周辺環境が整っていない場合、サポートしてくれる人や資金がかなり充足していないと、現在の自宅で暮らし続けるのはむずかしいでしょう。ただし、それだけで判断するのは禁物です。親はどうしたいのか、子供である自分たちは親にどうあってほしいのか、お互いの思いも調整しながら、多角的に判断してほしいですね」(岡本さん)

家の“限界期”を知るための5つのチェックポイント

家の形態
住まいのかたちはバリアフリーで老後生活に適しているか

生活環境
駅やコンビニが近いなど、自宅周辺の生活環境は便利か

医療・介護環境
近くに病院や介護事業所が複数整備されているか

家族事情
介護が必要になったとき支える家族がいるか

資金状況
資産(預貯金・不動産)と収入(年金など)に必要な額があるか

※資料協力/シニアの暮らし研究所

Q.親が認知症になったら売却は不可能?

A.成年後見制度や家族信託の検討を
不動産売買は、決済時に司法書士が立ち会うのが一般的。その際、司法書士が、売主たる親が認知症などで判断能力がないとみなせば、契約は不成立になってしまう。

「そうした事態を避けるべく、親がしっかりしているうちに成年後見制度や家族信託を検討しては?」と、岡本さん。

成年後見制度には、判断能力低下に備えて、あらかじめ後見人と代行させる内容を決めておく「任意後見制度」と、すでに意思能力の低下が認められる場合に利用できる「法定後見制度」がある。後者は、弁護士や司法書士、福祉関係の法人などが選ばれることが多い。

家族信託は、すでに意思能力が失われていると判断されると利用できないが、将来の認知症リスクに備えて検討するシニア世代が増えている。いずれも、契約時や毎月の報酬が発生するものの、一考の価値はありそう。

 

成年後見制度
判断能力が不十分な成年者の財産管理や福祉サービス契約の締結などを、代理人が行える制度。判断能力が不十分になる前に、本人が自分の意思で後見人を決定できる「任意後見制度」と、判断能力が不十分になってしまったあとに、4親等以内の親族等が裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が、親族や弁護士、司法書士などから後見人を選定する「法定後見制度」がある。

家族信託
信頼できる家族に財産を託し、管理や処分を任せる制度。委託者(親など)が受託者(子供など)に遺言や信託契約によって、財産の管理処分の権限を与え、受託者は、運用・処分・管理などによって発生する利益を受益者(親の場合が多い)に渡す。手続きは個人でもできるが、弁護士や司法書士、行政書士、税理士といった専門家に依頼するケースが多い。

Q.実家を売ったお金で新たな住まいを購入するには?

A.買い替えにもいろいろなかたちがあります
「実家を売ったお金で新居を購入する方法は、売却の見通しが立ってから新居を探す『売却先行』と、購入先のめどをつけてから売却する『購入先行』があります。それぞれのメリットとデメリットを比較し、自分たちに合ったものを選んでください」(長谷川さん)

いずれにしても、まずすべきは不動産会社に実家の査定をしてもらうこと。売却金額の目安がわかれば、新居の予算が立てやすくなる。住宅ローンが残っているなら、売却金額で完済できるかどうかも検討を。また、仲介手数料など諸費用も念頭に置いておくこと。

なお、相場より低くなるものの、あらかじめ設定した期限内に売却できなかった際は不動産会社が買い取ってくれる「買取保証」というサービスもある。

家を売却するまでの流れ

不動産会社に売却の相談・査定を依頼
 
住み替えのタイミングを決める
 
不動産会社を決め、売却を依頼
 
売却条件を交渉する
 
売買契約を結ぶ

売却先行の場合
メリット
自宅の売却価格のめどが立つので、住み替えの資金計画を立てやすい
デメリット
売買契約がまとまると自宅を明け渡す期日が決まり、それまでに転居する必要がある。そのため、住み替え先を妥協したり、仮住まいをしなくてはいけないケースもある

購入先行の場合
メリット
新居をじっくりと探せる
デメリット
購入物件の引き渡しまでに自宅が売却できないと、売却資金を購入資金にあてられないため、つなぎ融資や二重ローンが発生する場合がある

※参考/長谷川裕雅『老後をリッチにする家じまい』(イースト・プレス)

Q.都心なら高く売れる?

A.家の立地や状態によるのでプロに査定を依頼して
空き家が増えている今、首都圏でも駅から距離があり、スーパーや医療機関が近くにないなど生活利便性が悪いエリアの不動産の売却はむずかしいよう。一方で、都心は中古物件でも高値で売買されるなど、不動産バブルもささやかれている。ということは、実家が都心にあれば、高額で売れる⁉

「不動産価格は、物件の築年数や状態、立地によって決まります。都心でも、騒音がひどかったり、線路や墓地に隣接といった場所では、相場より低くなりがち。戸建ては、土地の形状や向き、道路との接地状況などで価格が大幅に変わりますし、オーナーの個性が強すぎる注文住宅も敬遠されます」(長谷川さん)「購入時の金額や近所の相場から憶測せず、必ずプロに査定してもらって」(岡本さん)

Q.地方の古い空き家なので売れるか心配

A.海見えなど魅力的な物件なら需要はあります
「リモートワークの普及で地方の戸建てに移り住む子育て世代が増えていますし、都心と田舎という二拠点生活も注目されています。海が見える、温泉が近いなど魅力的なエリアなら一定の需要はあるでしょうから、不動産会社に相談しては? 空き家バンク(自治体が運営する空き家所有者と居住希望者のマッチングシステム)もありますが、苦戦しているのが現状。それは最後の手段とし、まずは家の中を整え、庭の手入れをするなどして市場での売却を目ざしましょう」(長谷川さん)

今年4月27日から、一定の要件を満たせば相続した土地を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属法」が施行される。対象になるのは土地なので、空き家を解体して更地にし、10年分の土地管理費用相当額の負担金を納付する必要などはあるものの、こうした制度の利用を検討するのも一案だ。

【読者の体験談】「実家じまい」、私の場合。

「自然災害を機にマンション住まいを親に提案」(54歳・会社員)

東日本大震災の際、実家がほぼ半壊したのを機に、駅近のマンションへの住み替えを親に提案しました。高級住宅地にある注文住宅だったので、親の思い入れが強かったのですが、リフォーム代が高額だったため、渋々同意。それが、いざ住んでみたら、管理人常駐でケアが行き届き、バリアフリーで使いやすい広さのマンションがすっかり気に入った様子。買い物も病院も徒歩圏内、どこに行くにもアクセスがよいのも便利なようで、「もっと早く住み替えればよかった」と、今では昔のご近所さんにすすめているくらいです(笑)。

 

「シニア向けマンションを購入、いずれは自分が相続を」(48歳・自営業)

2年前に父が他界し、地方に住んでいた母が実家を売却して、私が住んでいる東京に移り住みました。母が遠方で、ずっとひとりで暮らすのは心配だったので、この決断には私も大賛成! 母も、デパートに美術館、劇場に観光スポットと、楽しみ満載の東京暮らしを満喫しているみたい。購入したのは新築のシニア向け分譲マンションなので、同世代の友人がすぐにできたのもよかったのかも。私はひとり娘で、シングルなので、いずれこのマンションを相続することになるけれど、自分の終の棲家にしてもいいかなと考えています。

親の住み替え先の選び方って?

さまざまな事態を想定し、仮説を立て、計画しておく

「親世代は体力や思考力など個人差が大きいですし、元気なうちに住み替えを希望する人もいれば、できるだけ住み慣れた家で暮らしたいと考える人もいます。そうした自分たちの事情や状況に合わせた“住み替え”を考えることが大切です」と、岡本さん。

 

親がいつ、どうなるかは、誰にも予想できない。だからこそ、「親がひとりになったら」「介護が必要になったら」「リフォームが必要になったら」など、さまざまな事態を想定し、どう対処するか仮説を立て、計画することが、住み替え成功のカギになる。

 

「介護が必要になった場合のパターンを複数用意されるご家族もいらっしゃいます。もしかしたら、“その時”がきたときに別の選択をするかもしれませんが、少なくてもある程度計画をしておけば、慌てることなく行動に移せるのではないでしょうか」

「実家じまい」とあわせて知りたい!「親の住み替え先の選び方」3つのポイント

Point1 住み替え先は「親の体と精神状態」「地域性」「予算」で判断を

最適な住み替え先を見つけるポイントは、「親の状況」「地域性」「予算」の3つ。「まずは、親の心身がどういう状況にあるかを客観的にチェックしましょう。まだまだひとりで暮らせそうか、介護認定が視野に入ってきたかによって、介護サービスつきか否か、どの程度のサービスが必要かなどが判断できます」

シニアは順応性が乏しくなる傾向があるため、地域性も重要に。今の住まいや子供の家の近く、地縁があるところなど、親がなじみやすいエリアを選ぶと安心だ。予算は、初期費用だけでなく、ランニングコストも考えるのが得策。

「そのうえで、食事、サービス、環境など、親の嗜好に合ったところに絞り込みを。施設が“よいか悪いかではなく、親が望む生活をイメージし、合うか合わないかで判断してください」

Point2 費用は「100歳まで生きる」と仮定して試算すると安心

住み替えにあたって、避けて通れないのが「使える老後資金の額」。何歳まで生きるかによるものの、その予測は不可能。そこで岡本さんが提案するのが、余裕をもって、平均寿命より長めの100歳と仮定すること。

「それを前提に、年金を含む毎月の収入と預貯金や不動産などの資産をできるだけ正確に洗い出し、住居費を含む支出額の試算をしてください。すると、いつごろから、いくらの予算で、どんなところに住み替えられるかの目安が出ます。なお、この試算は一度して終わりにせず、5年ごとなど定期的に行うようにしましょう」

介護つき施設への住み替えは、80歳前後が多いものの、一般的には介護サービスの充実度と費用は比例する。老後資金が乏しいようなら、住み替えの時期を先延ばしにするのも一案だ。

Point3 「老後資金が乏しい親」でも入居できる施設はある

要介護度が高い人向けだけでなく、元気なシニアやちょっとしたサポートでOKな人向けなど、高齢者向けの住居は多種多様に。とはいえ、ネックになるのが費用の問題。老後資金が乏しい場合、どうすればいい?

「要介護度が上がると介護保険でカバーできることが増え、支出が抑えられます。なので、できるだけ長く現在のお住まいで生活し、要介護度が上がったら高齢者施設に入居するつもりで今から準備してはいかがでしょうか。数は多くありませんが、年金が少ない人や生活保護受給者が入居できる施設もあります」

その代表格は特別養護老人ホーム。また、民間が運営する有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の中にも、低収入者向けの料金を設定しているところがあるのでリサーチを。

高齢者向け住居の種類

シニア向け分譲マンション
【特徴娯楽施設を備え、食事提供等のサービスを受けられる分譲マンション。介護サービスは外部業者利用が多いが、在宅介護事業所併設もある。購入費用は数千万円~数億円、管理費や食事代などで月10万~40万円程度。売却、賃貸、相続も可能。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
【特徴高齢者向けのサービスがついた賃貸住宅。自立型と要介護型があり、介護サービスは外部や併設事業所を利用する。敷金として家賃の数カ月分を納め、月々の生活費は、家賃・管理費・共益費・水道光熱費+食事代などで20万円~100万円程度。

住宅型有料老人ホーム
【特徴自立型と要介護型があり、介護サービスが必要になった場合は外部や併設業者と契約することになる。入居一時金は0~5000万円程度、月々の利用料は10万~100万円程度。

介護付き有料老人ホーム

【特徴】自立型と要介護型があり、介護を受ける場合は、ホームに常駐するスタッフから24時間介護サービスが提供される。入居一時金は0~数千万円と幅があり、月額利用料は20万~100万円程度。

特別養護老人ホーム
【特徴地方自治体や社会福祉法人などが運営し、介護や療養上のケアが受けられる公共的施設。基本は要介護3~5が対象だが、状況によっては要介護1~2の人も入居できる。月々の費用は本人の収入や要介護度によって異なり、数万円~十数万円程度。

生前整理・遺品整理の仕方って?

円滑に進めるカギは親とのコミュニケーション

実家じまいと切っても切れないのが、家財整理。その道のプロ、上野貴子さんいわく、「親とともに行う生前整理で大切なのは、自分とは異なる親の価値観を受け入れ、寄り添うこと」。

 

「子供から見ればゴミでも、親には捨てられない理由があるのかもしれません。『こんなものとっておくなんて』などと否定すると、親は心を閉ざしてしまいます。生前整理を円滑に進めるカギは、親子の信頼関係なのです」

 

それは、遺品整理の場合も同様。

 

「思い出の品を手に、『もっと親と話をしておけばよかった』と、後悔される依頼主を何人も見てきました。生前に親の意向をある程度聞いておけば残すものと処分するものの判断がしやすくなりますし、親の人生を知ることで改めて感謝の気持ちが生まれるかもしれません。それが、遺品整理の精神的な負担を少し軽くしてくれると思います」

「実家じまい」とあわせて知りたい!「生前整理」&「遺品整理」3つのポイント

Point1 遺品整理は「残す量」と「数」を決めるとスムーズ

生前整理の主な目的は、不要なものを処分すること。その場合も親の意向は尊重を。「不要品に思えても親が大切にしているなら、手をつけずそのままに。自分の意向が尊重されれば、親も満足し、こだわりのないものは思いきって処分してくれるかもしれません」

遺品整理は、保管先のスペースを念頭に、残しておきたいものの数や量を決めておくとスムーズ。「ダンボール1箱までとか10個までと決めて取捨選択し、終わったあと、それ以上残っていれば再度見直してください。どうしても絞れなければ残してもかまいません。遺品は一度処分したら、二度と手に入らないものばかりですから」

大量の物を前に、ひとつひとつ「いる」「いらない」を判断するのは至難の業。自分の中で基準を決め、ある程度割り切ることも必要だ。

Point2 業者に任せる場合は、「丸投げ」でも「一部のみ」でもOK

生前整理も遺品整理も、ひと昔前までは家族で行うのが主流だった。けれどそれは、人手が多い大家族だからこそ可能だったこと。「今は核家族が大半で夫婦共働きも多くなっています。忙しい合間を縫って、家族だけで実家の片づけを行うのは負担が大きすぎます。プロの手を借りることは恥ずかしいことではありませんから、大いに利用してください」

プロに任せる際は、丸投げしても一部だけお願いするのでもOK。家電リサイクル品の処理や不用品のリサイクルなど、“片づけのその後を依頼することも可能だ。

「こんなことをお願いするのは……という、ためらいは無用です。また、当社の場合、保管場所がわからなくなった大切な書類や貴重品なども、事前に知らせていただければ探し出しますよ」

Point3 業者は「誠実な対応」と「明朗な見積もり」で選んで

家財整理で思わぬお宝が見つかることも。だからこそ信頼できる業者に依頼したい。「見極める秘訣のひとつは、電話応対がきちんとしているかどうか。なかには取次のみという業者もあるので、質問に対して誠実に、きちんと答えてくれるところを選びましょう」

見積もり後に断るとキャンセル料をとられるケースや、最初の説明にはなかった追加料金をとるケースもあるため、そのあたりも電話で確認を。「必ず相見積もりをとり、複数の業者を比較してください。片づけはケースバイケースなので金額の目安を出すのはむずかしいですが、『一式100万円』のようなざっくりした見積もりや極端に安い場合は要注意。見積もりと請求額が異なる危険性もありますから。細かく明細を出し、ていねいに説明してくれる業者のほうが安心です」

費用目安

間取り1K  作業員数(目安)1名の場合  合計金額(税込)¥38,500~


間取り1DK  作業員数(目安)2名の場合  合計金額(税込)¥66,000~


間取り1LDK  作業員数(目安)3名の場合  合計金額(税込)¥88,000~


間取り2DK  作業員数(目安)4名の場合  合計金額(税込)¥132,000~


間取り2LDK  作業員数(目安)4名の場合  合計金額(税込)¥165,000~


間取り3DK  作業員数(目安)5名の場合  合計金額(税込)¥198,000~


間取り3LDK  作業員数(目安)5名の場合  合計金額(税込)¥220,000~


間取り4DK  作業員数(目安)6名の場合  合計金額(税込)¥253,000~


間取り4LDK  作業員数(目安)6名の場合  合計金額(税込)¥286,000~


※ワンズライフの場合。あくまで目安の金額。

考えておきたい「墓じまい」供養のかたち

実家じまいと並んで関心が高まっているのが墓じまい。とはいえ、具体的な墓じまいの仕方や費用、墓じまい後のお骨をどうするかなど、疑問が多数。専門家の解説を参考に、しっかり学びたい。墓じまい代行・終活サービス業の小西正道さんに教えてもらった。
少子高齢化と意識の変化が墓じまいを加速させている

少子高齢化と意識の変化が墓じまいを加速させている

エクラでも数年前からたびたび企画し、反響を呼んでいる「墓じまい」。

 

「当社でも依頼が急増していて、5年前と比べると3倍もの墓じまいをお手伝いさせていただきました」と、墓じまいや散骨事業に長年携わっている小西正道さん。背景にあるのが少子高齢化。「墓守が高齢になり管理ができない」「ひとりっ子同士の結婚で嫁(または婿)側の墓守をする人がいない」「子供がいないのでお墓の継承者がいない」といった事態が生じているためだ。

 

「お墓の場所が不便という理由も目立ちます。具体的には、『遠方で、お参りしづらい』『先祖のお墓が故郷にあるものの、自分たちはすでに別の地域に住んでいて、今後も故郷に戻る予定がない』といったところです」

 

また、お墓が自宅に近くても、敷地が広く、アップダウンが激しい墓地や、駅から遠い墓地は、高齢者にとってお参りしづらい場所。それも、墓じまいのきっかけになっているよう。

 

「昔ながらの家墓に疑問を抱くかたもいらっしゃいますし、家族に負担をかけるような墓を残すことを心苦しいと感じる人も増えている気がします。そうした意識の変化が、墓じまいを加速させているのではないでしょうか」

 

もっとも親世代の中には、「先祖代々のお墓を閉じるなんて」と眉をひそめる人もいそう……。

 

「親族が多数住んでいるエリアや風習を重んじる地域などでは、そうした声も耳にします。また、周囲から『バチが当たる』というような言葉をかけられることがあるかもしれません。でも、自信をもっていえますが、バチなんて当たりません。私は何百件も墓じまいしてきましたが、今も元気にピンピンしていますからね(笑)」

 

お墓を閉じたあと、使い勝手のいい納骨堂や永代供養墓などに改葬するパターンもあれば、お墓自体をもたないという選択もある。墓じまいとともに“その先”も合わせて考えたい。

少子高齢化と意識の変化が墓じまいを加速させている
※厚生労働省「衛生行政報告例」をもとに作成(無縁墳墓等の改葬を除く)

どれかひとつでも当てはまったら考え時 こんな人は今のうちから考えて

□居住地から遠い場所にお墓がある
遠距離や最寄り駅から車で数十分など立地が不便なお墓は、高齢になるとお参りに行くのもひと苦労に。“放置状態”になる前に対応したい。

□墓守をしなければいけないお墓が複数ある
父方の墓、母方の墓、後継ぎがいない親類の墓など、複数の墓守をひとりで担うのは大変。体力・気力があるうちに整理するのがおすすめ。

□将来お墓を継承する人がいない
自分が最後の墓守という状況ならば、遅かれ早かれ墓じまいすることに。自分はどうされたいかも考え、今のうちから対策を練って。

□子供に墓守をさせたくない
子供はいるけれど墓守はさせたくないと考えているなら、自分の代で整理するのがベター。ただし、子供が成人しているなら相談を。

□お墓をもつ意義を感じていない
すでに墓守をしているものの、昔ながらのお墓に疑問を感じていたり、お墓に意義を感じていないなら、今すぐ墓じまいを検討しても。

「墓じまい」の代表的なパターン

墓じまいは、どこからどこに移すかによって手続きが異なる。そこで墓じまい代行・終活サービス業の小西正道さんが、墓じまいの代表的パターンを解説!

まずは手順を知っておこう【改葬の流れ】

●改葬元の墓地(霊園)の管理者へ意思を示す
現在の墓所管理者(寺院墓地の場合は住職)などにあらかじめ改葬の旨を話しておくとスムーズに。申請に戸籍謄本などを必要とする場合があるので、しっかり確認を。

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●改葬先の墓地に連絡
墓地永代使用料又は合同埋蔵施設などの費用を納め、受入証明書を発行してもらう。

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書類の入手
改葬許可申請書を入手する(役所に申請書がない場合、受け入れ先にたずねてみる)。遺骨ひとつに一枚の申請書が必要になることが多いので、霊園を管轄する自治体に確認を。


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●改葬元に記入と捺印をしてもらう
改葬許可申請書に必要事項を記入後、改葬元である、現在の墓地管理者に署名と捺印をもらう。

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●役所への申請
すべての書類をそろえ、役所へ提出。改葬許可証を発行してもらう。

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●遺骨の取り出し
遺骨をお墓から取り出す。取り出しは通常、業者が行う。寺院などの場合は、墓前で読経、脱魂式をする場合もあるので、お寺と相談や打ち合わせを。

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墓石撤去工事
工事の日時決定後に着手。

《1》寺院の一般墓地→公営・民間霊園(一般墓地や納骨堂など)

《1》寺院の一般墓地→公営・民間霊園(一般墓地や納骨堂など)
近年目立つのが寺院墓地にある家墓から、公営や民間霊園への改葬。

「まずすべきは、改葬元となる寺院墓地がある自治体への『改葬許可申請書』の提出。その際、改葬先の霊園が発行する『霊園使用許可証』または『受入証明書』と、改葬元寺院の『埋葬証明書』や『墓地管理者証明』といった書類の添付が求められます。後者は、さまざまな呼び方がありますが、その墓地に故人の遺骨が埋蔵されていることを示す書類です」

書類に不備がなければ自治体から「改葬許可証」が発行され、遺骨を引き上げ改葬先に移すことが可能に。

「墓石の撤去は、寺院が指定した石材店に依頼しなければならないので、価格交渉が長引く場合もあります」

《2》公営の一般墓地→公営の合同埋蔵施設(合祀墓)

《2》公営の一般墓地→公営の合同埋蔵施設(合祀墓)
公営霊園の、墓石などがあり骨壺が埋蔵されている一般墓地から、合祀墓(ごうしぼ)などと呼ばれる合同埋蔵施設に移すというパターンも増えている。

「エリアによって手続きは若干変わるため、東京都の都立霊園を例に説明しましょう。改葬先が同じ都立霊園の場合、霊園事務所で『施設変更申請』の届け出を出します(7月・10月・12月の年3回受付)。2~3カ月後に都から申請者に合同埋蔵施設使用許可書が郵送されるので、それを持って霊園事務所に出向き、改葬申請書を記入します」

墓石撤去は石材店などに自分で依頼し、希望があれば寺院から僧侶を派遣してもらい、墓参りや閉眼供養を。骨壺を合同埋蔵施設に移して改葬は終了。

《3》公営・民営の一般墓地→寺院の永代供養墓(合祀墓)

《3》公営・民営の一般墓地→寺院の永代供養墓(合祀墓)
遠方にある公営や民営の一般墓地をクローズし、自宅の近くなど、便のいい場所にある寺院の永代供養墓に移すというケースもある。

「公営の合同埋蔵施設は費用が手ごろで倒産の心配が少ないことなどから人気が高く、申し込みが殺到し、抽選になることも珍しくありません。残念ながら抽選にはずれてしまい、結果寺院の永代供養墓を選択するご家族も少なくないですね。

もちろん、信仰心から寺院を選ぶかたがたもいらっしゃいます」

流れは2の「公営の一般墓地から合同埋蔵施設」とほぼ同様。霊園事務所に出向いて改葬申請書を記入したあと、墓石撤去など返還工事をして遺骨を取り出し、改葬先に納骨する。

《4》公営・民営の一般墓地→散骨

《4》公営・民営の一般墓地→散骨
ここ数年、注目度が上がっている散骨。ところが、小西さんによると、「どの墓地から遺骨を取り出すにしても、散骨する場合は、厳密には『改葬』とはいいません」。

現在の墓地埋葬法には「散骨」の定義がない。つまり法律上、海洋散骨は「改葬」には当たらないというわけだ。そのため、自治体によるものの、改葬申請手続きは原則不要になる。

「散骨の手続きは業者によって異なります。当社では、公営霊園から移す際は、『遺骨引渡証明書』の取得をお願いし、民営霊園の場合は霊園の方針に沿って手続きを行います。寺院墓地から移す際は手続き不要ですが、寺院代表者への承認はとっていただきます」

上手な「墓じまい」のためのQ&A

きょうだいなど関係者同席で親の希望や思いを聞いて

「お墓のことは、親とともに考え、行動するのが理想です」と、小西さん。

 

お墓には誰の遺骨が納められていて、どう管理しているのかといった事務的な話はもちろん、親が今あるお墓をどうしたいと考えているのか、まだお墓がないのなら、どんなかたちを望んでいるのかなど、親の意向を知ると同時に、自分の考えや気持ちを伝えておくことも大切。

 

「親の存命中にお墓の話をすることで険悪なムードになるかもしれませんが、それでも、話し合っておいたほうが絶対にいい。供養は、亡くなったかたのものだけでなく、遺(のこ)されたかたがたのものだと、私は思います。親と話をしないまま、親の死後に墓じまいを決行し、『親不孝だったかも』と思い悩むより、親の考えを知ったうえで決断したほうが、後悔は少ないのではないでしょうか。もしかしたら親も、『子供に迷惑かけたくないから、墓じまいしたい』と考えつつ、いいだせなかったのかもしれませんしね」

 

もしかしたら、親は「子供のためにも」と立派なお墓を生前契約するつもりでいるかもしれない。それが事前にわかっていれば、親に考え直してもらうべく、手を打つことも可能だ。

 

「きょうだいがいるなら、きょうだいそろって親の意向を聞くのがベスト。自分ひとりで進めてしまうと、のちのちトラブルになるかもしれませんから」

Q.墓じまいをするタイミングは?

A.仏教なら3回忌や7回忌など、節目に行う人が多いです
「いざ墓じまい!」と勢い込んだものの、気になるのが、いつ行うべきか。宗教と関連が深いだけに、“適切な時期”があるような気もするけれど……。

「墓じまいのタイミングは人それぞれ。ただ、これまでの経験から申し上げると、宗教的な節目の年に行うケースが多いですね。仏教なら3回忌や7回忌、13回忌、神道なら3年祭や5年祭といった具合です。また家族の誰かが亡くなったのを機にというパターンも少なくありません」(小西さん、以下同)

公営墓地を墓じまいする際は、「施設変更申請」や「改葬許可申請」(自治体によって呼称は異なる)などの届出が必要になり、自治体によっては受付時期が限られている。

「東京都が運営する墓地は7月・10月・12月の年3回になります。都営墓地にあるお墓の場合、そのタイミングで墓じまいをするかたもいらっしゃいます」

Q.合祀墓ならその後のケアが楽そうだけど

A.不特定多数の遺骨と一緒に埋蔵されます
自分たち家族だけで埋蔵されるいわゆる「家墓」に対して、不特定多数の遺骨とともに埋蔵されるのが、「合葬式共同墓」。一般的には、「合祀墓」や「合葬墓」と呼ばれ、最近は「永代供養墓」と称する寺院も増えている。大人数の遺骨がひとつのお墓に埋蔵されるため、土地利用料が格安で、墓石を購入する必要もない。結果、費用が抑えられる。また、個人で管理しなくてもよいというのもメリットだ。

「合祀墓の中には専用区画を設けているところもありますが、それはごく一部。基本的には、知らないかたの遺骨と一緒に、どれがどなたの遺骨かわからないかたちで埋蔵されます。埋蔵したあとにそれが気になって、『合祀墓から遺骨を出したい』と希望するかたもいるようですが、それは無理な話。なので、よく考えて選んでください」

合祀墓にかぎらず、どのタイプのお墓にもいえることだが、メリットとデメリットを十分比較し、家族でじっくり相談して決めたい。

Q.永代供養なら安心?

A.永代=永久ではありません
改葬にかぎらず、新たにお墓をという人たちに支持されているのが、永代供養墓という選択。ここで誤解してはいけないのが、お墓に「永代所有」はなく、「永代使用」または「永代供養」のみで、その「永代」は永遠や永久を約束されたものではないということ。

「永代供養墓には、当初は専用墓で一定期間が過ぎたら合祀墓に移すタイプと、初めから合祀墓に埋蔵するタイプがあります。前者の場合、宗教にもよりますが、仏教だと33回忌を機に合祀墓に移すことが多いですね。私が最も懸念しているのは、永代供養をお願いしたはずの墓地が、この先何年存続するかということ。少子化に加え、昨今墓じまいに踏み切る人が増えていて、この先お墓の需要はますます減っていくでしょう。公営墓地はともかく、民間霊園や寺院の中には、すでに存続が危ぶまれているところが少なからずあります。その意味では、『永代使用』をうたっている墓地も例外ではありません」

これからお墓を探すなら、そのあたりもリサーチして選ぶのが賢明だ。

Q.離檀交渉はどうすればいい?

A.代行サービスを行う業者に任せるという手も
寺院にお墓がある場合、離檀交渉でトラブルになることも多いよう。

「スムーズに運ぶことがある一方、高額の離檀料を請求されたといった事例もあります。離檀料は長らく続いた慣習ではありますが、定価があるわけではなく、いわばお寺の言い値。高すぎると思ったら、交渉してかまいません」

自分で交渉する自信がなければ、墓じまい代行サービスを活用するのも手。離檀料の交渉のほか、改葬の手続きなども委託可能だ。その際、あらかじめ「墓じまいしたい」という連絡は寺院に入れておくのがベター。ただし、離檀料などを提示されてもその場でサインなどはせず、「検討します」とだけ答え、詳細は業者に任せて。

「とはいえ、なんらかの理由でお寺と直接連絡をとりたくないかたも増えています。その場合、当社では、最初の意思表示の段階からサポートさせていただくことも可能です」

Q.墓じまい業者の見極め方は?

A.墓石の処理についても確認を
「墓じまいのニーズが高まるにつれ、代行業者が増えています。けれど、残念ながら、確かな仕事をしてくれる業者ばかりではありません。トラブルを避けるためにも、複数の業者を比較し、慎重に選んでください」

見極めるポイントのひとつは、電話や面会時の対応。取次のみで実際の作業は別会社に委託しているような業者は、中間手数料が発生するため金額が高くなるうえに、最後まで責任をもって遂行してくれるとはかぎらない。過去には、撤去した墓石がきちんと処理されず、不法投棄されていたという事例もあるそうだ。

「立派なホームページに、高評価な“お客さまの声”を掲載しているところもありますが、それが本当かどうか確かめるのは困難。なので、必ず電話や対面で、料金や墓石の処理を含めた対応を確認してください。対面の場合、ひとりではなく目がきく人に同行してもらうのも一案です」

Q.墓じまいの料金、目安は?

A.ケースバイケースですが約4万円/㎡~
墓じまい業者に見積もりをとったところ、墓石の撤去や運搬だけで100万円、200万円といった金額が提示された。そんな怖~い話も耳にするけれど、実際のところどうなのだろう。

「墓石の撤去は大きさによりますから、著名人が埋蔵されるような巨大なお墓ならあり得るかもしれませんが……。一般的なお墓でその金額はないですね。ただし墓石撤去は、大きさだけでなく立地なども関係するので、一概にいくらと言い切れないのも事実です」

割高になる要因は、「墓石が大きい」「盛り土が高い」「重機が入れない場所にある」「墓石が新しくて壊しにくい」「工事業者の所在地から墓地まで遠い」「中間業者が入っている」など。

「一般的なお墓であれば、1㎡あたり4万円~、10万円前後が多いといわれています。いずれにしても見積もりをとり、明細をきちんと説明してもらいましょう」

お墓を持たない選択肢「散骨」について

関心が高まっている「散骨」という選択

関心が高まっている「散骨」という選択
お墓をもたない方法として注目の散骨だが、実際はどんなものなのだろう。「散骨に法律的定義はありませんが、厚生労働省のガイドラインでは、焼骨を遺骨とわからない程度の粉状に砕くことが求められています。自分で行ってもかまいませんが、時間も労力もかかるため、業者に依頼するのが一般的です。多くはありませんが、粉骨サービスを行っている火葬場もあります」

散骨場所は海のほか、山や森林などが候補になるが、当然ながら他人が所有する土地はNG。民間霊園や寺院の敷地内にまくケースが多い。海に散骨する場合も、港や沿岸にある公園施設、養殖施設や生け簀(す)があるような場所は避けるのがマナーだ。

ちなみに海洋散骨に決まった形式はない。どの地点に散骨するかや船上セレモニーの方法など、依頼主の要望に応じたオーダーメイドが主流だ。「当社の場合は、海のどの地点に散骨したかを記した『散骨証明書』を出していますが、すべての海洋散骨業者がしているわけではありません。業者ごとの特徴を比較し、料金も含めて納得いくところを選んでください」
小西さんが運営する「散骨想」は相模湾や東京湾での散骨が主体。プライベート散骨は1体分の遺骨粉末化込みで17万円~

押さえておきたい「お墓事情」

近年、驚くほど進化&変化しているお墓事情。押さえておけば、自分に最適なかたちが見つかるかも!? 3つの新事情、ぜひ、参考にしてみて。

少子化の波はこんなところにも。納骨堂が倒産!

昨秋、世間を驚かせたのが、北海道札幌市にある納骨堂の閉鎖。「永代供養」や「駅近」とうたい、ロッカー式のお墓を1区画30~250万円で800基弱を販売。ところが、半数近くは“空室”状態で、経営がずさんだったこともあり、運営していた宗教法人が破綻してしまったのだ。競売にかけられた建物は不動産会社が購入したものの、お墓を運営できるのは自治体や宗教法人、公益法人のみ。民間企業は運営できないため、納骨堂の存続は不透明。利用者が遺骨を引き上げても、利用料の返還は期待できないとか。都心を中心にビルタイプの納骨堂は増えているけれど、供給過多で、経営が危ぶまれているところも少なくない。契約前に経営状況は必ずチェックを。

【今から知っておきたい!墓じまいのこと】進化している!お墓の新事情3選

“おひとりさま向け”終活サービスも登場

おひとりさまにとって気がかりなのは、「私が死んだら、誰が埋蔵してくれるの?」ということ。それに対応する終活サービスは、民間だけでなく自治体にも広がりつつある。先駆けになったのは、神奈川県横須賀市が市内在住の低所得な高齢者を対象に展開している「エンディングプラン・サポート事業」。利用者に民間の葬儀社を紹介して生前契約を結んでもらい、利用者の死後、葬儀や埋蔵などが希望どおりに行われるかどうかを監視、サポートしてくれる。

民間のおひとりさま向け終活サービスの中には、お墓探しや墓じまいにとどまらず、遺品整理や相続・遺贈の手続きを代行してくれるところも。内容や費用を比較し、自分が利用しやすいサービスを見つけたい。

手元供養のバリエーション増加中!

自宅に遺骨や遺灰の一部、またはすべてを保管して供養をする「手元供養」。以前から、お墓をもたないという選択をした人だけでなく、お墓が遠方にあってお参りできない人の間で人気が高いスタイルだ。

コンパクトな仏壇に小さいサイズの骨壺を置いて供養するスタイルをはじめ、ペンダントなどに納めるアクセサリータイプ、プレートに納めるタイプも普及。今では、ぬいぐるみの中に真鍮などの骨壺を入れたものや、お地蔵さまの中に納めるものなど多種多様に。江の島全景やラグビーボール、故人が好きだったものにちなんでモニュメントを作成するなんてことも可能だという。さらに、数十万円~200万円ほどかかるものの、遺骨からダイヤモンドをつくり、指輪やネックレスに仕立てるというゴージャスなものも!

【読者の体験談】「実家じまい」、私の場合。

“期限つきの個別墓”を義理の両親が生前契約(54歳・フリーランス)

先日、義理の両親が、自宅から電車で30分の場所にあるお墓を生前契約しました。契約から30年間は個別墓を使用でき、31年目からは同じ敷地内にある合祀墓で永代供養してもらえるそう。個別墓には骨壺が4つまで入れられるので、夫は「僕も、30年以内に亡くなったら、そこに入れてもらおうかな」と。わが家は娘だけなので、義理の両親がお墓を新たに建てたら、いずれ私が墓じまいすることになると覚悟していたのだけど、その必要がないことを知ってホッとしました。お義父さん、お義母さん、ありがとう!

 

母の実家の墓じまいをし、遺骨8体分を海洋散骨に(50歳・派遣社員)

昨年母が亡くなったあと、母が墓守をしていた田舎のお墓を閉じたのですが、そこに埋蔵されていたのは祖父母と親戚、合計8体分の遺骨。うちは姉と私のふたり姉妹なので、新しくお墓を建てても継承する人がいない状況。永代供養墓を契約するにしても、母も含め計9つの骨壺を納めるとなると費用がけっこうかかるみたい。墓じまいだけでも100万円以上かかったのに(泣)。そんなときに知ったのが海洋散骨。実家は湘南で海に近いし、費用も手ごろだったので、父も大賛成。「自分のときも母と同じ海に散骨を」といっています。

親の本音を聞く「エンディングトーク」

実家じまい&墓じまいの話題を、親に上手に切り出すアイデアを、4人の専門家がアドバイス! さらにはは、親と必ず話しておきたい必須項目もご紹介。

ニュースなどをきっかけに世間話として切り出して

実家じまいも墓じまいも、事前に親と話し合っておくのが大切。とはいえ、親の死を意識する話題だけに子供からは切り出しづらい。「改まってではなく、著名人や知人が亡くなったときに、『大きな家だったから相続税が高かったらしいよ』などと、世間話として切り出しては? 『ウチはいくらくらいかしら』と関心を抱いてくれるかもしれません」(長谷川さん)

 

小西さんが提案するのは“エンディングトーク”。

 

「ねらい目は、納骨堂倒産のようなお墓関連のニュースが出たとき。『お墓も倒産する時代だから怖いね。うちのお墓はどうかな』など、雑談の中でも、親の意向を確認することは可能だと思います」

 

もっとも岡本さんによると、終活の普及で、親世代もそうした話題への抵抗感が薄れつつあるとか。「お正月やお盆など、親族が集まった機会を利用し、『最近こういう施設ができている』のように軽めの話題から始めるといいですよ。親のことを心配しているという姿勢も忘れずに」(岡本さん)

 

「エンディングノートも、ぜひ活用を。まず子供が作成し、『お母さんもどう?』と促すと受け入れてもらいやすいですよ。大変な作業なので、親子で気長に取り組み、できるところから記入を。作業を通じて、親子の絆がきっと深まると思います」(上野さん)

【今から知っておきたい!実家&墓じまいのこと】“エンディングノート”で徐々に準備を

親と必ず話しておきたい必須項目「実家じまい」編

家の権利関係
共有名義の場所や、問題を抱えている土地があるかどうか。
家や土地などの権利関係は、親が存命中に確認すべき筆頭事項。土地の一部が共有名義だったり、境界線があいまいだったりと問題がある場合は、売却がむずかしくなる危険性もある。

終の棲家
今の家に住み続けたいかどうか。
終の棲家にしたいのは、現在の住まいか、それともいずれは利便性がよいマンションや介護つき高齢者施設に移るつもりなのか。心身がどういう状況になったら住み替えたいかも確認を。

リフォームや住み替えの費用
預貯金や不動産がどれくらいあるか。
リフォームも、住み替えも、老後資金がどのくらいあるかによってかけられる予算が変わってくるので、なるべく正確に洗い出しを。あわせて毎月の収入と支出も聞いておきたい。

家財
受け継いでほしいものがあるかどうか。
子供や孫、親類、友人らに受け継いでほしいものがあるか、おおまかでもよいので把握しておきたい。それが、家財整理を、作業だけでなく精神的にもスムーズに進めるポイントに。

親と必ず話しておきたい必須項目「墓じまい」編

お墓の場所や数
現在墓守している墓はどこにいくつあるのか。

自分はお参りに行ったことがないだけで、家墓以外にも、親が管理しているお墓が複数ある可能性もゼロではない。知っているつもりにならず、今一度親に確認しておくのがベター。

お墓の承継
墓守をしている墓を引き継いでほしいかどうか。
親が現在墓守をしているお墓を、自分たち子供に引き継いでほしいかどうかも、ぜひ聞いて。墓じまいを考えているなら、その後の遺骨の埋蔵法についても話し合っておきたい。

自分の墓
どこの墓に入りたいと思っているのか。
すでにお墓がある場合、その墓に入るつもりかどうかも聞いておきたい。「婚家ではなく、実家のお墓に埋蔵されたい」と希望する母親もいるので、その場合どうするかも相談を。

お墓の形態
家墓と合祀、どちらが希望なのか。
寺院の墓地か公営や民間の共同墓地か、家墓か合祀墓か、納骨堂か樹木葬かなど、なるべく具体的に聞いて。樹木葬のような新しい形態はメリット・デメリットを説明することも必要。

タレント・松本明子さんのリアル体験談「実家じまい」

「いつかやらなきゃ」と思いながら、先延ばしにしがちな「実家じまい」。実家の空き家問題がNHK『クローズアップ現代+』などで取り上げられ、大きな反響を呼んだタレント・松本明子さんから、実体験をもとにお話を伺った。
タレント・松本明子さん

タレント・松本明子さん

まつもと あきこ●’66年、香川県生まれ。’82年日本テレビ『スター誕生!』で合格し、翌年歌手デビュー。『DAISUKI!』『進め! 電波少年』などのバラエティ番組に出演した“元祖バラドル”。実家の空き家問題がNHK『クローズアップ現代+』などで取り上げられ、大きな反響を呼んだ。

“思い出”と決別できず、空き家の維持に25年。父が他界したとき、母に意向を聞くべきだったと後悔。

両親も私も実家の維持に疑問をもたなかった理由

明るいキャラクターが支持され、バラエティ番組を中心に活躍を続けている松本明子さん。節約上手としても知られているが、空き家となった実家を25年間維持しつづけた結果、1800万円もかかってしまったのだとか。

 

「父が香川県高松市の郊外に建てた、宮大工さんによるこだわりの家でした。ただ私が住んだのは中学卒業までの10年間。兄も進学で家を出たので、私が上京して歌手デビューしたあとは両親だけで住んでいました」

 

売れない時代を経て仕事が順調になったのは、『進め! 電波少年』などのバラエティ番組に出はじめてから。

 

「芸能界入りに反対で心配していた両親に“やっと親孝行できる”と思いましたね。それで東京に呼び寄せたのですが、忙しくて家事に手が回らなくなっていたので、“手伝ってほしい”という気持ちもありました。両親もそれはわかっていて、“臨時で呼ばれた”と思っていたはずです。生活用品は実家に残していたし、年に数回は掃除やお墓参りのために帰っていましたから」

父からの“実家のことを頼む”という言葉が呪縛に……

当時は賃貸マンション暮らしだった松本さんだが、3年後両親と共同で建売住宅を購入することに。

 

「それでも“高松の家はどうする?”という話にはならなかったんです。たぶん両親は“もっと老いたら高松に戻りたくなるかも。芸能界は浮き沈みが激しいから明子が住む日がくるかも”と思っていたのでは。私も同じだったので、“高松の家は置いておく”ということになんの疑問ももちませんでした」

 

やがて結婚した松本さんは夫の実家に転居。松本さんの両親はそのまま戸建てに住み続けた。

 

「そのころには両親も東京暮らしに慣れてきて、“このままここにいるんだろうな”と思っていたでしょうね。高松に帰る頻度も減っていましたから。そんなとき、父が病に倒れたんです。亡くなる前に残したのが“明子、実家を頼む”という言葉。兄はマイホームを購入していたし、私の将来を気にかけて維持した家だったので、私が継ぐことは家族で了承済み。ただ父の遺言を聞いて、改めて責任を痛感しました」

 

さらに4年後、闘病中だった母が他界。両親を相次いで失ったことは、松本さんに大きな喪失感を与えた。

 

「人が亡くなるって本当に大変なこと。ゆっくり悲しむ余裕もないまま、半年ほどは銀行や役所の手続きに追われました。その前から母の介護と育児と仕事で多忙だったうえ、体は更年期の入口にさしかかって。いろいろなことが重なってバランスがうまくとれない状態が続いて、喪失感から抜け出すのに3年くらいかかりましたね。そんなことから、実家のことが後回しになってしまったんです」

小高い山の上の、石垣も立派な高松の実家
小高い山の上の、石垣も立派な高松の実家
カラオケ好きだった父、きもの好きだった母と
カラオケ好きだった父、きもの好きだった母と
25年間そのままだったダイニング
25年間そのままだったダイニング
「ものまね王座決定戦」などのトロフィーも思い出の品
「ものまね王座決定戦」などのトロフィーも思い出の品
【タレント・松本明子さんの「実家じまい」リアル体験談〈後編〉】こだわりの家の価値はゼロ!? 実家じまいで疲労困憊

こだわりの家の価値はゼロ!? 売却や家財整理で疲労困憊

実家を維持した25年間で松本さんは2回大きなリフォームをしている。
 
「最初は東日本大震災のあと。“東京になにかあったら避難できる”と思ったんです。2回目は実家じまいの前。“売るにしろ貸すにしろきれいなほうがいい”と考えてのことでしたが、2回で合計600万円かかりました。帰省が体力的にきつくなっても維持費がかさんでも決心がつかなかった実家じまいでしたが、最終的に背中を押してくれたのは夫や義母の“お母さんが亡くなって10年だしもう手放してもいいのでは”という言葉。さらに大きくなった息子はこの先も高松に縁はなさそうだとわかってきて、“私の代でこの問題を終わらせなければ”と思えたことも大きかったですね」

“思い出を処分した”という新しい思い出に変えました

ところが不動産屋さんの査定では「リフォーム済みでも築年数が古いので上物の価格はゼロ、売却価格は土地代の200万円」。現実を知った松本さんは大きなショックを受けたが、香川県が運営する空き家バンクに登録して賃貸と売却両方の道を探った。
 
「賃貸はむずかしいとすぐにわかり、長期戦での売却を覚悟しましたが、希望額の600万円で購入したいというご夫婦がすぐに現れたんです。ラッキーでしたが、“早く住みたい”といわれ、3カ月で家財や遺品を片づけることに。期限間近の10日間は泊まり込みになって、死ぬほど大変でした」

苦笑する松本さんだが、肩の荷を下ろした今気づいたことがあるという。

“いつか住むことがあるかも”とリフォームにも出費

「結局私自身が思い出たちと決別できなかったから、家じまいができなかったんです。すべてのものに目を通して思い出を自分の中に取り込み、“思い出を処分したという思い出”に変えられたことで、自分を肯定できるようになった気がします。ひとつ後悔しているのは、父の死後実家について母に相談しなかったこと。正解は出なかったとしても、母も私も気持ちに区切りをつけやすかったかもしれません」
 
そんな松本さんが最近悩んでいるのは両親が眠る高松のお墓の問題。
 
「これも父が建てた立派なお墓なんです。なかなか帰省できないので、関東に移したいのですが……。兄や親戚とも相談中ですが、息子世代の負担も考えなきゃと思っています」

松本明子さんの「実家じまい」年表

1972年(6歳)
父が高松市郊外にこだわりのマイホームを建てる。(5DKで上物約2000万円・土地約1000万円、計約3000万円)
 
1982年(16歳)
上京して高校に入学。翌年アイドル歌手として芸能界デビュー。
 
1993年(27歳)
両親を東京に呼び寄せ、賃貸マンションで一緒に暮らしはじめる。
 
1996年(30歳)
父が頭金を出し、明子さんがローンを組んで、東京に建売住宅を購入。
 
1998年(32歳)
俳優の本宮泰風さんと結婚し、本宮さんの実家に転居。両親は明子さんと住んでいた東京の家で暮らし続ける。
 
2000年(34歳)
長男を出産。
 
2003年(37歳)
「明子、実家を頼む」と遺言を残し、父が死去。
 
2007年(41歳)
母が死去。
 
2011年(45歳)
東日本大震災を機に、いざというときの避難場所にするため、350万円をかけて実家をリフォーム。
 
2017年(51歳)
母が亡くなって10年たち、実家じまいを真剣に考えはじめる。250万円かけて2度目のリフォームをし、空き家バンクに登録。希望額の600万円で購入したいというご夫婦が現れる。
 
2018年(52歳)
引き渡し期限までの3カ月で実家の家財や遺品を整理、処分。空き家の維持を25年間続けた結果、かかった費用は計1800万円に。

『実家じまい終わらせました!』

『実家じまい終わらせました!』
実家じまいで大赤字を出した松本さんが25年間を振り返りつつ、実家の処分・家財整理・墓じまいの専門家に問題点を相談。あらゆる疑問に答えた入門書。
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    どう受け止める?いつか必ずくる”親との別れ”人それぞれの別れ方

    アラフィー世代にとって、「親の死」は決して遠いものではない。"その時"を、冷静に、穏やかな気持ちで迎えられるかと聞かれると、答えに窮する人も多いのでは?避けることができない親との別れ、それをどう受け止めればいいのか。親を見送った人の体験談や看取りの専門家のアドバイスをもとに、一緒に考えてみませんか。

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